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レオの胸の内

「なあ、何でさっきから黙っているんだ? おれ何か悪いことでもしたか?」


 俺たちはあの後、次の星へ向かうことにした。

 しかし流石にガブリエルに四人で乗っていくのは無理だったから、俺とレオはガブリエルに乗って、結愛はシャルロットの魔法で移動することに。

 行き先は既に打ち合わせ済みだから、着いたら合流できるだろう。


 ただ一つ問題なのは、レオが移動中に全く口を利いてくれないことだ。

 そうする理由も分からず、お手上げ状態にある。


 唯一、思い当たる節はシャルロットの魔法によって分かった、俺がこの世界の命運を握る者だということだ。

 しかしそれが原因なのか聞いても、答えてはくれなかった。


 俺にとってこの件は悩ましいもので、レオに相談に乗って欲しかったのだが、その望みは叶いそうにない。

 俺はただこのワームホール内に流れる景色を眺めながら、解決しない悩みで頭を一杯にさせるのだった。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



「到着致しました。幸一様」

「ありがとう、ガブリエル」


 レオは着くなり少し先へ進んで、新しい星を見回していた。

 俺はガブリエルと二人になったから、彼にレオのことを聞いてみる。


「一つ聞きたいんだけどさ。レオがあんな状態なのって、命運が何とかってやつと何か関係があると思うか?」

「わたくしには詳しいことは分かりません。ですが、もしそうであればお気をつけ下さい」

「何に気をつけろって言うんだ?」


 俺が聞くとガブリエルは普段より深刻で、心配そうな顔つきをした。


「命運を握る者になるということは素晴らしい名誉です。わたくしも幸一様のことを尊敬しております」


 そう言ってからガブリエルは俺に顔を近づけて、レオに聞こえないように小声で後を続けた。


「ですが、この名誉を心良く思わない人がいるのも事実です。時にはそれを理由に幸一様を狙う輩が出てくる可能性もございます。ですので勝手ながらご忠告させていただきました」

「マジで? 俺の命を狙う奴がいるかもしれないってこと?」


 俺の問いにガブリエルは静かに頷く。

 この称号がそこまで重大な意味を持っているとは思わなかった。


「だとしても、流石にレオは俺を倒そうなんて思ってはいないだろう? 仲間だしそういう奴じゃない」


 ガブリエルは口を閉じたままで、俺に同意はしなかった。

 まさか、レオに限ってそんなことはないよな?

 嫌な予感が俺の心をざわつかせる。


「……そういえば、結愛とシャルロットはまだ移動中か?」

「彼女の魔力であればもう着いてもいい頃です。なので恐らく到着地点がずれてしまったのでしょう。大きくは離れていないはずなので、近くを捜せば見つかると思います」

「そういうことか。分かった」


 俺が感謝を伝えると、ガブリエルはまた次の星を探しに行く。

 俺たちが話している間、レオは無言で道の向こうを見つめていた。


 そしていま気づいたが、ここは坑道のようだ。

 石でできた壁と、そこに付けられた松明。

 時おり煌めいているのは火の光ではなく、埋まっている鉱石のようだ。

 等間隔に作られた坑木がいい味を出していた。


「レオ。とりあえず先に進もう。結愛とシャルロットを捜さないと」


 レオは黙ったまま歩を進め始めた。

 俺も横に並んで、坑道の奥へと向かう。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



 数分のあいだ歩き続けたが、一向に辺りの景色に変化は訪れない。

 ずっと一本道の坑道だ。


 レオも変わらず、黙ったまま歩いているだけだった。

 このままでは埒が明かない。


「レオ。いい加減に何か言ったらどうだ? 黙ってたら何も分からないだろう?」


 ……やはり話しかけても返事はない。

 どうしたものかと諦めてかけていた、その時だった。


「俺の親父は、最強の戦士だった」


 唐突にレオが話を始めた。

 さえぎる理由もないので、俺は耳を傾けることにする。


「俺の住んでいた星のヒーローだったんだ。みんなの憧れの存在だ」


 レオが強いのは知っていたが、父親もそうだったのか。


「レオも憧れていたの?」

「ああ。俺もあんな強い人間になりたいと思った。そして同時に親父のようにみんなに認められたいと、そう思ったんだ」


 親父のように認められたいか。

 俺は他人に認められたいと思ったことがほとんどないから、正直レオの気持ちは分からない。

 けれどレオが熱心にモンスターと戦ってきたことを思うと、その気持ちはかなり強かったのだろう。


「だが、小さい頃の俺は弱かった。敵を倒す力もなければ、モンスターに立ち向かう勇気もなかった。俺は情けない奴だった」

「それが悔しかったの?」

「ああ。一番くやしかったのはみんなに馬鹿にされたことだ。認められるなんて夢のまた夢だった。お袋は気にするなと励ましてくれたが、俺は諦めることができなかった」


 レオは確かに馬鹿にしたら怒りそうだけど、そこまで承認されたいと思っていたとは意外だった。

 もしかして、ここに今まで黙っていた訳が隠されているのか?


「だから俺は努力したんだ。来る日も剣を振り回して、何度も魔法を使って、モンスターをたくさん倒して……」

「そのおかげで強くなれたじゃないか。レオと初めて会う少し前に、巨大なモンスターを一人で倒していただろう。あんなこと普通はできないよ」

「確かに強くはなれた。しかし一番ではないし、馬鹿にはされなくとも認められることはなかった。そしてこの経験を経て俺はこう思った。俺が今まで頑張ってきたことは何だったんだってな」


 そうか、レオは自分が望んできたもののために頑張ってきたのに、結果が伴わなかったから失望したんだ。

 それはとても辛いことだろう。


 初めて会った時に、俺が初戦闘でドラゴンを倒したことを伝えたら怒った理由がいま理解できた。

 まともな努力もしていない人間が、いきなり実績だけを横からかっさらっていったら不快に思うのは当然だ。

 レオには本当に申し訳ないことをしてしまった。


「レオ。俺、今気づいたよ。ごめ……」


 突如、俺が話している途中に悲鳴が響き渡った。

 その声には聞き覚えがある。

 恐らく結愛のものだろう。


 俺は結愛に身の危険が迫っていると確信し、すぐに道の奥へと駆け出した。

 足音から察するにレオもついて来てくれているようだ。


 少しすると広い空間へと出た。

 見渡すと結愛とシャルロットが、別々の場所でモンスターに襲われているのが分かる。


 待っていろ結愛、いま俺が守ってやる。

 俺はすぐさま結愛の元へと走り、剣を抜いてモンスターたちを次々と斬り裂いていった。


 何も迷うことはなく、戸惑うこともない。

 ただ結愛を守りたいという一心で、俺は剣を振り回し続けた。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



 気づけば結愛に迫る危機はなくなっていた。

 骸と化したモンスターたちがあちこちに散らばっている。


 俺は結愛を助けることができたのか?

 そうだ、結愛は無事か!?


「結愛!! 大丈夫か!? 怪我はないか!?」

「はい。私は大丈夫です……」


 言葉ではそう言っていても、気持ちを隠すことはできていない。

 彼女は目を潤ませた後、抑えきれなくなったものを零して俺に抱きついてきた。

 俺も抱き締め返して、彼女を安心させることに専念する。

 とにかく外傷はなく無事でいてくれて良かった。


「怖かったか?」

「はい……」

「すまない、肝心な時に一緒にいてやれてなくて」

「いいんです。こうやって、あなたは助けに来てくれました。それだけで嬉しいです」


 その言葉を聞いて、より強く結愛を抱き締める。

 そして彼女の温もりを感じる中で、俺は気づいた。

 俺はこの世界で、結愛のために生きているのだと。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



 抱擁を解いて顔を合わせると、少し恥ずかしい気持ちになった。

 結愛も頬を染めていて、同じように照れていることが分かる。

 互いに冷静になったからだろう。


 辺りを見てみると、レオとシャルロットも無事だった。

 レオが剣を抜いて手に持っているのを見る限り、彼女のことを守ってあげたのだろう。

 俯いて亡き骸を眺めるレオのことを、シャルロットはずっと見つめ続けていた。


「幸一」


 突然、名前を呼ばれて少し驚く。


「行くぞ」


 そう言うと、レオは新たな道を先へ進み始める。

 俺は彼女たちと顔を合わせた後、レオの後ろについて行った。


「道は分かるのか?」

「……」


 レオは再び黙り込んでしまった。

 彼の異様さに、結愛とシャルロットも気づいたようだ。


「レオさんと何かあったんですか?」

「俺が聞きたいよ。何で黙ってるのか聞いても教えてくれないんだ」


 結愛もレオへ話しかけてみるが、返事は返ってこない。

 どうやらこの態度をとっているのは俺へだけじゃないようだ。


 そうなると、ますます理由が分からない。

 ふとシャルロットのほうを見てみると、何やら心当たりがありそうな顔をしていた。


「シャルロット。もしかして理由が分かるのか?」

「ええ……。多分だけど、きっとアレが原因よ」

「アレって何だよ? まさか魔法少女に変身させたことじゃないよな?」


 彼女は首を横に振った。

 ということは、やっぱり俺が命運を握る者だったことが関係しているのか?

 シャルロットに詳しい話を聞こうとしたが、結愛の一言でそれはお預けとなった。


「あれって出口じゃないですか!」


 一本道の先を見てみると、そこには松明とは違った別の光が差し込んでいた。

 結愛の言う通り、もうすぐ出口のようだ。


「ようやくね。お姉さん暗くてジメジメした場所って好きじゃないから助かったわ」


 俺たちはそれぞれの思いを胸に抱えながら、道の奥にある光を目指す。

 出口に着くと一瞬、眩しくて目を瞑ってしまったが、すぐに開けることができた。

 なぜなら外は既に夕暮れどきだったからだ。

 そして地上に出た俺たちの前に立派に建っていたのは紛れもない国宝、姫路城だった。




 ♢ ♢ ♢ 姫路星 ♢ ♢ ♢




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― 新着の感想 ―
[一言] え、姫路城?(;'∀') そしてレオ……もう口きいてくれないのだろうか(;'∀')
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