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大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─  作者: 海凪ととかる@沈没ライフ
事業拡大編

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サミエラはガールズトークをする

やっと書き上がった。10月は異常に忙しくて

 拿捕した海賊船を改装の為にドックに入渠(にゅうきょ)させ、サミエラたちがアレムケル農園に戻って来たのは、折半直(ドッグ・ワッチ)の終わりを告げる夜の1点鐘(20:30)が鳴る頃だった。


「おかえりなさいやし。予定よりずいぶん遅かったでやすな。……む?」


「……っ!」


 カンテラを手に出迎えに出てきたルークは、アネッタとサザナミによって荷馬車から降ろされ、そのままサミエラの背後にさっと隠れた包帯まみれの少女を見て怪訝そうな表情を浮かべる。

 サミエラはその様子を見て一つため息をつき、一度しゃがんで少女を自分の背中におんぶして立ち上がる。


「色々あったのよ。立ち話では到底説明しきれないぐらいね。詳しいことはおじ様に聞いてちょうだい。とにかく、この娘──アリスはこれからうちで保護するからよろしくね。とりあえず、この娘を湯浴びさせて治療したいから、アタシの部屋に湯と清潔な着替えを届けるよう手配してくれる? アニーとナミはこのまま一緒に来て手伝ってちょうだい」


 アリスは意識こそ回復したものの、怪我と衰弱により自力で歩くことは出来ず、またひどく怯えるので男たちを近づけることもできない。ただ意識が朦朧としていた中でもサミエラたちに助けられたことだけは覚えているようで、サミエラとアネッタとサザナミ相手なら怯えずに安心している。


「……へぃ。うちの女房(ハンナ)にそのへんは任せやしょう」


「ええ。よろしく頼むわ」




 そしてしばらくの後、母屋のサミエラの部屋にてアリスの身体を清めて傷の治療と緊急避妊の処置まで終わらせて、ようやく一息ついたサミエラたちは三人揃ってテーブルに突っ伏していた。ちなみにアリスは治療を終えた後でサミエラのベッドで再び眠りに落ちている。


「は~……さすがにしんどかったわ~。自分の小屋に戻らないかんのは分かっとるけどちょっとだけこのまま居させてぇ」


「……ホッとしたら一気に疲れが出てきましたね」


「二人ともありがとねー。ゆっくりしてていいわよ」


 そこへドアをノックしてロッコの妻のマリーがメイドのハンナを伴って入ってくる。


「失礼するわよぅ。あらあら、三人ともお疲れねぇ」


「奥様! すいません。お見苦しいところを!」


 慌てて立ち上がろうとするアネッタをマリーが押し留める。


「そのままでいいわよぅ。あなたたちの雇い主はサミエラちゃんなんだから、サミエラちゃんが良いと言っているなら問題ないわよぅ」


 そう言いながらサミエラたちの前に手慣れた様子でティーセットを並べて紅茶を注いでいく。元々はゴールディ家のメイドであったので仕草の一つ一つが堂に入っている。


「あなたたち三人はろくに食事も取ってないでしょぅ? 軽い食事を準備したからお食べなさいな」


 給仕用のカートを押してきたハンナがてきぱきとテーブルに食事を並べていく。


「マリー姉さんありがとね」


「いいわよぅ。アリスちゃんだったかしら? あの娘は私が見ておくから気にせずに食事をなさいな」


 マリーがそのままベッドの横の椅子に座るのを見て、サミエラはアネッタとサザナミに言う。


「お言葉に甘えていただきましょう」




 食事をしながら、おのずと会話はアリスに施した緊急避妊の処置に関するものとなる。


「さっきはよう訊かんかったけど、姫がアリスの女陰に入れてた小さいキノコみたいなやつ。あれなんやったん?」


「質感からして銅みたいだったけど」


「ああ、あれね。あれは子宮内避妊具(IUD)ね。望まない妊娠を避けるための道具よ。うちは年頃の若い女が多いからね。もしもの時のためにショーゴとゴンの武器の修理のついでに鍛冶工房に頼んで作ってもらってあったのよ。……まさか最初に使うのがアタシたち以外になるとまでは想定してなかったけど」


「あいゆーでぃ? そんなん聞いたこともないけどあんなんで妊娠しやんくなるん?」


「おまじないですか?」


「おまじないじゃないわよ。きちんと効果はあるわ。……ところで、あなたたちはもしかして生娘なの?」


「はい」「そやに」


「……あら。アニーはショーゴという恋人がいるし、ナミはくの一だからてっきり経験済みかと思ってたわ」


 アネッタとサザナミが揃って顔を赤らめる。


「ショーゴとは、お互いに想いを確認し合ったわけじゃないですし……その、まだ恋人というわけでは……それに今は奴隷なので姫の許可なく結ばれるわけにはいきませんし」


「う、うちは下忍やなくて上忍それも藤林家の跡取りの姫やったから身持ちが堅くないとあかんかったし。いずれは婿を取って跡取りを産む予定やったから知識としての房中術は仕込まれとるけど」


「あらら。それじゃあ今日は二人にはずいぶんと無理させちゃったわね」


「あ、いえ。自分では経験が無くても、男所帯の船にずっと乗っていたので慣れてはいますよ? 男たちは港に着く度に娼婦を連れ込みますし」


「やんな。海賊に慰みものにされた女を見るんも初めてっちゃうし。うちらもそれなりに危ない目には遭ってきとるし。……そういう姫は生娘っちゃうのん? 今日までそういう相手らしき男は見てへんけど」


「生娘よ。一応ね」


「一応ってなんなん?」


「この身体は生娘だけど。アタシには過去にそういう経験をした記憶はあるってことよ」


「え? んん? どゆこと?」


 首を捻るサザナミに対し、納得した様子のアネッタ。


「…………つまり姫は誰かの生まれ変わりってことかしら? 日ノ本にこれだけ通じてるってことはかつての日ノ本に生きていた人間の記憶がある?」


「ふふ。アニーが正解に近いわ。ただ厳密には生まれ変わりではないけどね。それでも、この身体には何人もの人生の記憶が宿っていることは確かよ。そして、その中には医者として生きた記憶もあるわ」


「うわぁ……普通やったら信じられへん眉唾な話やけど、妙に()に落ちとる自分もいるわ。でなきゃ色々説明できんし。そもそも今も普通に日ノ本の言葉喋っとるんが何よりの証拠やんなぁ」


「アリスに入れたあいゆーでぃ? も、その医者としての経験に基づくものなんですね?」


「そうよ。たくさんの遊女たちの妊娠を防いで感謝されてきた実績のある方法よ」


「むー……うちらの頭で理解できるかは分からんけど、あいゆーでぃの詳しいことを教えてもらってもええ?」


「いいわよ。どこかのタイミングでは説明するつもりだったし、あなたたちにはこれからも、もっと重要なことも手伝ってもらうつもりだしね」


 サミエラがアリスの体内に入れているIUDと同じものをテーブルに置く。それは銅製の小さなキノコのような形をしている。長さはおよそ2インチ(約5㌢)で、軸の根本が丸く膨らみ、そこから細い軸が延びて先端が直径1インチ(約2.5㌢)ほどの笠になっている。


「これはアリスに入れているのと同じ物よ。あなたたちは子供(ややこ)がどうやってできるか理解してる?」


「女陰に男根を入れられて子種を出されたらできるってぐらいやね」


「同じく」


「まあその認識で合ってるわ。その女陰に出された子種が子壺に入っていって、その奥で生まれたばかりの人間の卵と一つになったらややこが出来て子壺で成長するわ。この卵が子壺の奥で生まれるのは月に一度だけで、卵は子種無しでは1日で死んでしまうから、その死んだ卵が血に混じって出てくるのが女の月のものってことよ」


「うわぁ……知らんかった! 月のものってややこのなりそこないやったんやぁ」


「だから月のものが来るようになったら妊娠できるようになるんですね」


「そう。そしてこのIUDは、子種を受けてややこの素になった卵がそれ以上育たずに流れるようにするためのものよ。アリスはすでに海賊たちの子種を注がれてしまっているから、子種はもう子壺に入ってしまっているわ。アリスの子壺の奥に卵がいなければ妊娠しないけど、もしタイミングが悪かったら妊娠してしまうわね。でもこのIUDを入れておけばそのまま育たずに流れるわ」


「そんなキノコみたいなもので? どうやって?」


「銅には子壺の中の環境をややこが育てない状態にする力があるから子壺に銅を入れておけば妊娠はしないわ。あ、毒とかじゃないから母体に悪影響はないわよ。このキノコ型IUDの軸を子壺の口から差し入れると、根本の膨らんだ部分が子壺の中に入るわ。この笠はIUDが子壺の中に全部入ってしまわないためのものね。このIUDは装着している間はずっと効果があるけど、外したらすぐにまた妊娠できるようになるから、将来ややこは欲しいけど今は出来ては困るって夫婦にも便利なものよ」


「あー、それは遊女たちから重宝されるやろなぁ」


「……といってもこれは梅毒みたいな性病は防げないからね。アリスを犯した海賊たちに梅毒持ちがいないかはメイナード海尉に調査をお願いしてるけど、もしもに備えてこちらも準備しておかないとね」


「その言い方……梅毒まで治せるように聞こえるんですが?」


「治せるわよ。幸いにしてうちは干し果物を作ってる関係で特効薬の材料はいくらでも手に入るし。ただ、さすがにこれはまだ世に出したら危険な知識だから薬作りもアタシたち3人だけでするつもりよ。製法はあなたたちの心の中にだけ留めておいてね。下手するとアタシが魔女として火炙りにされちゃうから」


「ふふ。そうなったら私たちも魔女の弟子として一緒に火炙りですね」


「ここまできたら一蓮托生やんなぁ。姫がうちらを信用して秘密を打ち明けてくれたんやから、うちらもそれに応えんとなぁ」




~~~




【その時、歴史を動かしたCh 考証解説Vol.7 パーソナリティー:Sakura&Nobuna】


Sakura「ふふふ。ついにうちの時代が来たったいね! 幕末の遊女に大ヒットばした桜印のキノコ型IUDばい!」


Nobuna「ついに情報を一部開示に踏み切ったのぅ。じゃが、ペニシリンにまで手を出すんじゃったら協力者は必須じゃし、この場合はこの二人以外は考えられんのぅ」


──鍛冶工房に作らせてた時点で予想はしてた

──確かにキノコ型IUDは傑作だったな

──アリスを救うと決めた時にナミに(ほの)めかしとったもんな

──IUDはまあこの時代でも作れるものだから問題ないかもだが、ペニシリンは慎重に扱わんとヤバイよな

──干し果物屋なら原料の青カビは手に入れやすいけど、サミエラが干し果物屋を始めたのはまさかこれを見越してた?

──まっさかぁ? ノブナさんそのへんどうなの?

──……


Nobuna「さすがにこれはたまたまじゃ。そもそも当初はペニシリンにまで手を出すつもりは無かったからのぅ。それどころか干し果物屋すらやるつもりは無かったんじゃし」


Sakura「アリスちゃんば保護しよらんかったらまだまだ先の話やったったいね」


──アリスのためにあえてパンドラの(はこ)を開けるか

──同じことをやってもやり方次第で周囲からの反応は変わるよね。サミエラの周囲は皆協力的だし

──イスパニョーラ島から始めたプレイヤーがいきなり外科医を始めて近所の人の通報で異端審問にかけられてたな

──まあサミエラならそのへんは大丈夫っしょ

──成功はしつつあるけど近所の人たちとの関係も良好やし

──提督まで味方に付けたのは大きいよな。牧師さんとも仲良しだから少なくとも問答無用で魔女裁判にかけられることはねぇべ

──……





銅の錆──緑青(ろくしょう)は昔は毒だと言われてましたが実は無害だったらしいですね。最近のIUDには銅が使われていますが、銅が子宮内にあると銅イオンの働きによって受精卵が着床できなくなるそうで、緊急避妊にも使われているようです。


古代ローマの遺跡からは、銅製のペッサリー(膣の奥に入れて子宮頸部に被せることで妊娠を避ける道具)が発掘されていますが、銅には殺精作用もあるのでかなり有用な避妊方法だったと思われます。


日本がまだ弥生時代にコンクリートやアスファルトを使いこなし、避妊技術まで発達していた古代ローマの叡智は正直すごいと思います。その叡智のほとんどが中世の暗黒時代に喪われてしまったのは正直残念に思います。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  え。古代ローマ、銅を使った避妊具まで在ったんですか。知らんかった。 ( ̄▽ ̄;) [一言]  古代のギリシャやローマは未来からの干渉を疑いたくなるハイテクがあります。  アンティキティラ…
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