愛と幸せを一つに結ぶ
記憶の星に着くと、俺は結愛を連れて中央へと歩いた。
そして向かい合い、今更ではあるが身なりを整える。
「ありがとう、結愛。俺の誘いを受けてくれて」
「断る訳ないです。ここで踊るんですか?」
「うん。でもこのままじゃ、余りにも味気がないよね?」
俺が指を鳴らすと、周りにフォトフレームが現れる。
もう一度ならすと、今度は結愛と俺が二人で写っている写真が表示された。
それらが流れ始めると、結愛は思い出のメリーゴーラウンドに釘づけになる。
「これは……幸一さんと私の写真……」
「ああ。ここはもう、俺たちだけの場所だ」
結愛は回る写真に目を奪われていたが、彼女の手を取るとハッとしたように俺を見てくれた。
「踊ろうか」
「はい」
結愛と俺は、遡る二人の思い出たちに見守られながら踊り始めた。
最初は互いにぎこちない動きで、手を上手く取り合えなかったり、足と足がぶつかったりする。
でも時間が経つにつれて呼吸は合ってきて、自然体で踊れるようになってきた。
そうなる頃にはこの空間は暗くなっていて、いつの間にか二人はスポットライトを浴びていた。
暗闇の中で輝きを放つ写真は、より二人の思い出を際立たせている。
すると二人の足元から、たくさんの花びらが吹き上げてきた。
それらは紅と桜の色をしたバラだ。
少しのあいだ二人を囲んでから舞い散ると、空から華の雨が彩りを降らせていた。
そして結愛と横に並び両腕を広げた先には、俺が最初に見た星の景色がある。
西欧風の建物が並んでいて、まるでファンタジーゲームの世界だと驚愕した。
ここで初めて結愛と出会う。
ドラゴンに捕まった彼女を助けて、共に歩んでいく旅が始まったんだ。
今でもこの時のことは鮮明に覚えている。
再び花びらが吹き上げて、結愛と俺を包んでから散っていく。
向かい合って両手を握り合い静かに揺れていると、今度は暗くて広い部屋の中にいた。
大きな窓の外では激しい雨が降り注ぎ、稲妻が闇夜の城内を露にする。
この星で俺は骸骨になってしまったが、結愛はその姿に惑わされずに幸一であることを見抜いてくれた。
その後おれは巨人を倒すことで、本来の姿を取り戻す。
そうすることができたのは、レオの助けがあったからだ。
ポーズをとった結愛を持ち上げると場所はうって変わり、まるで映画のようなSFの世界観になった。
ここはシャルロットとルイが暮らしていた、未来を彷彿とさせる星だ。
魔法の力でルイの両親の過去を再現し、それを結愛や仲間たちと辿った。
するとルイは改心して自ら自首する。
それからすぐだったな、俺がこの世界の命運を握る者だと判明したのは。
暗くなり足場も不安定になって驚いたが、月の光を頼りにバランスをとって、口づけを交わしてからゆっくりと踊り続ける。
屋根の両端にある鯱で、いま姫路城の上にいることが分かった。
坑道で再び結愛のことを守って、レオはシャルロットのことを守る。
狼男へ変貌したレオにシャルロットがキスをして、彼は人間の姿に戻ることができた。
そのおかげでレオは自分が求めているものが承認ではなく、シャルロットであることに気づく。
距離をとって個々で自由に踊り始めると、甘い香りがその場を包み、結愛は心の踊りを高ぶらせていた。
かわいいもので溢れたこの星では、子供たちと動物たちも踊っている。
ここで結愛と俺は二人きりになり、口づけを交わし、そして永遠に彼女を守っていくことを誓う。
全てを消し去ろうとする砂時計は仲間全員で破壊して、犠牲が出てしまったものの多くの命を守ることができた。
結愛の過去は辛いもので、自死の後にこの世界へ転生できたことが唯一の救いだろう。
俺の手を軸に結愛が軽やかに巡っていると、ひぐらしの鳴き声が夕暮れであることを知らせてくれる。
鳥居が構えるこの場所は、村の象徴である神社だ。
砂時計の砂を飲み込み、魔法に冒された結愛を治すためには勾玉が必要だったが、ちゃんと手に入れて彼女を守ることができた。
しかしその代償として、怪物と化していた優とその思い者である純の命を奪ってしまう。
結愛も純と同様に死の影の犠牲になりかけたが、突如あらわれたガブリエルのおかげでそれを防ぐことができた。
ロケーションのスイッチを度々てがけてくれた花びらが舞い上がり、俺たちを覆う。
それが広がり散ると華やかな吹雪が踊る、スポットライトが照らす元の場所へと戻った。
結愛と俺は今まで駆使してきたテクニックを織り交ぜて、シルエットの豊かな踊りを披露する。
この白妙の空間では、色々なことがあった。
三つの星を行き来してきたが、どの場所にも重要な役割があって、それらは人工で創られていることが分かる。
結愛は長いあいだ意識を失っていたが、目を覚ましこうやって二人の時間を過ごすことができた。
家族との記憶を思い出せたのも、この世界の真実を知れたのも、ここにいる人たちのおかげだ。
亡くなってしまった創始者を含む全ての人々に、感謝。
俺はこれから、この世界の命運を決める。
この世界を破壊し、故郷へ帰る。
なぜなら俺がこの世界の命運を握る者であり、幸一だからだ。
他に理由はいらない。
今を照らす踊りは、二人に大切なものを与える。
目の前で舞う可憐な愛は、俺に幸せを与えた。
繋がり想い溢れた幸も、彼女へ愛情を与える。
すると愛は喜んだ。
結愛と俺は舞踏を納めると、夢のようなひと時を終えた。
♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢
「私が夢を見ている間に、そんなことがあったんですね……」
俺は結愛にこの星であった出来事を伝えた。
結愛は驚いてはいたものの、想像よりも冷静を保っている。
だから俺は彼女に今後はどうしたいか聞くことにした。
「俺はこの世界を消滅させて、故郷へ帰りたい。結愛はどう思う?」
「私もそうしたいです。それなら他の世界の人々が犠牲になりませんから」
彼女も俺と同じ選択をしてくれた。
だがそうなると、話しておかなければならないことがある。
「結愛と俺は多分、同じ世界から来ている。ただ、そうだとしてもまた会えるとは限らない。それでもこの選択でいいのか?」
「はい……。会えなかったら寂しいですし、気が滅入るかもしれません。……でも、私は会える気がするんです」
「なぜだ?」
「今まで幸一さんが、私のことを守るために一緒にいてくれたからです。だから離れ離れになったとしても、きっと幸一さんはまた私のことを守りに来てくれます。私も幸一さんに見つけてもらえるまで諦めません」
それを聞いて俺は、笑顔で結愛のことを抱き寄せる。
すると彼女も笑顔で抱き返してくれた。
「結愛らしい理由だな。根拠がまるでないじゃないか」
「ありますよ。幸一さんが分かっていないだけですよー!」
「分かった。結愛のことも、自分のことも信じるよ」
俺たちは抱擁を終えると、互いの瞳を見つめ合う。
そして目を瞑り顔を近づけると、二つの唇が触れ合った。
それは結愛との二度目の愛情表現だ。
その時、暗かった空間に明かりが広がる。
横目で周りを見てみると、そこにはレオとシャルロットの姿があった。
結愛と俺は、慌てて唇を離す。
「お、お、お前らいつの間にそこにいたんだ!?」
「えーっと。確か幸一君が俺たちだけの場所だ、とか言っていた辺りからかしら」
「幸一。お前、意外とロマンチストなんだな……」
嘘だろ、その時からいたのか……。
自分の顔から火が吹き出ているのが分かる。
というかレオ、お前また魔法少女の姿じゃないか。
あの移り変わる情景は、彼とシャルロットが魔法を使ってくれたから見れたのか。
俺たちに見られて恥ずかしそうにしているレオに、笑顔で感謝を伝えた。
「やるなぁ、幸一。うち少し見直したぞ」
「幸一様。結愛様とのダンス、とても感銘を受けました」
「げっ。二人もいたのか……」
事態は思ったよりも深刻なようだ。
早いこと話題を変えなければ。
「あの、そろそろ世珠を……」
「幸一さんって、私と二人っきりになると凄くロマンチックなんですよ! この間なんか……」
「それより世珠をだな!!」
結愛の話をさえぎって、俺はむりやり喋り続けた。
彼女は不満そうだが、これ以上に被害を拡大する訳にはいかない。
「そうだ、世珠だよ!! 急いで割りに行かないと!!」
「ああ。でもその前に、ガブリエルの意見を聞きたい。創始者を慕っているなら、この世界を壊して欲しくないはずだ。そうだろう?」
「彼が生きている時はそうでしたが、自死した今、この世界を残す意味はありません。ですから、今後どうするかは幸一様に任せます」
「いいのか? この世界を消し去って」
ガブリエルは見上げると、優しく微笑みながら答える。
「彼も恐らく、この世界を放棄したのでしょう。でなければ、自死するはずがありません」
「創始者は諦めてしまったのか?」
「それもあると思いますが、やはり荷が重すぎたのではないでしょうか。平和な世界を実現するために試行錯誤していましたが、その作業が終わることはありませんでした。悪意を持つ人間がいる限り、完璧な平和を創り出すことは不可能だと気づいていたのかもしれません」
本当に平和を望んでいたんだな。
創始者を見ていた彼だからこそ、その苦しい心境を理解できるのかもしれない。
俺はガブリエルが、重大な選択を自分に任せてくれたことに感謝した。
「幸一、もういいか? 早くしないとヤバいぞ!」
「ああ、分かった」
俺はみんなのほうを向くと、自らの覚悟を話した。
「みんな。遂にこの時が来た。この世界に生きる全ての人々が、この理想郷と別れる時だ」
全員が俺の目を見て、真剣に話を聞いてくれた。
「それはつまり、この世界にいる人々との別れだ。だからこの場を借りて、言わせてもらう。みんな、今までありがとう」
彼らは笑顔を返してくれた。
結愛とシャルロットは、静かに寂しさを零している。
俺も寂しかったが、堪えて話を推し進めた。
「出発しよう、選択の星へ」
俺たちは故郷へ帰る道を歩み始めた。




