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愛と幸せを一つに結ぶ 理創郷の七星物語  作者: 天无
ロールプレイングゲーム星
6/36

交差する光

「くっ、痛て……」


 順調に戦えていると思っていたが、不意をつかれてしまった。

 モンスターから受ける攻撃が、こんなにも強力であることを今更ながらに知る。


 レオは今も崖の上で、一人で戦っているのだろう。

 結愛も木の上で不安になっているかもしれない。

 こんな所でうずくまらずに戻らなければ。


「うっ……」


 立ち上がろうとするが、落ちた衝撃で体を痛めて思うように動けない。

 自分からレオについて行ってこのザマか。

 自らの弱さに悔しい気持ちが湧き上がる。


 その後も何度か立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かない。

 そんな中、横にある木々の中に何者かの姿が見えた。


「どうやら成功したみたいだな」


 そう言いながら現れたのは、一体のモンスターだった。

 外見は骸骨そのもので、鉄の鎧を身にまとっている。


 骸骨は歩いてこちらへ近づいてくた。

 俺にトドメを刺す気か?

 骸骨は俺の隣まで来ると、しゃがんで話した。


「お前も運が悪かったな。奴を頼りにしたばかりに」


 骸骨は静かに胴体の鎧を脱いだ。

 するとその胸には脈を打つ心臓があった。


「奴を仕留めるために利用させてもらう」


 骸骨が自らの心臓に手をかざすと、その手から光線が放たれて光が心臓を包み込んだ。

 そしてもう片方の手を俺の胸にかざすと、再び光線が射す。

 胸の中が熱く感じ、自分の心臓が光で包まれているのが感覚で分かった。


「何をする気だ……」

「すぐに分かる。楽しみにしておけ」


 骸骨が俺にかざした手を握ると、一気に意識が遠のく。

 僅かに残る意識の中、目の前に不敵な笑みが見えた。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



 道の真ん中で人間とモンスターは共に倒れていた。

 そして目を覚ましたのは人間が先だ。

 彼は意識を取り戻して立とうとすると、あることに気づいたようだ。


「この重量感……」


 上体を起こし自身の体に視線を向けると、彼は企みが成功したことを確信した。


「魂を入れ替えられたようだな」


 幸一と魂を交換した彼は、小さな笑みをこぼした。

 それと同時に、幸一の体が負った怪我が痛みだし体を強ばらせる。


「くっ……。あれを使うか」


 幸一の魂が宿った骸骨の元へ、体を引きずりながら移動する。

 着くと鎧に忍ばせた石を取り出した。


 彼がコイントスのように石を弾き飛ばすと、その石は空中で光を放つ。

 彼の右腕を光の曲線が縛るように包んでいく。

 包み終えると、光は消えて石は地面に落ちた。


 そして彼は自身の手を、体の痛む部分へかざしていく。

 するとかざした部分にある傷は、みるみる内に癒やされていった。


「これが回復の魔法か。奪った時に使わずとっておいて正解だったな」


 彼は幸一の宿る骸骨を見て、思案した後に呟いた。


「コイツはどこかへ縛り付けておこう。何かに利用できるかもしれない」


 彼は骸骨を抱えて、木々の中へと入っていった。

 少し歩いてから、近くにあった木の幹へ骸骨を座らせてもたれさせる。

 そして鎧に仕舞っておいたロープを取り出した。

 骸骨の両腕を幹を挟むように後ろへ持っていき、ロープで両手首を結んだ。


「これでしばらくは身動きが取れないだろう」


 彼は幸一の顔で不敵な笑みを浮かべると、再び幸一が崖から落ちた場所へと戻っていった。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



「んっ……」


 意識が朦朧とする中、不快な感覚が纏う。

 不快感というよりも違和感だろうか?

 今までに感じたことのない感覚だ。


 俺は今まで寝ていたのか……?

 頭の中に無駄な情報がなく、脳が軽い。

 それだけではなく実際に頭が軽い気がする。

 まるで付いていた肉が削ぎ落とされて、頭蓋骨だけになったかのようだ。


「何だか体がスースーするな」


 そのスカスカな感覚と軽量感が不思議だったが、俺は更に驚愕の光景を目にする。


「……何だこの体は!?」


 胴体を見ているはずなのに、透けて見える向こう側。

 ぶつけるとカツコツと音が鳴る腕。

 そして人間のものとは思えない、白く細い棒でできた足。

 この体はまさに……。


「骸骨じゃないか!!」


 自分の体が骸骨そのものになっていたのだ。

 その現実離れした突然の出来事に、俺はしばらくのあいだ冷静を保つことができなかった。

 意味もなく体をジタバタさせるが、大きく暴れることはできない。


 そのおかげで徐々に冷静を取り戻し、体の隅々を目視し指や足などの動かせる部分の動作を確かめた。

 そして真っ白で硬い口をあんぐりしながら、頼れる人がいないか周囲を見渡す。

 しかしこの森林には俺しかいないようだ。


「どうなっているんだ!」


 体の自由が利いていたら、未だに正気を保てていなかっただろう。

 ひとまず深呼吸をして、心臓の高鳴りを抑える。

 呼吸を整えたら、次は頭の中を整理する。


 俺は自分が骸骨になっていると気づく前は、確か気を失っていた。

 その気を失う前には、何があったんだっけ?

 記憶を蘇らせるためにしばし思案する。


 ……そうだ、思い出した。

 意識がなくなる前に、俺は元の姿で骸骨に何かをされている。

 骸骨が俺の胸に手をかざして何かをしてから、俺は息絶えるように無を感じた。

 そして何もない場所で何も思わずに過ごしていたら、目を覚ましてあれこれ考えて、気づいたらこの有様だ。


 俺が思うに、恐らく魔法を使われたのだろう。

 だとすれば一刻も早く奴を見つけて、元に戻してもらわなければならない。

 捜すために立とうとした時に、今更なことに気づいた。


「腕が動かせない……」


 腕は後ろの木を抱くような体勢になっているから見えないが、恐らく両手首を何かで縛られている。


「これも奴の仕業か」


 まずはこれを解かないことには何も始まらない。

 そのためにはどうすればいいか考える。


「魔法はジャンプしか覚えてないし、そもそもこの体で魔法が使えるのかも分からない」


 辺りを見渡すが、役に立ちそうな物はない。

 どうしようもないのか……ん?


 見渡す途中に、向こうで何かが倒れていることに気づいた。

 良く見ると、どうやらモンスターの死骸のようだ。

 誰かが倒したのか?


 すると俺は地面が微かに揺れていることに気づいた。

 それは徐々に大きくなって、足音のようなものが聞こえてくる。

 危機が迫っていると感じながら見上げてみると、奥の木の上に化け物の顔があることに気づいた。


「どんだけでかいんだ……。まるで巨人じゃないか」


 その巨人は屈んで死骸を拾い上げると、何かをしている。

 不快なグチャグチャという音が聞こえるが、木々が邪魔で何をしているのかは分からない。


 音が鳴り終えると、巨人は振り返って森林の奥へと姿を消した。

 この身動きの取れない状況で、見つからなくて良かったと安心する。

 ホッとしていると、ふと視界に自分が身に付けている鎧が入った。


「この鎧、何かに使えないかな」


 色々な角度から見たり体を揺さぶったりして、鎧に有用性がないか確かめる。

 揺さぶっていると、鎧から何かが落ちた。


「ナイフだ!」


 これは使えると確信し、側に落ちたナイフを拾うために、足を使って木の回りをグルっと半周する。

 手元にあるナイフを上手く拾うと、両手首を縛る何かを、ナイフで小刻みに往復して切り刻んでいく。


「少し時間がかかりそうだな」


 切っている間この場には生き物の鳴き声と、ナイフが何かに擦れる音だけが静かに鳴り渡った。

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― 新着の感想 ―
[一言] おぉう(;'∀') まさかの事実(;'∀') にしてもナイフを残すとは……意外と間抜けな相手でしたな(;'∀')
[良い点] 何と骸骨と魂が入れ替わるとは! これは予想外の展開です。 ここから幸一が元の身体に戻れるのか? 物語のテンポも良く、展開が良い意味で読めません。
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