シャルロットが暮らす星
「ワームホールの中って綺麗ですね!」
黒豹へ変身したガブリエルに乗って移動している最中に、結愛が喜びながら言った。
中は無重力になっているのかそれともガブリエルが浮遊しているのか、浮きながら落下することなく進めている。
周囲の全ては夜空になっていて、星々が無数に煌めいていた。
そしてその中で、冬の訪れを彩るオーロラと雨上がりを描く虹たちが色濃く現れては消えている。
現実で見る機会が少ないこの現象は、どこか幻想的で美しかった。
「レオはワームホールを通るのは初めて?」
「ああ。さっきの場所から出たことがないからな」
「そうだったんだ」
てっきりレオは色々な世界に行ったことがあるのかと思っていた。
もしかして俺みたいに世界を渡り歩いてる人は珍しいのか?
まあそういうことも次の世界で調べてみればいいか。
「そういえば、スケルくんはどうしていますかね……?」
結愛がその名を口にして俺も思い出した。
スケルは前の世界でボスを倒した後、目覚める気配がないから放置したのだ。
可哀想にも思えたが、レオは「自分たちを襲った奴のことなど気にする必要はない」と突き放していた。
レオの言うことはもっともだったし、あの城にはスケル以外に誰もいない状態だったから心配はないだろう。
しかしスケル自身はボスが亡くなって悲しい思いをしているに違いない。
せめて目を覚ますまで待ってあげるべきだっただろうか?
「俺たちのことを襲ったくらいだ。図太く生き抜いているだろうよ」
「そうですかね……」
「考えても仕方ないよ。レオの言う通り、一人で上手くやってると信じよう」
スケルのことは普通なら敵と捉えるだろうが、結愛は優しいから気になってしまうようだ。
俺は彼女のこういった母性が長所だと思うが、それが行き過ぎると自らを置き去りにしてしまいそうだとも思った。
だからこの後を引く話を断ち切るために、俺は話題を変える。
「ガブリエル。後どのくらいで着きそう?」
「もうすぐでございます。幸一様」
夜空の先に輝く光が見えてきた。
次の世界がどんな場所なのかは分からない。
それでも俺は見つけるんだ。
世界の真実を。
♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢
光に満ちた空間へ入ってから、眩しくて目がくらんでいる。
そんな中ガブリエルの動きが止まったと体感で分かった。
もう次の世界に着いたのだろうか?
視界が回復するのを待っていると、結愛の歓喜の声が耳に入ってきた。
「すごーい!! まるで映画みたい!!」
映画だと?
どういうことだ?
そんなに凄い世界なのか?
一刻も早く見てみたい気持ちに駆られながら、目を瞑り数秒の間じっとしている。
そして目を開けてみると、そこには予想外の光景が広がっていた。
「これは……未来の世界!?」
そこには空を飛び交う車、そびえ立つ超高層ビル、極めつけに空中に映っているまるでテレビのような映像があった。
決してテレビが浮いている訳ではない。
強いて言うなら映像が宙で流れている。
これがテクノロジーの進化というものなのだろうか?
♢ ♢ ♢ City and Country星 ♢ ♢ ♢
「驚いたな。俺が過ごしていた場所とは全然違う。ここはまるで……」
「そっか。レオは別の世界を見るのが初めてだもんな」
レオを連れてきて正解だった。
新しいものを見たり、知らない情報を学ぶことはレオのためになるだろう。
もちろんそれはレオだけではなく、俺と結愛にとってもだ。
「ありがとうガブリエル。ここまで乗せてくれて。この後はまた次の世界を探しに行くのか?」
「おっしゃる通りでございます。場所の掛け橋となり幸一様をお連れするのが、わたくしの役目でございますから」
「なあ。気になってたんだが、そのガブリエルって人は幸一の何なんだ?」
何って聞かれても、俺にも分からない。
そもそもガブリエルには俺のほうから関わった訳でもない。
「さあ? ガブリエル、君って俺の何なの?」
「特に決まっている訳ではございませんが、執事のようなものでしょうか。お困りのことがございましたら、何なりとお申しつけ下さい」
今までの対応を見てそんな気がしていたが、本当にそうだったとは。
なぜ俺なんかに執事がついたのだろう?
「あの、ガブリエルさん。ここにも前の世界みたいに怖いモンスターが存在しているのですか?」
「いえ、ここは比較的モンスターの少ない場所のように見受けられます」
「そうなんですか。良かった……」
このSFのような世界は安全ということか。
確かにモンスターが出てきそうな気配はないな。
「もう一つわたくしのほうからご説明致しますと、この場所は世界ではなく星と呼んだほうが相応しいと思います。今まで訪れた場所は全て同じ世界に存在していますから」
「そうだったのか!?」
俺はてっきり色々な世界を渡り歩いているのかと思っていた。
早くも新情報を手に入れることができたな。
「わたくしの話が少しでもお役に立てていれば幸いです。ではそろそろ次の星を探しに行こうと思います。幸一様。それから皆様。後ほどお会い致しましょう」
ガブリエルはそう言って一礼すると、ワームホールの中へ消えていった。
俺と結愛は手を振って彼を見届ける。
それじゃあ早速この世界の調査を始めるか。
前の星で決めていた目的通り、情報を集めることに専念しなければ。
そしてそれには二人の同意も必要だ。
「結愛とレオに提案があるんだ。前の世界……いや、星で俺の単独で決めたことなんだけど、ここでは世界の情報収集をしようと思っているんだ。この世界のことをもっと知りたいと思ってそう決めたんだけど、どうかな?」
「私は良いですよ。幸一さんについて行きたくて、ここにいるんですから」
「俺も構わない。勝手についてきただけだからな」
二人は心良く受け入れてくれた。
俺は笑顔で感謝を伝える。
「ありがとう。二人共」
結愛とレオがついて来てくれることが、俺にはとても心強かった。
そうと決まれば早速、調査を始めよう。
まずはこの星を歩き回って、どんな場所か把握しておこう。
「とりあえず街の中心へ向かってみよう。人がたくさんいるだろうし、何か知らないことを聞けるかもしれない」
「そうですね。行ってみましょう!」
周りには高いビルが並んでいるが、奥には更に高い建物が見える。
まずはそこを目指してみよう。
♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢
しばらく歩き続けていると、人数が増えてきた。
辺りにはビルやマンションだけではなく、アパレルショップやファーストフード店もある。
映像もそこかしこで流れていて、とても賑やかだ。
「あそこに映っているのは、この星で流行りのアニメかな?」
「幸一さん! あっちのほうで可愛いアイドルみたいな子が映っていますよ」
どうやらこの星の文化は俺を歓迎しているようだ。
俺好みの映像がどでかく存在感を示している。
この星に住むのも悪くないかもな。
「おい、情報を集めるんじゃなかったのか?」
「あ、そうだった」
危うく本来の目的を忘れるところだった。
冷静を取り戻して、とりあえず話を聞いてみるか。
……話を聞くと決めたはいいけど、どう聞けばいいんだろう?
いきなりこの世界のことを教えて下さいと尋ねても、困るだけではないか?
いやそれより、まずは誰に教えてもらうかを考えるべきか?
「なあ。話を聞こうとは思ってたんだけど、誰に聞けばいいのかな?」
「そうだな。この世界のことについて博識な人に聞くといいと思う」
「それって誰だよ?」
「うーん……」
まさかこんな最初の段階でつまずくことになるとは。
ガブリエルに頼っておくべきだったか?
「あの、そういうことを調べる職業に就いている人に聞くのはどうでしょう?」
「なるほど。それは名案だな!」
「それってどんな職業だ?」
世界のことを調べる職業……科学者とかかな?
そっちの方面はあまり詳しくないから分からないな。
「哲学者はどうでしょうか? 世界の真理について研究しているイメージがあります」
「ああ、確かにそんなイメージがあるな。よし、じゃあまずは哲学者を探そう!」
俺がそう言うと、結愛も「おー!」と言いながら腕を上げて賛同してくれた。
レオも見た感じ乗り気のようだ。
世界のことを知るために力を入れていこう!




