1. ライラ、小国の姫になる
これはわたしの母がそのまた母から聞いた不思議なお話。国宝の「竜ノ卵」を盗み出した怪盗団の物語です。
ベラムールという小国に「ライラ」という姫がいました。フルネームはライラ・ブロッサム。ライラはまだ若いノヴァス新王の従兄弟でしたが、その身分は降って湧いたようなものでした。彼女の叔母である「アニー」はジャスタス先王の側室でした。ジャスタスの死後、アニーの息子ノヴァスが新たな国王に即位します。そしてアニーは「国母アンネリーゼ」を名乗るようになりました。たんなる田舎の平民だったライラは、ある日突然高貴な身分となってしまったのです。
ライラは平凡な娘でした。これまで大きな悪事をしたことも、何かで一番になって表彰されたこともありません。他人からは明るい性格や小さな心配りを褒められるくらいで、自他ともに認めるような特技もありません。ひとりで本を読んだり、みんなと食事をする時間が好きで、昼は植物の世話をして夜は糸を紡ぐ生活にも不満はありませんでした。
ところが叔母に呼ばれて王都に来てからというもの、ライラの人生は迷走をはじめます。彼女の苦悩はとても一言では説明できませんが、それでも一言で説明するならば、こうなるでしょう。
ライラには四人の婚約者がいたのです。
ライラはこの異常な事態を解消するため、四人の婚約者たち全員を自宅に集めることにしました。