生まれる二人の物語
……。
何か聞こえる気がする。
微かだが、色々な音が入り混じっているのが分かる。
何の音だろう?
耳を澄まして、それらを鮮明に聞き取ろうとする。
すると叫び声、走る足音、悲鳴、転んで擦る音などが確認できた。
一体、何が起こっているんだ?
俺は今までどうしていたんだっけ?
直近の記憶を思い出そうとする。
……そうだ、思い出した。
俺は通り魔に襲われたんだ。
首を斬られて、血が大量に吹き出して。
そして意識を失った。
自分で言うのも何だが、俺は出血多量で死んだのだろう。
じゃあ、なぜいま俺は意識を保てているんだ?
この聞こえている雑音は何なんだ?
そもそもここは一体どこなんだ?
色々と謎は尽きないが、それらを忘れる程に大きな変化に気づく。
首に、違和感がない。
斬られて裂けた感覚がなければ、出血している様子もない。
……と言うことは、ここは死後の世界なのか?
天国か、それとも地獄なのか?
俺はもう元の世界から離れて、別の世界にでも来てしまったのだろうか?
そんなファンタジーな現象が起こっているのなら話は早い。
けれど、そんなはずはない。
何が起こったにしろ、目を開けて今どんな状況なのかを確認すればいいのだ。
薄ら目蓋越しに光が差していたから、明るい場所にいるのは分かる。
俺は温かい目蓋をゆっくりと開けた。
「眩しい……」
暗闇に慣れた俺の目が突然、光に晒されて驚く。
無理もない。
俺は長い間、意識を失っていたであろうからだ。
しかしなぜだろう。
音で聞いた通り、ぼやけた視界も何やら騒々しく見える。
真相を知るべく、俺は自分の目をこすり無理やり光に慣れることを急かす。
少し経って視界が明瞭になると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「こ、これは……」
そこには慌てて自分の後方へ逃げる人、恐怖におののき泣き叫ぶ人々がいた。
驚きはそれだけではない。
ここはどこだ?
周囲には西欧で見かけそうな民家や建物が建ち並んでいる。
お洒落で綺麗なその見た目は、ファンタジーの世界観そのものだ。
それはまるでゲームの世界に迷い込んだかのようで、喜んでいいのか恐れたほうがいいのか分からなかった。
♢ ♢ ♢ ファンタジー星 ♢ ♢ ♢
この光景にただ呆然としていると、上空の遠くから何か黒いものが近づいてくる。
何だ、あれは?
正体不明のそれを見つめていると、何かを羽ばたかせているのが分かる。
更に近づいてくると、羽ばたかせているのが翼であることが理解できた。
そしていま気づいたが、それはとんでもなく巨大である。
「あれって、もしかして……」
翼の生えた何かは、既にすぐそこまで飛んでくている。
薄々は気付いていたが、はっきりとその姿を目視して確信した。
「ドラゴンだ……」
ドラゴンは俺の近くまで来ると前進を止めた。
上空からゆっくりと下りてきて、俺の目の前に舞い降りる。
そしてドラゴンはその長い首を使って辺りを見渡していた。
すると何かを見つけたのか、一点に顔を向けて留まっている。
その視線の先には、座り込んだまま動けずに怯える女性の姿があった。
彼女はドラゴンが自分のほうを見ていることに気がつき後ろに退く。
だがドラゴンは構わず彼女をその黒い手で掴み上げた。
手から逃れようともがいているが、ビクともしない。
俺は彼女がドラゴンに捕まるさまを、震えながら見ていた。
何を考えているのか、そもそも思考するのかも分からないこのモンスターがとてつもなく怖い。
俺はここでまた別の世界へ飛ばされるのではなく、本当に死んでしまうのではないか。
彼女と自分が命の危機に晒されているこの状況から、今すぐにでも逃げ出したかった。
しかし、葛藤もある。
彼女を助けてドラゴンを倒し、この世界に平和をもたらしたい。
絶望に包まれたこの世界の物語を、自分の手でハッピーエンドに導きたい。
そんな思いも心の中にあった。
けれど俺にはそうするための力はない。
目の前にいるドラゴンをどうにかする力を、俺は持ち合わせていなかった。
それさえあれば、彼女を守ることができるのに……。
「あなた。……そこのあなた」
不意に呼ぶ声を聞いて、それが自分に対してかけられた言葉だと気づく。
振り返るとそこには、タキシードを着たお爺さんが立っていた。
こんな時に俺に何の用だろうか?
「これを渡します。受け取って下さい」
そう言うと彼は両手で何かを差し出してくる。
そしてそれは、紛うことなき立派な剣だった。
これ、本物なのか?
それにどうして俺に渡してきたんだ?
俺が何事かと困惑していると、彼は冷静な口調で言った。
「この剣を使って、ドラゴンから人々を救って下さい」
「お、俺が? なぜ俺に頼むんだ?」
この人は突然、何を言い出すんだ?
この剣を使って人々を救えって、いきなりそんなこと言われてもできる訳ないじゃないか!
「あなたは見込まれたのです」
「……見込まれた?」
「はい。ですので、あなたにはこの剣を受け取る権利があります」
権利と言われても、何のことだか全く理解できない。
どんな理由で俺にそんな権利があるんだ?
俺が動揺していると、ドラゴンのいる方角から叫び声が響いてきた。
「助けて!! 誰か!!」
声の主はドラゴンに捕まった女性のものだった。
その悲痛な声を聞いて、俺は何かに駆り立てられお爺さんの差し出した剣を握る。
何も考えてはいなかった。
ただ心のままに、彼女を守りたくなったのだ。
「その気になりましたか。ではその剣を使って、ドラゴンの胸を貫き倒して下さい」
「ドラゴンの胸……。あんな高いところまでどうやって行けばいいんだ」
俺が困った顔をしていると、彼は微笑みながら答えた。
「安心して下さい。剣を手に取った今、あなたの魔力はある程度の高さになっています」
「魔力?」
「はい。そしてささやかではありますが、私からこれをプレゼントします」
彼が握り締めた手をこちらへ差し出してきたから、俺もその下に手を差し出すと、彼が広げた手から何かが落ちてくる。
「これは……」
「魔法の宿る石です」
それは水色の小さな石だった。
「その石を両手に乗せて、自身の胸の前へ掲げて下さい」
俺は言われた通りにその石を両手に乗せ、胸の前に掲げる。
すると石はゆっくりと浮かび上がり、周囲に光を放った。
そしてその石からいくつかの光の曲線が飛び出し、俺の右腕を縛るかのように包んでいく。
その神秘的な現象に、俺はただ見惚れていた。
右腕を光が包み終えると、光は消えて石は俺の手に落ちた。
「今のは一体……」
「魔法を習得するための儀式です」
儀式だと?
それじゃあ俺はもう魔法が使えるということか?
「あなたは今の儀式で跳躍の魔法を習得しました。なので今後は並外れた高さを跳ね上がることが可能になったのです」
「えっ。それって本当かよ!?」
「はい。その魔法を使えば、森林を縦横無尽に跳び回ることも容易でしょう」
それなら、この剣を使ってドラゴンの胸を貫くこともできるかもしれない。
つまりあの女性を助けられるかもしれない。
「ありがとう、爺さん! 俺、あのドラゴンと戦ってみるよ」
「そうなさって下さい。あなたには幸せをもたらす力があるのですから」
「幸せをもたらす力?」
俺の疑問はすぐに消え去った。
あの女性の甲高い悲鳴が響き渡ってきたからだ。
俺は剣を力強く握ると、ドラゴンに向かって走った。
彼女はドラゴンの握る力に苦しみ悶えている。
一刻も早く解放してあげなければ、握り潰されてしまいそうだ。
俺はドラゴンに近づくと、魔法の力を信じて地面を強く蹴って跳躍した。
すると驚くことにこの身は空高く跳び上がり、一瞬にしてドラゴンの顔の前にまで達したのだ。
「と、跳び過ぎた!!」
それを見たドラゴンは息を吸い込み、俺へ目掛けて炎を吹きかけてきた。
「ヤバい!」
俺は更に高く上がりドラゴンの後方へ行くと、長い首を掴んで滑り落ちていった。
ドラゴンは彼女を掴んでいないもう片方の手で掴もうとしてくるが、肩や背中を転々と跳び移る俺を捕らえることはできない。
胴体や翼をジタバタさせ始めたので、俺はドラゴンの体にしがみつく。
しばらく暴れていると、ドラゴンは疲れたのかその動きがだんだんと鈍くなってきた。
「チャンスだ!」
俺は一度、地面へと跳び降りドラゴンの前方へと走る。
ドラゴンは余裕がないのか、俺の行動に気付いていないようだ。
「今度は高さを調整して……」
高く跳ね過ぎないよう力を加減して、ドラゴンの胸めがけて跳躍した。
そして剣を構えて、胸の中心に狙いを定める。
標的を捉えると、俺は雄叫びをあげて剣をドラゴンの胸に突き刺した。
ドラゴンは絶叫し、傷口から血飛沫を飛ばしながら倒れていく。
「捕まっていた女性はどこだ!?」
周りを見渡すと、捕まっていた彼女はその手から逃れ地面に向かって落下していた。
俺はドラゴンの体を蹴り飛ばすと、彼女めがけて跳んでいきその身を抱く。
この瞬間、俺は不思議な繋がりを感じた。
それはまるで彼女と一つに結ばれるかのような、そんな温かい感覚だ。
何だ、こんな時に?
俺は一目惚れでもしてしまったのか?
地面に着地して彼女の顔を見てみる。
どうやら命に別状はない様子だ。
「あ、あの……」
「怪我はないかい?」
「はい……」
俺はお姫様抱っこをしていた彼女を地面に下ろした。
言葉ではああ言っていたが体には軽傷を負っているし、まだ少し怯えているようだ。
だから俺は彼女を安心させるために伝えた。
「ドラゴンは倒したから、もう心配はいらないよ。危険はどこにもない」
彼女は俺の顔を見た後、俯きながら言った。
「あの……。助けてくれて、ありがとうございます」
「俺一人の力で助けた訳じゃないよ。あの爺さんが俺に力を与えてくれたんだ」
俺が彼のほうを向くと、ニッコリと笑ってくれた。
「あの人が剣と魔法の力を与えてくれたんだ。そのおかげで俺は君を助けることができた」
「それだけではないですよ」
お爺さんはこちらへ歩いてきて、立ち止まると優しげな声で話した。
「あなたは私が与えた物だけではなく、別のものを持っています。それは勇気です」
「勇気?」
「はい。あなたは彼女を助けたいがために、自分の命を顧みずにドラゴンへ立ち向かいました」
彼の話を聞いて、ドラゴンの亡骸に視線を向ける。
俺はこの巨大で邪悪なドラゴンと一人で戦ったのか……。
改めて考えると、なぜそんな勇気が湧いたのかはよく分からない。
ただ彼女を守りたい、その一心で動いたのだ。
「あなたには勇気があります。そしてそれが、皆に幸せをもたらす原動力となっているのです」
「皆に幸せをもたらす……」
その言葉を聞いて、自分の中にある一つの想いが輝きを放ったような気がした。
幸せになりたい、みんなを幸せにしたい、ハッピーエンドを迎えたい。
叶ったことはないけど想い続けてきた望み。
それを俺は無意識のうちに彼女を守ることで、叶えようとしていたのかもしれない。
「ですのでこれからも頑張って下さい。旅する先の場所にいる人々を幸せにするために」
「旅する場所? それってどういうことだ?」
「詳細は後ほど別の者から説明があります。私はこれで」
そう言うとお爺さんは自身の腕を横に広げた。
突拍子もないその行動に驚くと、それを遥かに超える驚愕の光景を目の当たりにする。
広げた腕は翼へと変化して、足は黄色いかぎ爪となり、顔面から立派なクチバシが生えてきたのだ。
その姿はどう見ても動物のワシだった。
俺はそれを見て、仰天の声をあげることしかできない。
「驚きましたか?」
お爺さん……いや、ワシが楽しげに聞いてくる。
「いや当たり前だよ!! 突然、人がワシに変身したら驚くでしょ!?」
笑い混じりに彼は謝罪した。
「移動する時は魔法を使って、この姿へと変身するのです。そのほうが素早く動けるので」
「なるほど……」
本当は二割くらいしか状況を理解できていなかったがそう答えた。
魔法というのは本当に何でもできてしまうんだな。
「では、失礼します」
ワシは空高く飛び去っていった。
「不思議な人だったな」
去っていく姿を眺めていると、周りから呼びかける男性の声が聞こえてきた。
「おーい! そこの君!」
誰を呼んでいるのかと辺りを見渡す。
だが彼の向いているほうには俺しかいない。
ということは俺を呼んでいる?
「君だよ君。さっきあのドラゴンを倒したよね?」
「う、うん。倒したけど」
「凄いじゃないか! あんな巨大なドラゴンを一人で倒してしまうなんて! 君はこの世界のヒーローだよ!」
「そんな、大袈裟だよ」
周囲を見渡すといつの間にか人々が集まっていて、賑やかな場となっていた。
そして彼らはまるで正義のヒーローにでも出会ったかのように、輝かせた瞳をこちらへ向けているのだ。
俺はこの状況に恥ずかしいような誇らしいような微妙な思いでいた。
でもあえて言うなら嬉しい気持ちが一番に勝っている。
「みんなを救ってくれてありがとう!」
「ドラゴンと戦う姿、本当にカッコ良かったわ!」
「僕のこと弟子にして下さい!!」
「ヒーローさーん、私と結婚してー!」
俺に対する賞賛の声が次々と飛んでくる。
こんな状況になったのは初めてだから、どうすればいいか分からない。
とりあえず笑って手を振っておくことにする。
すると突然、俺の目の前に紫色の渦が現れた。
人間サイズのブラックホールのようなもので、それが何なのかは見当もつかない。
好奇心で凝視していると、中からおもむろにえんび服を着た紳士が出てきた。
「お待ちしておりました。幸一様」
「なぜ俺の名前を!?」
名乗ってもいない自分の名前を呼ばれ、ドキッとする。
俺の名を知っているこの青年は誰なんだ?
さっきのお爺さんと関係のある人なのか?
「わたくしは幸一様を次の場所へとご案内するために来ました、ガブリエルと申します」
「次の場所?」
「今後、出発の際には幸一様の脚となるためにお供させて頂く所存ですので、どうぞよろしくお願い致します」
俺の問いを華麗にスルーされて、慌てざるを得なくなる。
このままでは、このスマート高身長のイケメンに拉致されかねない。
「ちょ、ちょっと待って! 話が急すぎるよ!」
「何か問題がございますか?」
「大ありだよ!!」
言われたことを慌てて整理する。
いま疑問に思っていることは、次の場所についてだ。
「次の場所に案内するって言ったよね? それってどういう意味?」
「言葉通りの意味でございます。この場所は幸一様が既にハッピーエンドへ導いて下さいました」
「ハッピーエンドへ導く?」
また新しい言葉が出てきて、俺の抱く疑問が増えた。
このガブリエルと名乗る青年は、この世界のことに詳しいのだろうか?
「はい。この場所の物語は、幸一様の手によって終わりを迎えました。ですのでこれ以上、滞在する必要はございません」
「待って、いま物語って言った? この場所の物語ってどういうこと?」
「この世界には物語が存在しています。物語の意味はご存じの通りです。そしてそれをどう進めるか、どんな結末にするかは幸一様の選択次第なのです」
どう進めてどんな結末にするかは自由って、それじゃあまるでゲームじゃないか。
というよりもどっちかといえば現実に近い?
いずれにしても俺が何かをしないと始まらないってことか?
「どうして、俺にそんな権限が……」
俺が不思議に思うと、彼は得意げに答えてくれた。
「それは幸一様が非常に強く幸せを望まれているからです」
「俺が幸せを? 確かに幸せにはなりたいけど」
「幸一様の幸せを望む想いの力は、並大抵のものではありません。そのことを、神が見抜いてあなたを選んだという訳でございます」
神だって?
そんな凄い存在が俺を選んだなんてとても信じられない。
俺はそこら辺にいる……いや、それ以下の人間だぞ。
「そんなの信じられない。それに確かに幸せを望んでいるけど、そこまでじゃないと思う」
「それではどうして、ドラゴンを倒したのですか?」
「それは……」
囚われていた女性やみんなを守りたかったからだ。
そしてそれは結果的に幸せを創り出すことになる。
頭では理解できるが、それでも納得はできなかった。
「他の方はドラゴンから逃げることで精一杯でした。ですが幸一様は一人でも勇敢にドラゴンと戦いました。それは自身が思っている以上に、人の幸せを望んでいることの表れではないでしょうか?」
……そうなのだろうか?
俺は自分でも気づかない内に、そんなヒーローや聖人君子のような心持ちになっていたのだろうか?
もう自分でも分からない。
「わたくしから申し上げられるのはこのくらいです。それでは幸一様の準備が整い次第、次の場所へとご案内致します」
「案内するって言われてもな……」
彼の言うことが本当なら、俺は次の場所へ行って使命を果たさなければならないのだろうか?
別にやりたくない訳ではない。
でもそんな大役を俺に任せてしまっていいのだろうか?
「あの! すみません」
声をかけてきたのは、ドラゴンに囚われていたあの女性だった。
そして彼女は何かを言いたげだ。
何だろう?
「あの……。私もその旅に連れていってもらえないでしょうか?」
「君も一緒に?」
「はい。わたし助けてもらったお礼がしたいんです。でも何も持ってないし、今できることもないから」
彼女はそう言って申し訳なさそうに俯いた。
「いいよお礼なんて。俺は君を助けられただけで満足してるんだ」
「でも、それじゃあ私が納得いかなくて」
彼女の言い分は分かるが、恐らく次の場所でもドラゴンのようなモンスターが存在するだろう。
だとすると彼女を連れていくのは危険だ。
ここに留まってもらったほうがいいだろう。
「でもついて来るのは止めたほうがいい。またいつモンスターに襲われるか分からない。だから……」
「自分の身は自分で守ります!!」
不意に出した彼女の大きな声に一瞬おどろく。
命の危険を冒してまでついて来たいのか。
そこまで決意が固いとは思わなかった。
「さっきは突然おそわれて、びっくりして頭が真っ白になっちゃったんです。でも今度は大丈夫です。自分の身は自分で守りますから」
彼女は必死に弁明した。
その強い熱意に押されそうになる。
「どうしてそこまでして……」
「私、恩返しがしたいんです。あなたに守ってもらったから」
そう言いながら、なぜか彼女は目を潤ませる。
今にも泣き出しそうな彼女に、ついて来るなと突き放すことはできなかった。
「分かった。いいよ、ついて来て」
「本当ですか。ありがとうございます……」
「ああ。だからお願いだ、泣かないでくれ」
彼女は潤んだ目を袖で拭いた。
本意ではないが、彼女を連れて次の場所へ行くことにする。
思い返せば俺はこの謎の世界でハッピーエンドを迎えることができた。
ゲームではなくちゃんと感覚を実感できるこの世界で導けたことに、とてつもない喜びを感じ幸せだ。
涙を拭いている最中の彼女のほうへ視線を向ける。
ドラゴンから守った彼女を連れていくのなら、また全力で守らなければならない。
そうしなければならない理由はないが、俺がそうしたいんだ。
だからそのために次の場所でも目指そう。
最高のハッピーエンドを。