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愛と幸せを一つに結ぶ 理創郷の七星物語  作者: 天无
ロールプレイングゲーム星
3/36

転生された者と転生した者

「それでは行きましょうか」


 ガブリエルはそう言うと、腕を伸ばし魔法を使った。

 するとさっき現れたブラックホールのようなものが出現する。

 行きましょうと言ってこれを出すということは、ワームホールなのだろうか。


「ここに入ればいいのか?」

「はい。その通りでございます」

「じゃあ行こうか」


 彼女を誘って中に入ろうとすると、彼は「お待ち下さい」と言って俺たちの足を止めた。


「なんだよ?」


 おもむろに彼は両手を猫のように折り曲げて構えた。

 そして上体を倒し両手を地面につける。


 すると彼は、頭のほうから順に獣の姿へと変容していった。

 黒い毛並みに鋭い牙、ヒョウ柄の引き締まった胴体に尻尾まで生えている。

 そう、それは紛れもなく黒豹だった。

 しかも俺が覚えているものよりも、その身はでかく迫力のあるものだ。

 黒豹はこちらを向き、鋭い眼光を見せた。


「わたくしの背中へお乗り下さい」

「マジかよ……」

「私、動物に乗るの初めてなのでちょっと怖いです……」


 俺は黒豹に乗って「大丈夫だよ」と彼女に呼びかけた。

 するとそれを見て、彼女も恐る恐る俺の後ろに乗ってくる。


 彼が歩き始めると、彼女は落ちないように俺の肩へ手をかけてきた。

 ちょっと照れくさかったが、彼女が俺を頼ってくれていることが嬉しい。

 彼は歩いてワームホールの中へと進んでいった。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢




 ♢ ♢ ♢ ロールプレイングゲーム星 ♢ ♢ ♢




 着いた場所は荒れ果てた集落だった。

 廃墟となった民家や枯れた木々が立ち並び、そこは人が住むのに相応しくないことが分かる。

 周りを見た感じ誰もいなさそうだ。


「ここが次の世界か……」

「ここは……」


 ついて来た女性が眠たそうに呟く。

 彼女はワームホール内を移動している間、俺の背中で眠っていたのだ。

 ドラゴンに襲われるという危険な目に遭ったから、心身共に疲弊していたのだろう。

 そのおかげで俺は彼女の可愛い寝顔を見れた訳だが。


「起きたか。まだ眠かったら寝ててもいいぞ」

「いえ。私も一緒について行きます……」


 彼女は黒豹から降りると、ふらつきながら俺のほうへ近づいてくる。

 このまま連れていって大丈夫なのだろうか。


「ありがとな。ここまで連れてきてくれて」

「礼には及びません。わたくしがすべきことをしたまででございますから」


 ガブリエルはそう謙虚に答えた。

 本当に執事のような人だな。


「あんたも一緒について来るのか?」

「いえ。わたくしは幸一様を次の場所へとすぐご案内できるよう、下準備を始めます」

「もう次の準備をするの!?」

「はい。新たな場所は探すだけでも時間がかかりますので」


 俺を次の世界へ運ぶために、そこまで努力をしていたのか。

 なぜそこまでするのかは分からないが、今は彼がしてくれることに合わせよう。

 何しろ俺はこの世界のことを何も知らないのだから。


「ですが、わたくしに構わず旅を始めて下さい。わたくしも休養をとり次第、場所の探索へ向かいますので」

「分かった! あんたも気をつけてな」

「お気遣いの言葉ありがとうございます」


 別れの挨拶をすると、俺たちはこの世界の探索を始めることにした。

 見渡す限り廃墟だから、とりあえずその中を見てみるか。


 早速すぐ近くにあった民家の中に入る。

 中はボロボロで、やはり人が住んでいる気配はなかった。

 部屋を回っていると、戸棚がありそこを開いてみると果物のような物が置かれている。


「これ、食べられるかな」


 見た目は青く丸い形をしていた。

 多分、食べ物だと思うが食べられるのかな?

 そもそもこれを勝手に食べてもいいのか分からないが、一口だけ食べてみることにする。


「おっ、美味い!」


 甘くてみずみずしく思っていた以上に美味しかった。

 彼女もお腹を空かせているかな?


「君も食べなよ」


 ついて来た女性にそれを手渡す。


「いいんですかね、勝手に食べちゃって……」

「廃墟だし誰も住んでいないだろ。それにこれ美味いから食っとけよ」

「それじゃあ、頂きます」


 彼女は少しだけそれを口に含んだ。

 すると表情が一気に晴れやかなものになった。


「これ美味しいですね」

「だろ?」


 彼女は果物のような物をすぐに平らげた。

 やっぱり腹が減っていたんだな。


「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね」

「あ、そういえば。すみません」


 彼女はわざわざ頭を下げた。


「謝らなくていいよ。君なんて名前なの?」

「結愛っていいます。あの、よろしくお願いします」

「俺は幸一っていうんだ。よろしくな」


 俺が笑顔を返すと、結愛(ゆあ)は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 もしかしてあんまり印象良くない?

 少し年下のように見えるから、優しく接したつもりだったんだけどな。


「あの、聞いてもいいですか?」

「おう、何だよ?」

「どうして助けてくれたんですか?」


 助けた理由か……。

 正直、自分でもよく分かっていないから答えに悩む。

 本能だと思うから理由を説明するのが難しい。


「理由はないと思う」


 そう言うと結愛は少し悲しそうな顔をした。

 だから俺は続けて話す。


「ただあえて言うなら、君の苦しむ姿を見たくなかったんだ」


 それは俺の素直な想いだった。

 彼女がドラゴンに捕まった時に想ったことだ。


「君がドラゴンに掴まれて、握り潰されてしまう……そんな未来を見たくなかったんだ」


 それは俺が想像した最悪の結末だ。

 そんなことにはなって欲しくないと強く想った。


「そして気づいたら剣を握り締めて、ドラゴンを倒し、君を守っていた」


 ドラゴンと戦っていた時の記憶が蘇ってくる。

 あの時の俺は、結愛を守りたいという想いで一心だった。


「もし君がいなかったら、俺はあのドラゴンを倒す決意ができていなかったかもしれない。絶望して全てを諦めて、俺や人々はドラゴンに襲われていたかもしれない」


 もしそうなっていたら、それは最悪のバッドエンドだろう。

 それを回避できたのは彼女がいたおかげだ。


「だから感謝するのはむしろ俺のほうなんだ。君を守りたいと想えたから、俺はいま生きてるんだ」

「……」


 俺の話を聞いて、なぜか結愛は目を潤めていた。

 何かまずいことを言っちゃったのか?


「おい、どうした? どうして泣きそうなんだよ?」

「私、馬鹿でした。こんな迷惑をかけてしまって」

「感謝したいのは俺のほうだって言ったろ? 迷惑なんてかけていないよ」


 俺の伝えたいことがまるで伝わっていないようだ。

 何も自分を責める必要などないのに。


「違うんです。わたし実は死にたいって思ってたんです……」

「えっ」


 突然の告白に驚きを隠せない。

 まさかあの時、助けないほうが良かったのか?

 でも助けてって叫んでいたよな?


「私この世界に来る前に死にたいって思っていて。それで実際に命を絶ったんです」

「……」


 俺は黙って、彼女の話に耳を傾けた。


「そうしたらいつの間にか知らない場所で倒れていて。目の前にドラゴンがいたんです」


 結愛は話している内に、堪えきれず涙をこぼす。

 俺が見守っていると、泣きながら話を続けてくれた。


「そのドラゴンに捕まって、これで本当に死ねるって思った時に……死にたくない、まだ生きていたいって思ってしまったんです」


 そう思うのが普通だと思ったが、横槍は入れずに話を聞き続けた。


「気づいたら助けてと叫んでいました。自分勝手ですよね。ちょっと前まで死にたいと思っていたくせに、いざ危険な目に遭ったら怖くて助けを求めてしまうなんて……」

「そうかもしれないね」


 俺の肯定する言葉を聞いて、結愛は申し訳なさそうに俯いた。

 それを見て俺はすぐさま自分のことも話す。


「でもそれは俺も同じだよ」

「えっ」

「俺も君を助けたいと思ったから助けたんだ。それも自分勝手にな。だから君と同じさ」


 俺の話を聞くと、結愛はすぐに反論してきた。


「でも私はあなたに迷惑をかけてます。それに私が助けてと言ったから、あなたは助けてくれたんです」

「君が迷惑をかけたと思い込んでいるだけで、俺は迷惑に思っていないよ。あと俺は助けを求められたから助けたんじゃない。君が求めなくても俺は助けることを選んでいたよ」

「でも……」


 彼女はまだ言い訳を続けようとしている。

 これでは自分を責めることに拍車をかけるだけだ。

 だからそれを終わらせるために、俺は話題を変えることにした。


「それよりこの食べ物、美味しかったろ? まだあるから一緒に食べよう」

「……はい」

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― 新着の感想 ―
[一言] >廃墟だし誰も住んでいないだろ。それにこれ美味いから食っとけよ 少なくとも腐らないまでの期間内に誰かがいたって事でしょ(;'∀') 拉致や野外での死以外の事態が起きてなきゃ帰ってきますぞ(;…
[一言] ロールプロイングゲーム星で待つものは、いったいなんだろうか?
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