シャルロットの正体
シャルロットは泣き止み冷静さを取り戻す。
ルイは彼女が飛び出してきた時もそうだが、俺たちが姿を現すと大層に驚いていた。
しかし訳を説明すると彼はすぐに納得してくれた。
盗みを犯したとはいえ根はとても優しい子なのだろう。
結愛がルイの頭を撫でた時は、照れくさそうに頬を赤らめていた。
「こんなに可愛い子が物を盗んだなんて、信じられませんね」
「外見に惑わされるな。人間は中身が重要なんだ」
「あら、ルイは外見だけじゃなくて中身も可愛いのよ。例えばディスティニーランドのお化け屋敷に入った時なんか……」
シャルロットが意気揚揚と思い出を語ろうとすると、ルイは「やめて! やめて!」と声を上げながら彼女に抱きついた。
なるほど、中身が可愛いとはこういうことか。
俺たちはルイが事件を起こして、さっきまであんなにも焦っていたというのに、いつの間にか朗らかな調子を取り戻していた。
これは彼らの姉弟愛のおかげなのかもしれない。
「そういえば、お姉ちゃんたちどうしてここにいたの?」
「どうしてって、分からないの? あんなことしでかして!」
「あっ。やっぱりそれで僕のこと捜してたんだ……」
シャルロットはムッとした表情でルイを睨みつけた。
それを見て彼は申し訳なさそうに身をすくめる。
若気の至りでやってしまったことなら叱るべきだと思うが、彼の背景にある事情を知っているとそうはいかない。
「シャルロット。今は怒るよりも先に例の話をしてあげたほうがいいんじゃないか?」
「……そうね」
「何? 例の話って?」
シャルロットは悩むような表情を続けた後、決心がついたのかキリッとした目つきで言った。
「この中に魔法を使える人はいるかしら?」
突然の問いに少し戸惑う。
今この状況に魔法は関係あるのか?
「あなた魔法は使える?」
「少しならな。最近覚えたばかりだし」
そう答えるとシャルロットは「じゃあ駄目ね」と言い、今度は結愛に聞いた。
当然、結愛もこの世界に来たばかりだから魔法は使えない。
となると残りは一人だ。
「そこの無口な人。あなたは魔法は使える?」
「ああ。戦いの中で必要になることがあるからな。ある程度は扱える」
「ちょっと右腕を見せて」
シャルロットがレオの右腕を手に取ると、レオは「な、何をする?」と珍しく動揺を見せた。
心なしか彼の頬は少し赤くなっている。
もしかして照れているのか、レオ……?
「これなら大丈夫そうね。ちょっと協力してちょうだい」
「協力って何を……?」
「魔法少女になるのよ」
「は?」
シャルロットが右手を掲げると、その先が眩く光り輝いた。
そしてその光は次第に下がっていき、通り過ぎた部分が変容していく。
現れたのは可愛らしい服装で、それを見れば彼女が魔法少女に変身していっているのが分かる。
その光景を見てやっと頭が追いつく。
シャルロットは哲学者であり、姉であり、魔法を使いこなすことのできる魔法少女だったのだ。
レオと結愛、それにルイもみんな目を丸くしながら、彼女が輝きに着飾らせているさまを眺めていた。
シャルロットは魔法を終えて完全に魔法少女へ変身したことを確かめると、レオのほうへ歩み寄る。
その時、俺の脳内にある悲劇の情景が浮かび上がった。
そしてそれは不幸にも的中してしまう。
「あなたも魔法少女になりなさい」
「冗談だろ……?」
シャルロットはレオの右腕を掴み、無理矢理に高く上げさせた。
レオの右手が光を放ち、たちまち魔法少女へと変貌していく。
あっという間に彼は、少女漫画に出てきそうな女性らしい姿になってしまった。
頭に付いたリボンとフリフリのスカートが何とも可愛らしい。
「貴様……許さんぞ」
「ルイ。教えたいことがあるの」
シャルロットはレオを無視してルイへ話しかけた。
彼はハッとして釘付けになっていたレオへの視線を緩めて、彼女のほうへ向く。
彼女は一つ間を置くと、今までに見たことのない真面目な顔つきで話し続けた。
「お母さんとお父さんのことについてよ」
ルイは何のことか察したのか顔からは安心が消え、代わりに悲しげとも憎さげともとれるようなものになった。
この姉弟にとって両親の話は、自分たちの深い部分に根付く切っても切り離せない深刻な問題なのだろう。
だからこそ伝えなければならないのだ。
ルイにまつわる負の連鎖を断ち切るためにも。
「今まで黙っていてごめんなさい。お姉ちゃんはね、知っているの。お母さんとお父さんが去っていった理由も、ルイとお姉ちゃんを置いていった訳も」
「知ってたの? じゃあ何で今まで黙ってたの!?」
「それにも理由があるの。納得してもらえるかは分からないけど、今はお姉ちゃんを信じて欲しい」
ルイは腑に落ちない様子だが、黙って反論せずにその言葉を受け入れた。
シャルロットが右手を握りながら横へ伸ばすと、その中から魔法少女に付き物であるステッキが二本飛び出てくる。
「あなた、これを左手に持ちなさい」
「ふざけるな。こんな服装にしてどういうつもりだ? それに加えて俺に命令するとはいい度胸だ」
「申し訳ないとは思っているわ。でもこれもルイのために必要なことなの。分かってちょうだい」
「これがどう必要なんだ!!」
レオの怒りが今にも爆発しそうだ。
無理もない。
俺ならまだしも、レオはこういうことが苦手な性格だろう。
「一人じゃ魔力が足りないのよ。それにお姉さんが持つ強大な魔法を使うには、魔法少女に変身しなければならないという制約があるの。だからあなたに協力してもらうためには一緒に魔法少女になってもらう必要があったの」
「話の筋は通っているが、協力すると言った覚えはない。後、その杖は何だ?」
「これも装飾の一つよ。はい、持って」
「待て。まだ協力するとは……」
シャルロットは構わずにレオの左手にステッキを握らせると、彼と手を繋ぎステッキをしなやかに掲げた。
レオにも同じように掲げることを急かせると、渋々その手を上げる。
すると二本のステッキの先が強烈な光を放つ。
そのあまりにも眩しい輝きに、俺たちは目を瞑ることを余儀なくされた。