素直になれない二人を結ぶ不思議な靴
久々の投稿です。前に投稿したもののリメイク版になります!
「今回も私の勝ちね」
「はぁ⁉︎たまたまだし。次は勝つ」
「ルイには無理よ。弱いもの」
「ニアほどじゃねーよ!」
いつものように勝負し、ケンカする私たちの間に友達が割入ってくる。
「あなたたちって本当にケンカが多いわね。ケンカばっかりしてると後悔するわ。後悔したときにはもう遅いわよ」
私と、ルイは同じ学園に通う同級生兼ライバルであり友達だ。というか、ほぼ毎日ケンカをする相手という感じなのだが。
会えばケンカを始め、気づくと終結してるというのがいつもの私たち、なのに……。
そろそろ靴を新調しようと靴屋へ行った私は目を輝かせていた。
「最近はこんな靴があるのね!」
最近来店してないせいか、初めて見る靴がたくさん並んでいる。
「お客様、こちらはいかがです?」
急いで振り向くと店員が立っていた。
いつのまに後ろに……。
笑顔で差し出す店員の手には不思議な形の靴が乗っている。
「これ、ヒールがないわね。男性用ではなくて?」
「いえ、これは男女問わず履けるようになっていまして、不思議なことに持ち主の足にピッタリと寄り添うのですよ」
怪しさ満載だが持ち主の足に寄り添うという言葉には惹かれる。
「なら、少し貸してもらってもいいかしら?」
靴を受け取り、足を入れようとすると……。
「あぁ!お待ちください!」
「……あなた、わざと私が足を入れた後にいったの?」
止められてももう遅い。ちょうど足を入れたところだ。
「お客様の安全第一に、気づいたと同時に言わせてもらいました」
そう言って彼は胡散臭い営業スマイルを浮かべる。
「で、結局足を入れたら何がダメなの?足をピッタリと包んでくれて履き心地はいいわよ?」
「そうなんです。ピッタリなんです」
「……何よ、どういうこと?」
ガチャ
突然店の扉が開き、誰かが入ってきた。
「あ」
「げっ」
私たちは顔を見合わせ同時に顰める。
「なんで、ニアがここにいるんだよ」
「こっちのセリフよ、ルイ」
二人でにらみ合っていると、
「お客様〜、こちらはいかがです?」
先程の店員がルイに差し出したのは私の足の靴のもう片方。
「あなたいつのまに。というか、それ……」
「いいな、それ。貸してもらうぞ」
ズボッ
「あぁ!お客様!!」
私が口を挟む前にルイは足を靴に入れ、狙ったように店員は声を上げる。
「あ?欠陥品か?」
「そうよ、結局、何?」
「私が作ったこの靴は持ち主の足と全く同じサイズになり、足が抜けなくなるのです」
え?
店員の言葉を聞き私たちは急いで足を引っ張る。
「「抜けない……」」
「まぁ、ちょうどよかったです。誰かで試したいと思っていたところで……」
「まさか私たちを嵌めて、」
「いえいえ、そんなことはありません!お客様第一ですので!」
胡散臭い笑顔を浮かべ店員はルイの足を持ち上げて靴を見る。
「足が抜けないこと以外は問題なさそうですね」
「問題大ありだ!どうやりゃ抜けるんだ!」
「時間がたてば抜けるかと」
時間ってどのくらいよ!
叫びそうになるのを抑えながら私は告げる。
「帰るわ!」
「お客様、お待ちください!」
誰が待つものか!と足を踏み出した瞬間。
「うわっ!」
ビタッ
突然ルイがこちらに来て私にぶつかった。正確にはルイが足に引っ張られるようにこちらに来た。
「ちょっと!」
「ちがっ、これは靴が勝手に、」
するとススッと店員がこちらに来て告げる。
「この靴は対になっているものが離れると、自然にくっつくのです。よくあるでしょう?靴が片方なくなるとか……」
靴が片方なくなることはないわよ。
「まさか時間経つまでこのままか?」
「そうなんです。ぜひ、時間がたつまで少しこちらでお待ちになって……」
「断る」「お断りするわ」
今履いている靴ごと研究されることを察したルイと私は急いで立ち上がる。
「逃げるぞ」
そう言うとルイは私の手を掴む。
「え、ちょっと、」
「あっ、お客様ぁ〜⁉︎」
私の実験が〜という声がしたが気にせず私たちは走った。
「……撒いたか?」
「えぇ。というか、少しは女性に歩幅をあわせなさいよ。それじゃあ、婚約者ができてもすぐに振られるわよ」
「ついてこれないやつを婚約者にする気はないから大丈夫だ」
そういうことではなくて。
と言葉を続けようとしたがルイが口を開く。
「あそこでちょっと休憩しようぜ」
ルイが指さしたのは淡いピンク色の花を咲かせた木。
「あの木って東洋のものよね?名前は確か、」
「サクラ、だよ」
私がサクラの木の下に座るとルイも私の隣りに座った。というか、私の靴にピタリとつられるように座る形になる。
「大丈夫か?」
「何がよ」
「左はヒールなのに、右はヒールじゃない靴だから大変だろ」
「さっき走らせたのは誰よ」
「あ、」
間抜けな反応に思わず私は吹き出す。
「なんだよ、笑うなよ」
「あら、ルイが間抜けな顔してるのが悪いわ」
「てか、ニアのほうが間抜け顔だし」
「は?間抜けじゃないわよ」
「間抜けだろ。そんなだから縁談の一つも来ないんだよ」
「……」
珍しく何も返さない私にルイが慌て始める。
「お、おい。そこまで真に受けなくても……」
「実はね、私縁談断ってたの」
「は?なんで?」
婚約者ができて、ルイと気軽に話せなくなるのが嫌だった、とは口が裂けても言えない。
「まぁ、理由は秘密」
「はぁ?教えろよ」
「とにかく!私、今まで縁談断ってたけど……さすがに婚約しないとって、」
グッと私は手を握りしめる。思うように口が動かなくて固唾をのんでこちらをみるルイに数秒たって私は告げる。
「私、明日、婚約するの」
「……っ!?」
重苦しい沈黙が流れる。
「私たちもそろそろ婚約しなきゃよね」
「誰と婚約したんだよ!」
ライバルに婚約を先に越されたせいなのか怒ってくるルイに苦笑いして答える。
「わからないわ。顔合わせは明日なのよ。明日、問題ないようなら婚約するの。つまり、政略結婚ね」
「それでいいのか?」
私は……。いや、私の考えなんて政略結婚を前には一蹴されるのだろう。
「私のことはいいわ。……まぁ、そう考えるとこの靴って有難いわ。ルイとじっくり話すことができたもの」
よからぬ噂を立てられないため、婚約すれば軽々と異性に話しかけられない。だからルイとこうして話すのはこれが最後。
「今までありがとう」
「……そんな、最後みたいな言い方すんな」
と、言いながらもルイの声も沈んでいた。
「そろそろ、お店に帰りましょう。靴を持ち逃げしたって被害届を騎士団にだされても困るわ」
「……そうだな」
なんだかんだ言って、ルイのことは嫌いじゃなかったわ。この痛みは友達と気軽に話せなくなるのが悲しいだけ。
そう、胸の痛みに理由をつけ私は立ち上がる。
「後悔したときにはもう遅い、か」
「ルイ、なにか言った?」
ポキッ
「ちょっとルイ!?サクラの木を折ったらダメじゃない!」
「なぁ、サクラの花言葉ってたくさんあるんだけど、フランスって国ではどんな花言葉が知ってるか?」
いや知るわけないし。
「知らないけど、何よ」
「ならいい。これやるよ」
いらないんだけど……と思いながらも私は受け取る。ルイの意図がつかめない。
「店に戻るぞ」
「言われなくても戻るわ」
結局、あやふやになったまま私たちは店へと戻った。
店の前ではすでに店員が私たちを探していた。
「あ!お戻りになられたのですね!さぁ、研究を……」
その言葉に私たちがヒッと息を呑んだ瞬間……。
カチッ
「あら?なんか、足が軽く……あっ」
「足が抜ける!効果が切れたのか!」
それを聞くと残念そうに店員は息をつく。
「研究できず、ですね。……もう一度履きません?」
「「嫌です!」」
そう言葉を残し、私たちは靴屋を飛び出した。
そして次の日。
「ついに、ご対面ね」
「ため息ばかりですけど憂鬱ですか?」
メイドがそう声をかける。
もちろん憂鬱よ!と、言いたが会ってもいないのに失礼だと思い直し口をつぐむ。
「ニア様、先程からその枝をいじってばっかりですけどなんですそれ?綺麗な花ですね」
「サクラという花よ」
「桜ですか。そう言えば昔祖父から花言葉を聞いた気が、」
確か彼女の祖父はフランス出身のはずだ。
「なんていう花言葉なの!?」
「えーっと、忘れちゃいました!」
はぁ、と私は息をつく。肝心なとこでこのメイドは抜けてるのよね。
「そろそろ行くわ」
「はい!部屋の掃除して待ってますね!」
私はメイドに別れを告げ部屋を出る。
「あ、そうだ!花言葉は確か『私を忘れないで』」
扉の向こうで呟いたメイドの声は私には届かなかった。
私は自室を出ると婚約者が待つ部屋へと向かった。
「え……?」
ドアをあけ中で立っていた人を見て私は思わず立ち止まる。
「えーっと、婚約者ってあなた?」
ドアの先にいたのは……昨日の店員さん。
たしかに貴族でもない人が魔法の靴を作れるわけはないわよね。というか、この人が本当に婚約者なの⁉︎え、すごく嫌なのだけど。
「いいえ、私は違いますよ。ただの店員です。婚約指輪を作りにきました」
その言葉を聞き、私はホッと息をつく。
「なら、私の婚約者は……?」
「この方ですよ」
店員が指差した先には……。
「……ルイ?」
「……ニア?」
え、待って、ルイが私の婚約者ということ?政略結婚の相手?
「な、何であなたが……」
「それは、俺が言いたいところだ。今日の朝急に婚約者のとこに行くとか言われたんだからな」
え?え?
あまりの驚きに私の頭は混乱状態だ。
「あなた、私が婚約者でいいの?」
ドキドキとガラにもなく跳ねる心臓を押さえつけながら私はルイに問いかける。
「まぁ、ニアでも別にいい」
その言い方にカチンときてついつい言い返す。
「つまり、誰でもよかったってこと?」
「そうは言ってないだろ。てか、ニアこそ誰でもよかったんじゃないのかよ?」
「は?勝手なこと言わないでよ!」
ついついいつも通り喧嘩腰になってしまった瞬間。
カチリ
突然店員が私の指に指輪をいれた。
「あー!すみません!試作品段階の指輪をはめてしまいました!その指輪一度はめると時間が経つまで取れないんです!」
「は⁉︎またなの!何やってるのよ!」
店員は悪びれもせずにもう一つ指輪を取り出しカチリとルイにはめる。
「あー!ついうっかり……」
「……ここまでくると怒る気すらわかないな……」
呆れたようにルイはため息をつき言葉を続ける。
「頭冷やしてくる。ニアが婚約者って知って混乱してるらしい……」
「えぇ、私もよ。頭冷やしてくるわ」
そう言ってお互い逆の扉に向かった瞬間。
「「え!?」」
指輪が思いっきりルイの方へ行き、ピタリとくっついてしまった。
「すみません、それも対になっておりまして、離れられないようになっているんです」
……。
「ふふっ」
「あははっ」
思わずどちらともなく笑い出してしまった私たちを驚いたように店員が見つめる。
「あぁ、別にあなたのことを許したわけじゃないから。でも……ありがとう。毎回あなたのせいでいやでもルイと話さなくちゃいけないわね」
「そうだな」
ひとしきり笑い終わると私はルイに告げる。
「認めたくないけど、あなたとの婚約できて嬉しいわ」
「実は、俺もだ」
ニカっと笑うとルイは私に手を差し出した。
「これからよろしくな、ニア」
そんなルイにつられるように私も微笑む。
「えぇ、よろしく、ルイ」
今はまだルイのことどう思っているとかはよくわかっていない。でも、いつかこの気持ちに言葉をつけれることを願って、ルイの手に私は手を添えた。
読んでいただきありがとうございました!楽しんでいただけたら嬉しいです!!