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愛と幸せを一つに結ぶ 理創郷の七星物語  作者: 天无
ロールプレイングゲーム星
7/36

幸一であることの証明

 切り始めてからどれくらいたっただろう。

 結愛とレオは無事だろうか?

 俺を骸骨にした奴は何を企んでいるのだろうか?

 元の姿に戻れるのだろうか?

 地道にナイフを動かしている間に、様々な思いが頭を巡った。

 そして遂に切り刻んでいた部分をナイフが貫通する。


「よし! これさえ切れれば……」


 まだ巻かれたままの何かを、手首をよじって解いていく。

 それから手が抜けるとようやく腕を動かすことができて、身動きが取れなかった体に開放感が感じられた。

 これで自分の思い通りに行動できる!


「まずは奴を捜そう」


 一秒でも早く結愛とレオに合流したかったが、この姿では自分が幸一であると信じてもらうのは難しい。

 となると捜すべきは、俺をこんな姿にした奴だ。

 奴を見つければ俺を元の姿に戻す方法も、なぜ俺を骸骨にしたのかも分かるかもしれない。

 周りを一望するが、どの方角も草木が広がっている似たような風景だ。


「どの方向に行けばいい?」


 悩んでいると、ふとアイデアが思いついた。

 奴は俺を運んで、この木に縛りつけたはずだ。

 それなら奴が来た方角を俺は向いていたのではないか?

 なぜならわざわざ見つけた木の反対側に俺を縛りつけるなんて、無駄に体力を消耗することはしないはずだからだ。


 見つけた木にすぐ俺をもたれさせて縛ったのなら、奴はその後きた道を戻っていっただろう。

 こんな森林の中で、行き先は戻る以外にないだろうからな。

 自分の推理に確信を持った俺は、意識が戻った時に向いていた方向を思い出しその方角へ走った。


 結愛……危険な目に遭っていなければいいが。

 レオと一緒だと分かってはいるが、不安は拭えない。

 急ぐために骸骨の身軽な姿を生かして、カタカタと音を立てながらより速く駆けていく。


 しばらく走っていると、向こうに道があるのが見えた。

 走るのを止めて忍び足でその道に近づいていくと、誰かの声が聞こえてくる。

 多様な声からして複数人いるようだ。


 バレないように木々に隠れながら、静かにその声の元へと辿っていく。

 するとその声が聞き覚えのあるものだと気づいた。


(結愛とレオの声だ)


 そしてもう一人、聞き覚えがあるようなないような誰のものか断言できない声が混じっている。

 その声の主を目で確かめた時、俺は人生で一番の驚きに直面した。


「俺!?」


 俺の驚く声にレオが素早く反応した。


「ん? いま声が聞こえなかったか?」


 それに俺の姿をした何かが答える。


「声だって……」


 何かが走ってこちらへ向かってくる。

 俺は慌てて草木の陰に身を隠した。

 何かはこちらを見渡しているが、俺に気づく気配はない。


「すまない、気のせいかもしれない」


 レオがそう謝ると、何かは怪しみながら戻っていった。


(あの姿、どう見ても俺だよな)


 顔と体だけでなく、声までも俺そのものだった。

 自分の声を客観的に聞くことはほとんどないから、初めの内は気づかなかったが間違いない。


 なぜあそこに俺の姿をした何かがいるんだ?

 そしてなぜ俺は骸骨になってしまったんだ?

 二つの問いから、俺の頭の中に一つの答えが導き出された。


(俺と奴が入れ替わったのか?)


 奴は確か俺が倒れていた時に、互いの胸に手をかざして何かをしていた。

 あの時に魔法を使われたのか?


(……考えていても仕方ない)


 俺はあの三人を尾行することにした。

 いま話しかけても、この姿ではモンスターと勘違いされるから止めておく。

 バレないように忍びながら三人の後を追う。


 レオと奴は話をしながら道を歩いている。

 会話の内容を聞いてみると、やはりチグハグになっている部分があった。

 奴の中身が俺ではない証拠だ。

 話の途中で、奴はレオに食料のありかを聞いた。


「それじゃあここら辺に食べ物はないかな? 腹が減っちゃってさ」

「キノコや木の実ならここらに生えていることがあるな」

「そうなのか。あっ! もしかしてあれってキノコじゃないか?」


 奴がある一点を指差している。

 多分キノコを見つけたのだろう。

 奴がそこを目指して駆けていく。


「あっ。ちょっと待て」

「何でだよ?」

「うかつに触れては危険だ。毒を持っているかもしれないからな」


 レオがキノコのある所へ近づきしゃがんだ。

 キノコを調べているのだろうか。


「これは……食べられそうだな」


 すると奴はレオの背後へと近づき、静かに見下ろした。


(……まさか)


 俺がいつでも飛び出せるように構えると、案の定ヤツは剣を抜き出した。

 そしてその剣を掲げて、レオを叩き斬ろうとしている。

 俺はそれを阻止するために、奴の元へ全速力で向かった。


「レオさん、危ない!!」


 結愛の声が轟くと同時に、俺は木々の中から飛び出し奴を突き飛ばした。

 倒れた拍子に剣を落として、無防備な姿を見せる。


(今がチャンスだ!)


 俺が更なる一撃を加えようとした時に、レオの声が響いた。


「幸一!」


 俺は反射的にレオのほうへ振り返った。

 だがこの姿の俺が反応したところで、怪訝に思われるだけだ。

 後ろにいる俺の姿をした奴が、レオに嘘を投げかけた。


「そのモンスターは敵だ! そのモンスターはお前のことを攻撃しようとしていたぞ!」


 騙されるな、奴はありもしないことを嘆いているぞ。

 しかしこの姿では、何を言おうと信じてはもらえないだろう。

 どうすればいい……。

 悠長に考えていると、レオは剣を抜き出し俺に向けて構えた。


「不意打ちとは卑怯だな。正々堂々と戦え!」


 レオが俺に向かって斬りかかってきたから、その攻撃を避けた。

 それだけでは終わらず、レオは次々と俺の直前を斬り裂いていく。

 俺はその攻撃を、ただ必死に避けることしかできない。


「なぜ攻撃をしてこない!」


 できる訳ないよ、レオ。

 でも俺のこの想いがレオに届くことはない。


 それどころかレオの攻撃はますます素早くなっていく。

 俺はそれを一心不乱にかわし続ける。


 すると次第に、その猛攻は鈍り始めた。

 互いに疲れが見えてくる。


「これではらちが明かない」


 そう言うとレオは攻撃を止めた。

 この間に乱れた呼吸を整える。


(どうすればいい?)


 冷静さを取り戻した頭で再び考える。

 レオと結愛に、自分が本物の幸一であると気づいてもらわなければならない。

 けれどそれを言葉で伝えられる自信がない。

 それなら……。


 俺はレオに近づくと手を差し伸べて、握手を求めた。

 するとレオはモンスターに好意を向けられたのが初めてなのか、困惑の表情を浮かべながら戸惑っている。

 そして結愛は何かを言いたげにこちらを見つめていた。

 気づいてくれたのか、結愛?


「あの……」

「騙されるな! そのモンスターは敵だ!!」


 コイツ、結愛の声をかき消しやがった。

 レオは再び俺に敵意を向けているようだ。

 この状況に活路はないのか?


 結愛は何かを迷っている様子だ。

 自分が幸一だと確信を持ってもらえる何かがあれば……そうだ。

 俺は今まで閉ざしてきた口を、おもむろに開いた。


「結愛、聞いてくれ」


 結愛は怖がりながらも、こちらへ目線を向けてくれた。


「俺たちは自分勝手だ。そうだろう?」


 それを聞いて強張っていた結愛の表情が、だんだんと柔らかくなっていく。

 そう、これは君と俺しか知らない二人の話だ。


「ボロボロの廃墟の中でそう話した。俺はあの時の会話で結愛を知って、守りたいという気持ちがより強くなった」


 結愛は俺の顔を見つめて、真剣に話を聞いてくれている。


「だからさっきも守ってやろうと思って戦ったが、この様だ。レオがいなかったら、俺は一生後悔することになっていたかもしれない」


 幸一であることを分かってもらうために、嘘偽りのない想いだけを伝える。


「その上ヤツにこんな姿にされてしまった。だけどこれは姿だけで心は幸一なんだ。無茶な話だとは思うけど信じて欲しい」


 しばらくの間、沈黙が続く。

 みんなの俺にぶつける視線が凄く怖い。

 俺のことをどう思っているのだろうか?

 そんな中、最初に口を開いたのは結愛だった。


「信じます」


 あまりにも直球な言葉に驚く。

 だけどそれは、レオも同じのようだった。


「おかしいと思っていたんだ。戦っていても反撃してこない。それどころか握手を求めてくるなんて」

「それにこの幸一さんの姿をした方には違和感がありました。レオさんとの話が噛み合わなかったり、乱暴に事を進めようとしたり」


 結愛の怖がる表情は俺ではなく、奴のほうへ向けられていた。

 同様にレオも鋭い視線を向けている。


「何よりこの方は、レオさんのことを襲おうとしていました。幸一さんは絶対にそんなことはしません」

「……ということはお前、さっき俺のことを助けてくれたのか?」


 俺は骨の音をコツコツと鳴らしながら頷く。

 それを見てレオと結愛は、俺に笑みを見せてくれた。


 ありがとう、二人共。

 信じてくれて。


 不意に地面を擦る音が聞こえてそちらを向くと、奴は剣を持って逃げ出していた。


「待て!!」


 俺は慌てて奴を追いかけた。

 横を見るとレオと結愛も並走している。


「奴をどうすればいい? 倒していいのか?」

「いや、それは駄目だ。捕まえてどうすれば元に戻れるか聞き出さないと」

「分かった。捕まえればいいんだな」


 そう言うとレオは、自らの手のひらを森林のほうへ差し出した。

 すると手のひらから黒い砂塵のようなものが流れ出し、木々の中へと吸い込まれていく。

 これってまさか……。


「魔法か!?」

「ああ。性に合わないから普段は使わないんだけどな。今は別だ」


 一体なんの魔法を使ったのだろう?

 俺らが走り続けていると、奴がいる斜め前の森林からモンスターが飛び出してきた。


「チッ。こんな時にやっかいだ」


 奴が走りを緩めて木々の中へと方向転換しようとするが、その先には……。


「嘘だろ……」


 既にモンスターが待ち構えていた。

 振り向き反対の森林へ逃げようとするが、そこにも行手を阻む影が。


「どうなっているんだ……」


 奴の所まで俺たちが追いつくと、レオは剣を突きつけ言い放った。


「さあ、答えてもらおうか。どうすれば幸一の姿が元に戻るのか!」


 周りにいた怪物たちの輪郭は崩れて、黒き砂の塵と化して散っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の声って、客観的に聞くと最初は分からんよね(;'∀')
[良い点] 自分の姿を自分自身で見る。 これ以上の驚きと恐怖はないですよね。 でも結愛とレオは幸一の事を信じてくれた。 こんなに嬉しい事はないですよね!
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