超人、矢野海人
俺には特別な力がある。
あっ、今のは俺が中二病という訳じゃないぞ。
確かに他の人にはない力があるんだ………。
「よ~し! 最後に各自組み手じゃ! 海斗、お主はワシが相手じゃ!」
「はい、師範」
俺は毎日、近くの道場に顔を出している。
教えているのは空手だが、この師範はいろいろかじっていて、様々な武術を取り入れている。
「覚悟せい!!!」
この目の前にいる柳井じいちゃんは、とても強い。
そんじゃそこらの大人が寄って集っても勝てないほどに。
「まだじゃぞ!!!」
強いはずなんだが、俺にはその突きや動作が見えてしまう。
「このスバシッコイ小僧め、今日こそ一本取ってやるわい!!!」
ましてや、俺からの攻撃なんぞもっての他。
「本気を出さんか!」
「それじゃ…お言葉に甘えて」
柳井じいちゃんの突きを避けざまに、足を引っ掻ける。
「ありゃ!」
ドンっ!
という音と共にその場に仰向けに倒れる。
「はい、俺の勝ちですね」
今度はバキッ!
という音とともに振り下ろした拳が、柳井じいちゃんの顔をかすめ、道場の床を貫く。
「どぅも…すみ…ませんでした………」
真っ青になった柳井じいちゃんは気絶する。
数分後……
「いや~、やっぱりお主には敵わんわい!」
「そうだろ、だったら…」
「そんな事言わずに、おねが~い、この道場継いで!!!」
「それは俺に勝ったらって…」
「あんなもん反則じゃ!!! でもお主が継いでくれたら、もう思い残すことはないんじゃ! ね~お願い!!!」
「あのな~俺には人を導く資格なんてねぇんだよ…」
「お主、まだあの事を引きずってそんなことを! 見ろ! この生徒達の尊敬の眼差しを! 最早、ワシより人気者じゃろが!」
「それとこれとは別だろ!」
この道場とは腐れ縁だ。
小学生の時に、強くなりたくて入門した。
だが、中学三年生に上がる時に、異変が起きた。
自分でも引く程に身体能力が上がっていた。
最初は、これが穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の……
とも思ったが、まだ原因不明だ。
「海斗兄ちゃん! どうしてそんなに強いんだよ!?」
こいつは中学一年の大介。
最近入門したらしいが、すでに俺に懐きつつある。
「まぁそうだな…兄ちゃんにもわからん・・・」
「なんだよ、それ?」
「こら!!! 大介! 貴様練習は終わったのか!」
「とっくに終わってるよ! 師範が気絶した時にね。ベーだ!」
「このガキ! 師範に向かってなんじゃそれは!」
「まぁまぁ、師範も落ち着いて」
「それで、組み手は勝ったんじゃろな!」
「負けたよ、俺の方が年下で経験少ないから当然だろ!」
「負けたのに、その態度はどういう事じゃ、近頃の若い者は!」
と、こんな感じで毎日道場では、バタバタとしている。
とある日、学校にて。
「よーし、今日の体育は体力測定だ! まずは五十メートル走からだぞ! みんな並べ!」
体力測定か…。
目立たない。
しかし、評価は落とさないように。
「よし、次! 神崎と矢野!」
「矢野君、君と再び競い合えることを楽しみにしていたよ!」
「はぁ…」
誰だこいつ、神崎っていったな。
どっかで会ったっけ?
まぁいい、相手はサッカー部。
コイツの後ろをついて行けば、それなりの成績に繋がるだろう。
「よーい、ドン!!!」
スタートダッシュで一瞬先行する。
やべっ!
ちょっと力み過ぎたな…
もう少し抑えてっと。
「スタートはなかなかじゃないか! しかし、この俺は後半の伸びこそ最大の武器なのだ~!」
神崎は叫んでいる。
よく叫びながら走れるもんだ。
それだけは尊敬だな。
徐々に神崎が、矢野を追い越していく。
よし、これくらいの差でついて行けば……
「うぉー! 二人とも速ぇぞ!!!」
「神崎は速いと思ったが、矢野もここまでとは!」
あれ、なんか一目置かれてるな……
マズイ、もうゴールだ。
「神崎! 五秒九」
「矢野! 六秒ジャスト!」
このサッカー野郎! こんなに速かったのか!?
「どうだ…ゼーハァ、ゼーハァ……今度は俺の勝ちだぞ!」
神崎は手を膝に付き、地面に顔を近付けて言う。
「そうだな~、負けたよ」
俺は軽く流す。
「おい矢野! 話がある!」
体育教師が近寄ってきた。
なんだか、先生、生徒全ての視線がこっちを向いてる気が…。
「頼む! 陸上部に入ってくれ!!!」
先生は公衆の面前で堂々の土下座を見せつける!
「絶対に嫌です」
「・・・」
「先生、矢野君は陸上部には入れないんですよ」
おっ!
いいフォローだぞ神崎!
「なぜなら、彼は僕と一緒にサッカー部でインターハイを目指すからだ!」
はい?
「そうなのか? 矢野?」
「いや、そんな事は決して、断じて、総じてありません!!!」
「そんな、君は僕に負けたんだ! 敗者は勝者に従って貰おう!」
「お前の理論なら、俺は前に勝ってるらしいから、まだドローだろ」
「くっ! なんて悪知恵の働くやつなんだ!」
「神崎にだけは言われたくねぇよ」
「どっちでもいいから入ってくれよ!」
「嫌です!」
「断固拒否だ~!」
また、厄介な奴に目を付けられちまったな……。




