私、高校生になります!
「どうオネェちゃん、番号あるかな?」
「もうっ! 自分で確認しなさいよ、あんた頑張ったんだから! ほらこっちこっち!」
「う……、わかった」
私は掲示板を見る。
えっと……、二百三番、二百三番は~。
「あった……」
「あったよオネェちゃん!」
「良かったね! 美咲!」
「うぇ~ん! よかったよ~! 私頑張ったよ~!」
「ほらそこに立って! 写真取ったげる! お母さんにも報告しないとね!」
「うん」
私の名前は九条美咲。
今日より宇美第一高等学校へと入学します。
中学までは地味で、何もできなかった私。
この学校では、青春らしい事を感じれたらいいな。
体育館での入学式も終わり、クラスでのオリエンテーションが始まった。先生の話も終わり、ついに一人一人自己紹介が始まる。
「はい、よろしく~! それじゃ次、九条さんお願いします」
「はい!」
私の番だ。
その場に起立する。
「宮瀬中学校から来ました九条美咲です。趣味は読書です。よろしくお願いします!」
パチパチパチパチ……。
拍手とともに、ヨロシクとの声が聞こえる。
はぁ、結局また無難な事を言っちゃった……。
と言っても、これといって趣味も好きなこともないからな~。
「それじゃあ次、矢野海人君、お願いします」
「はい!」
うわ、後ろの男の子、背が高いな、しかもビジュアルもなかなか。
運動もできそうでポテンシャル高そうだな~。
「若松中学から来ました、矢野海人といいます。趣味は人をバカにする事です。どうか俺に話しかけないで下さい。以上です」
「えっ!?」
教室内が静まり返り、拍手を皆忘れ、彼を凝視する。
私はこっそりと話しかける。
「えっーと、冗談だよね……」
「黙れこのメス豚が!」
「なっ!」
お母さん。
私の学校生活は前途多難な様です。
「おい、矢野君、あとで職員室に行こうか」
「わかりました、先生」
あんなに口悪いのに、物分かりいいこと。
「え~、今から一年間はこのクラスで過ごす事になります。皆さん、仲良くするように」
「は~い!」
「それじゃ今日は解散!」
クラスの顔合わせが終わり、皆家に帰る。
「九条さん、九条さん! ちょっと」
私を呼ぶ声がする。
そう思い、隣の席を見ると、女の子が一人こちらを向いている。
「私、有瀬加奈子って言うの、隣同士宜しくね!」
「はわわ、こちらこそ宜しくお願いします」
「なんか堅いね、美咲は。あっ、うちの事は加奈って呼んでよ!」
うわ~、この人コミュ力高そうだな。
でも、感じが良くていい人そう。
「うん、宜しくね……加奈ちゃん」
「明日からヨロシク!」
お母さん、私の学校生活は何とかなりそうです……。
……翌日より、授業が開始し、憧れの高校生活が始まった。
「は~、私ギリギリでここ受かったから、勉強遅れないようにしないと~」
「もうそんな事考えてんの! 美咲、大丈夫だって、テスト前に頑張ればいいんだっての! 高校生は青春を謳歌してなんぼよ!」
加奈ちゃんは余裕あっていいな。
でも、この性格が今の私を産んでる気がする。
確かに加奈ちゃんを見習わないと。
「例えば恋愛とかね!」
「恋愛ですか……」
「そうよ、例えばあそこの神埼君なんてタイプじゃないの?」
確かに爽やかなイケメンだろう。
昨日の自己紹介では、確かサッカー部だって言ってたような……。
でも、何だか遠い存在なのか、何とも感じない。
「んー、あんまりかな……」
「えっー! 美咲は面食いなんだね~!」
「いや、そんなんじゃなくて……」
「じゃあどんな男が好みなのよ?」
そんなの、考えたことないよ……。
えっと……えっと……うーんと。
私は咄嗟に目の前に写った男子を指差した。
「あの人とか……」
「!?」
「えっ~と?」
「美咲、あんた危ない人が好みなの?」
「別にそういうわけじゃ……」
「矢野はやめときなって、同じ中学だった私だから分かる。アイツはヤバいよ!」
「そうなの?」
「矢野ってさ、顔も良くて、運動神経も抜群、成績もめちゃくちゃ良い完全無欠の男なんだけど、一つだけ欠点があるとするなら、まるで自分以外の人間を軽蔑してる所……」
「軽蔑?」
「あんなだから中学でも、バレンタインデーにチョコ貰ったり、告られたりしてたんだけど、相手の女の子は皆泣いて帰ってきたって話だよ……」
「そりゃ、すごいね……」
「そーよ! あんなのと付き合ったらDVでも受けるに決まってるわよ!」
「あはは……気を付けるよ」
そんなに怖い人なのだろうか?
確かに昨日はびっくりしちゃったけど、そう言われると気になるような……。
「はい、ホームルームはこれで終わりです、みなさん気を付けて帰ってください!」
「は~い!」
「美咲! 一緒に帰ろう!」
「うん、加奈ちゃん」
始まってすぐ、一緒に帰れる友達ができたのはラッキーだな。
「そういえば、美咲は部活とか入らないの?」
「う~ん、今のところ考えてはないけど……」
「そうなんだ」
「加奈ちゃんはどうなの?」
「私はサッカー部のマネージャーにでもなろうかな……なんて」
「へぇ、運動部興味あるの?」
「まぁ運動部というよりは、憧れるじゃん!」
そんな談笑をしていると、前方にあの男が現れた。
「んー、あれは矢野?」
「なにしてるんだろう?」
矢野君は、何かを手に持っている。
あれは財布?
「おーい! 矢野、何してんの」
「!!!」
「驚かしてごめんね、矢野君何してるのかなって」
「貴様らか、財布が落ちてたんで、中身を抜いていた所だ」
えっ!?
この人、本当に悪い人なんだ。
「駄目だよ矢野君! ちゃんと元の状態で交番に届けないと、持ち主も困っちゃうよ!」
「そうだよ矢野、やめときなって」
「ふん、仕方がないな……」
矢野君は交番のある方へ向かっていく。
見た目じゃ分からないけど、不良なのかな。
「はぁ、矢野のやつ最低だったな」
「うん、もしかして矢野君て、すごい貧乏なのかな?」
「そういう事じゃないでしょ!」
「そうだね……」
「それじゃ私こっちだから! またね美咲!」
「うん、加奈ちゃん、また明日」
加奈ちゃんと友達になれて良かったな……。
矢野君にはあまり近付かない方がいいかな。
でも、後ろの席なんだよな……
「お帰りなさい、美咲」
「お母さん、ただいま……」
「学校はどうだったの?」
「うん、もう友達ができたよ、あと危ない人もいた」
「危ない人?」
「なんか暴言言ったり、落ちてた財布からお金取ろうとしてた」
「あら、そんな人がいるの?」
「だから、あまり関わらないようにしようかなって」
「ふ~ん、でも優しくしてやりなさいよ、そういう人は意外と駄々をこねてるだけかもよ」
「うーん……」