第1話:新たなる地へ
僕は光に包まれるような浮遊感と共に目を覚ました。どうやら、転生には成功したようだ。神様による行為なのだから失敗されても困るのだが。
さて、今の自分の状況はどうだろうか。見たところ石造の建物の室内にいるようだ。しかし相当年期の入った建物のようで、壁や天井のあちこちにヒビが入っている。今にも崩落しそうだ。
さて、ここを出れば僕の異世界生活の幕開けだ…なんて少し浮ついた気持ちでいると、突然体中を轟くような爆発音が貫き、それと同時に一層ヒビが多かった壁の一角が崩壊した。幸い瓦礫の下敷きになるようなことはなかったが、それで安心できる程緩い状況ではないようだ。
崩壊した壁から外を見ると、街だったと思しきものの残骸が無数に転がり、至る所が炎に包まれているという地獄のような景色が目に飛び込んできた。さらに、たちどころに火球が飛び交っている。どうやら僕は今戦地のど真ん中に居るらしい。飛んでいる火球は魔法の一種なのだろう、着弾した箇所から物理的にあり得ない速さで火の手が回っている。そしてその火球の後を追うように蝙蝠の羽を持つ人型の何かが空を飛んで行った。あれが魔族という奴らだろう。このままここにいたら流れ弾で死んでしまうのではなかろうか。
転生早々に死んでしまうのはさすがに嫌なので、僕は建物の陰に隠れつつその場を離れた。一度死を経験しまったからだろうか、こんな状況下でも一応パニックになることなく行動できてしまっている。
しかしどうするべきか。とりあえず動き出したはいいものの、この世界の地理どころかこの街の出口がどこなのかすら僕はよくわかっていない。襲撃にあっているので街の人は避難しているだろうから、それに合流できれば幾分か安全かもしれない。あるいは、ここの住民は既に皆殺しにされてしまったのだろうか。いや、滅多なことは考えるものではない。実際、まだ死体を一つも見ていないので、避難は間に合ったと考える希望はあるだろう。
それとなく誰か安全そうな人はいないものかと目を動かしながら移動しているときだった。近くの建物が火球によって崩され、その柱が僕の方へ倒れてきている。やばい…死ぬ。転生してまだ体感5分も経過していないのに。
すると、突然その柱が切り裂かれた。切り裂かれた柱は僕を下敷きにすることなく倒れ、そのすぐ側に僕と同じくらいの背丈の男性が着地した。
「大丈夫か?…君、その服は…。」
声の主は柱を切り僕を助けてくれた本人であろう。幅広でシンプルな片手剣を持ち、胸と左腕を艶のない無骨な鎧に包んだ軽装の青年。見るからに前衛職だが、逃げ遅れの避難誘導でもしているのだろうか。それに、服…?僕の服が何かおかしいだろうか、と一瞬思ったが、ここは異世界。衣服の文化が違っていることくらいは当然の域だろう。
「お~い、正人くん、生きてる?まったく、カッコつけて柱なんか切り飛ばして…。」
空から誰かが降りてきた。魔族連中と違い羽などを使わずに飛んでいたのと、鍔が広くて黒い三角帽子といういかにもな雰囲気を漂わせさらに厚手のローブを着ていることが魔法使いのイメージにピッタリ合致している。声の感じからして、女性だろうか。
「ああ、灯里。俺は大丈夫だ。それよりも、ちょっとここ任せていいか?」
正人と呼ばれた男性が答えた。そして、女性の方の名前は灯里か。2人とも日本人名のように聴こえる。名前の文化は前世と変わらないのだろうか。それとも彼らも僕と同じく異世界人だとでもいうのか?
どうやら二人はチームで動いているらしく、たまたま滞在していたこの街を魔族が襲撃し、今は住民の避難誘導、街の自警団と共同で魔族の対処をしているようだ。
「あ~えっと、君。とりあえずここは危険だから避難所に行こう。一応流れ弾の危険があるから、俺がついていくよ。」
どうやら、正人…さん?が僕を安全な所へ連れて行ってくれるようだ。とりあえずはこれで一安心できそうだ。
避難所は地下にあった。街の圏内にあるようだったからそこが攻撃されないか不安だったが、正人さんによれば魔族の火球程度の魔法ではびくともしないとのことで、そこは安心しても良いらしい。
避難所の中は思いの外広く、また住民もそこまで多くなかったようで、スペースは大きく空いていたが、僕はとりあえず一番奥まで行き、そして壁際で座っていることいした。やはり陰キャの落ち着く場所は部屋の隅、それは常識ではなかろうか。知らんけど。
この街の住民であろう人達に視線を凄く寄せられているが、それは僕が余所者だからだろうか?それとも服装の文化の違いのせいだろうか?どちらであっても、僕にとっては居心地の良いものとは言えない。僕はより一層部屋の隅で縮こまっていた。
頑丈と言っても多少の揺れは伝わってくるようで、その度に街の人々達も不安の声を漏らしていたが、体感で20分くらい経ったころだろうか。伝わってきていた揺れが止んだ。どうやら魔族の撃退には成功したらしい。街の自警団員らしき人が来て、その予想が正解だったことを伝えてくれた。街の住民は魔族撃退の知らせに安堵し、次々と避難所の外へと出て行った。
さて避難所から出るか、という所で、撃退の知らせにきた自警団員の方と入れ違いで入ってきた正人さんに呼び止められた。
「少し話、いいかな?」
話とは何だろう?街の住民ではない僕が何故かいるということで職質的なことだろうか。まさか、今回の襲撃の黒幕の疑いを掛けられていたりするのだろうか。避難所の中でも座っていただけで何もしていないが、身の潔白は証明のしようがない。どうしようか。
しかし断ってしまっては疑いを深めるだけなので、おとなしく話とやらを了承しようとしたところ、正人さんから冷や水が一つぶっかけられた。
「君、異世界人でしょ。」
気に入っていただけたなら、ブックマークや評価などをお願い致します。




