表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/143

52. ライラと四人の婚約者

 その日の夕方。ここは王宮の片隅にあるトイレです。ボロボロのマントを羽織った女憲兵が、鼻をつまみながらブラシで便器を磨いています。


「バット殿、そろそろ帰りましょう」


 フードで顔を隠した人物が声をかけます。


「キャシー? ダメダメえ。ここを掃除しないとノヴァス陛下、じゃなくて最高戦士長閣下に怒られるんだよお」

「コオリスズメバチの騒動は終わりましたよ? たぶん命令も撤回されるはずです」


 それを聞いたバットは、ブラシを放り投げました。


「よし。帰ろう」

「はい。帰りましょう」


 カジが目を細めてキツネみたいに笑います。


「キャシー、その箱、まだ持ってたのお?」

「ええ、気に入ったのでもらってきました。ちょうど良いサイズだったので」


 カジは両手で箱を抱えています。それは盗賊カジーの生首を入れるのに使った箱でした。

 二人並んで、堂々と正門から王宮を出ました。


 同じころ、エイブリーのパン屋の前に豪華な馬車が止まりました。長い手足でヨロヨロと降りてきた長身の人物はロアでした。秘書官にゆっくり買い物をするから後で迎えに来るよう告げると、ボロボロの身体でドアをノックします。

 通信器とカジの声真似を使った逆転の一手はロアの作戦でした。作戦の成功と自分の生還をライラに祝ってもらうつもりでしたが、ひとつ大きなミスがありました。なんと、一番最初に来てしまったようです。ノックに返事がありません。

 仕方がないので扉に寄りかかると、ホッとため息をつきました。


 次に現れたのはブレッドです。馬を繋いで工房へ戻ると、扉の前にいるロアを見つけました。

 無言で拳を差し出します。ゴツンと互いの拳をぶつけ合いました。


「よく無事だったな。死んだと思ったぜ」

「ええ、ボクも一日に2回もウォッチに捕まるとは思いませんでした。まあ、最初のはウォッチのフリをしたカジだったんですが」


 ロアを目隠しして尋問していたのは、ウォッチの声真似をしたカジだったのです。カジは勘違いから、ロアの裏切りを疑っていました。潜伏している自分をウォッチに売られると考えて、ロアを尋問してしまったのです。

 ひどい誤解でしたが、おかげでロアはカジの声真似の精度を実感します。逆転のアイデアを閃くことができました。自分が持っていた通信器をカジに渡して、ライラと合流するように言ったのです。

 ロア本人はあえてそのまま、拘束された状態で本物のウォッチに発見されます。コオリスズメバチが現れたので、通信器を使って外部と連絡をとろうとしたが、そこを盗賊カジーに襲われてしまった。こう証言することで、自分の身に疑いがかかるのを避けたのです。


「完璧な作戦だったぜ」


 ブレッドが笑いますが、ロアの表情には暗さがあります。


「いえ。ジュリアンをコオリスズメバチにしたのは失敗でした。まさか駆除されてしまうなんて。ライラはどうでした?」


 ジュリアンが死んでしまったとしたら、ライラはショックを受けているはずです。


「もうボロ泣きだったぜ。覚悟しとけよ」


 ロアの失策を責めるみたいに、ブレッドが腹を突きます。カジにやられた傷が痛むのか、ロアが顔を歪めました。


「ちょっと! 勝手に殺さないでよ!」


 ジュリアンでした。


「ブレッド。いじわる言わないで」


 ぐったりしたジュリアンをライラが支えています。

 ロアの表情がパッと明るくなりました。


「ジュリアン! どうやって助かったんです!」

「コオリスズメバチになって、しばらくしたら意識は戻ったんだけど、変身が解けなくなっちゃって。そこを虹眼族の友人に助けられたんだ。駆除したフリをしてポケットに隠して連れ出してくれた。リラックスしたらもとに戻れたよ。まだ疲労でガタガタだけどね」


 コオリスズメバチを駆除した暗黒卿とはモールのことでした。モールはジュリアンがネコから戻れなくなったのを知っています。状況を察して助けにきてくれたのです。


「それで竜ノ卵は?」

「ここだ」


 箱をもったカジが現れました。


「すべて俺様の手柄だな」


 キツネみたいな顔で笑います。


「バカ野郎」

「まあまあ、落ちついて」

「中で開けよう」


 ブレッドが鍵を開けると、全員でゾロゾロと工房へと入ります。テーブルの上に箱を置いて、蓋を外しました。

 箱の中には、人の頭ほどもある大きな卵がぴったりと納まっています。

 ライラと四人の婚約者たちは、お互いに抱き合って、肩を叩き、涙を流して、大笑いしました。

 ついに竜ノ卵を盗み出したのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ