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愛と幸せを一つに結ぶ 理創郷の七星物語  作者: 天无
ロールプレイングゲーム星
10/36

幸せの源は何か

 巨人の体に埋まっていた生物たちが分離していく。

 そしてそれらは腐敗していき、ドロドロに溶けたあと遺骨だけを残した。


「幸一さん!!」


 結愛は散乱している遺骨を避けながら、骸骨が巨人から落ちた場所へ向かう。

 レオも巨人の永眠と共に気絶した人間を背負って、骸骨の元へ急ぐ。


 結愛は骸骨の元へ着くと、上体を持ち上げて安否を確かめる。

 肋骨の間から見える心臓は鼓動を奏でていた。


「生きてる……。良かった」

「ソイツはもう幸一じゃないだろ?」


 人間の体を運んできたレオが言った。

 もし結愛の予想が正しければ、両者の魂は元に戻っているはずだ。


「そうですね……」


 結愛はレオが仰向けに寝かせた人間の体へ近づく。


「俺はコイツを見張っておく」


 レオは骸骨の側で待機する。


「幸一さん。大丈夫です。きっと元に戻っていますよ」


 結愛は彼の手を握った。


 しばらくの間、城内を静寂が包み込む。

 鳴り響いていた雷雨は収まり、夜は身を潜めた。

 屋根の端から落ちた雨粒が、水たまりを打つ音だけが微かに聴こえる。

 しずくの滴る窓からは、輝かしい朝日が差し始めていた。


 するとおもむろに誰かの口元が小さく動く。


「結愛……」

「幸一さん!!」


 結愛が前のめりになり幸一の顔を見つめる。


「あれ? 結愛。俺は一体なにを……」


 結愛は幸一を起こし強く抱き締めた。


「良かった。元に戻って……」

「……そっか。元に戻れたんだ。俺」


 幸一は自分の手を見て、魔法が解けたことを確かめた。


「いてて、強く抱き過ぎだろ結愛。しかも涙目じゃねーか」

「当たり前です! 私がどれだけ心配したことか。幸一さんは分かってるんですか?」


 結愛は泣きそうになりながら、同時に怒った顔つきで怒鳴った。


「いや倒せば元に戻れると思っていたし。別にそんな心配する必要は……」

「分かってないじゃない!! 私はねこのまま一生、幸一が不気味な骸骨のままじゃないかってずっと心配してたの! もしそうなったらこれから怖い思いをしながら幸一を見ないといけないし、顔もカッコよくないし、手を握っても硬くて冷たいしどうすれば……」

「分かった!! ごめん、俺が悪かったよ! 結愛のことを理解していなかったって認める! 本当に申し訳ない! だから許してくれ!!」


 結愛は「まだ言いたいことがある」と話を続けるが、幸一はそれを聞いて結愛の腕からすり抜けて逃げ出した。

 結愛がそれを追いかけると、賑やかな追いかけっこが始まる。

 レオはそれを呆れながらも、どこか嬉しそうに眺めていた。



 ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢ ◇ ♢



 俺たちは城を出て、思い出を語り合っていた。

 思えばこの世界に来てからというもの、レオと結愛には世話をかけてばかりだ。

 だから二人には、今までのことに対する感謝を伝えた。


 俺は結愛を助けてあげなければならないと思っていたが、それはちょっと間違っている。

 そんな一方的なものではなく、本当は互いに助け合っていたんだ。

 自分も気にかけられていて、助けられていることを忘れてはいけない。


「結愛。これからもよろしくな」

「えっ? 何ですか、突然?」

「そのまんまの意味だよ」


 結愛は頭がハテナになっているようだ。

 どう説明しようか考えていると、結愛のほうから話しかけてきた。


「私、また幸一さんについて行ってもいいですか?」

「ああ。でもあんな危険な目に遭ってきたのに、よくついてくる気になるよな」


 俺の言葉が余計だったらしく、結愛は眉をひそめて答えた。


「こんかい危険な目に遭ったのは幸一さんのほうでしょ? レオさんがいなかったらどうなっていたことか」

「結愛もスケルに人質にされていたじゃないか。そこを俺の素晴らしい戦術で見事に……」


 気がつくとまた痴話喧嘩のようなものが始まっていた。

 レオはまたかと呆れている様子だ。

 どう収拾をつけようかと悩んでいると、横から夫婦のような二人組から声をかけられた。


「君たち。ちょっと聞いてもいいかな?」

「何ですか?」


 結愛がキツく返答したが、男性は笑顔で話を続けた。


「この城の中に一体の巨大なモンスターがいたはずなんだけど、もしかして君たちが倒してくれたのかな?」


 そのモンスターとは巨人のことか?

 それなら倒したから、悪い人たちにも見えないし素直に答えよう。


「はい。巨人のことでしたら俺たちが倒しましたよ。何かまずかったですかね?」

「いやいやとんでもない。むしろ感謝しているよ」


 女性も微笑みながらこちらに視線を向けて言った。


「あなたたちのおかげでね、みんな元の姿に戻れたのよ」

「えっ!? そうなんですか!?」


 あの巨人はスケルだけじゃなく、他のモンスターにも魔法を貸していたのか。

 そして俺たちが倒すことによって、俺だけじゃなく他の人たちにかかっていた魔法も解けたんだ。


「みんな喜んでいたよ。君たちはこの世界の英雄さ。本当にありがとう」


 二人は感謝の言葉をのべて会釈した。

 俺には自分がみんなのためになるようなことをした実感がない。

 そしてそれは結愛とレオも同じのようだった。


「俺はただ自分の姿を取り戻すために戦っただけだよ」

「それでもあの巨大なボスに立ち向っただなんて、勇気のある行動だよ」

「そうね。みんなもあなたたちのことを勇敢だと尊敬するはずよ」


 俺たちがそんな褒められるようなことをしていたとは知らなかった。

 まあ何はともあれ、誰かのためになっていたのならそれでいいか。


「それじゃあ、僕たちは君たちの功績をみんなに伝えてくるよ」

「えっ!? いいよ、そんなこと」

「照れないの! 帰れる時がきたらあの子たちにも伝えてあげましょう、あなた」

「……そうだね。それがいい」


 一瞬だけ二人の間にしんみりとした雰囲気が漂った。

 何だろう、今の間は?


「それじゃあね。英雄さんたち」


 そう言うと二人は手を振ってどこかへ去ってしまった。

 誰だったんだ、今の二人は……?

 どんな人なのか聞くのを忘れてしまった。


「何かいいことしちゃったみたいですね。私たち」

「みたいだな」


 俺と結愛が呆気にとられていると、レオが平静を保って話しかけてきた。


「それより幸一。今後はどうするんだ? 前の世界ではドラゴンを倒したら物語が終わったと言っていたが、さっきの巨人もそれに当てはまっているのか?」


 レオの質問に答えられる程、今の俺には知識がない。

 正直レオの話を聞くまでは、当初の目的すらすっかり忘れていた。

 そうだ、俺はこの世界の物語の終わりを探していたんだ。


「……分からない。もし当てはまっているならもうすぐガブリエルが来るはずなんだけど」

「ガブリエル?」


 するとタイミングを見計らったかのように、目の前にワームホールが現れた。

 そしてその中からガブリエルが出てくる。


「お待たせ致しました、幸一様。次の場所へ旅立つ準備が整いました。いつでもお声かけ下さいませ」

「ガブリエル久しぶり! なあ、前に物語のことを言っていただろ? この世界の物語を終わらせる条件って、やっぱり巨人を倒すことだったのか?」

「一見そのように見受けられますが少々、異なるようです」

「異なる?」


 俺はてっきりボスとなるモンスターを倒すことが終結の条件だと思っていた。

 それが間違いなのか?


「今回の物語が終わりを迎えたのは、幸一様が奪われたお体を取り戻されたからのようです」

「俺が体を取り戻したから?」


 そんなことが条件だったのかと少し驚く。

 俺がやってきたゲームのほとんどは、ラスボスを倒すことでクリアとなる。

 しかしこの世界では、そういった元の世界にある常識とは違う部分があるのだろうか?


「この世界には最初から用意された物語は存在致しません。全ては幸一様の判断や皆様の行動によって創られていくのです」


 それなら元の世界とそこまで変わらないのか?

 まあどうであれ、どうすれば世界の物語が終わるのかを模索することが目的なのは変わらないのだが。


 ……いや、そもそもそれは本当の目的なのか?

 俺は今までそれが目的だと思い込んできた。


 しかしこの世界のことを、俺はまだ良く知らない。

 それなら変に目的を定めるよりも、情報を集めることのほうが先なのではないか?


「ガブリエル。俺はこの世界では、物語を終わらせることを目指さなければならないのか?」

「いえ、それはあくまで到着点でしかございません。どこへ進むのか、その過程で何を成されるのかは全て幸一様の自由でございます」


 だったらこれからの目的は、この世界の情報収集にしよう。

 誰にも文句は言われないだろうしな。


「なあ、幸一」

「何だよレオ?」


 レオが俺を見つめながら声をかけてきた。

 何やら神妙な様子だが、何か頼みでもあるのか?


「俺もお前について行ってもいいか?」

「えっ、レオも!? 別にいいけど、俺について来てもモンスターと戦えるとは限らないぞ?」

「構わない」


 どういう心変わりだろうか?

 俺としてはレオがついて来てくれると心強いのだが。

 まあ本人がついて行きたいと言っているのならそれでいいか。


「分かったよ、レオ。一緒に旅をしよう!」

「ありがとう、幸一。恩に着る」

「やった!! これで今後も賑やかになりますね!」


 俺たちは三人で旅をすることになった。

 人数が多ければ良いという訳ではないが、レオなら信頼できるから大歓迎だ。


「よし! じゃあ行こうか、ガブリエル」

「かしこまりました。幸一様」


 俺たちは黒豹へ変身したガブリエルの背中へと乗っかった。

 ワームホールへ近づいて次の世界を目指す。


 この世界で自分の姿を取り戻すことで、俺は当たり前に存在しているものが幸せの源泉であると気づいた。

 そして俺について来てくれている二人が俺にとっての源泉で、大切な存在であることを忘れないようにしよう。

 結愛とレオを守ることが、俺の望むハッピーエンドを迎える条件だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] フフフ( ´∀` ) もっとにぎやかになりますねぇ。 ただ、一方的に守る的な感覚は……傲慢だと思うのだ。 守り、守られて、を意識しなきゃ( ´∀` )
[良い点] 仲間が増え、絆が結ばれていく様子に、笑顔になりました。 ここまで、毎回どんどん進む話に目を離せず読み進めてまいりましたが、三人になった旅の行く末が、ますます楽しみになりました! [一言] …
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