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大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─  作者: 海凪ととかる@沈没ライフ
商会立ち上げ編

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サミエラは孤児たちを教える②

 士官候補生(ヤングジェントルマン)という直近の目標をルーカスに示したサミエラは次にマルコスに尋ねる。


「さて、マルコスはどんなコックになりたいんだい? 船のコック、お屋敷のコック、食堂のコックとコックといっても色々あるけどさ?」


 マルコスは、んーと少し考えてから答える。


「そだなぁ……おれは、おれの料理を食ってくれる人の顔が見えるコックになりてぇなぁ。船のコックとか町の食堂や酒場のコックとかいいかもなぁ」


「なるほどね。目指す形が明確なのはすごくいいね。ところで、マルコスは料理ってできるのかい?」


 サミエラが子供たちの顔を見回せば、全員がふるふると首を横に振る。


「あらあら。じゃあまずそこからだね。ここの食事はシスターたちが作ってくれてるんだろ? マルコスはこれからシスターたちの料理を手伝ったらいいよ。それと、シスターたちが街に食材を仕入れに行くときは一緒について行きな。実際の料理の手順や器具の使い方、食材の良し悪しの見分け方や相場は自分の目で見て、触って、場数を踏まないと身に付かないからね。さっきマークに言ったのと同じことだけど、コックに弟子入りしたいならコックが欲しいと思う人材にならなきゃね」


「でも、おれは厨房に入るなって言われてんだよなぁ」


「そりゃあんたがつまみ食いするからだろっ!」


 サミエラの即座の突っ込みに子供たちがどっと笑う。


「あんたが手伝いのために厨房に出入り出来るようにシスターにはアタシが話を通してやるよ。その代わり、つまみ食いなんかしてアタシの顔に泥塗るんじゃないよ? もし再び厨房から出入り禁止になりやがったらアタシが直々にお仕置きするからね!」


「お、おう」


 若干顔をひきつらせながらもコクコクと頷くマルコス。


「さて、ファンナはお屋敷のメイドになりたいってことだけど、これこそある程度万能に色々出来なきゃいけないよ?」


「そうなの?」


「掃除、洗濯、給仕はとりあえず基本だけど、料理とか読み書きとか礼儀作法とか裁縫なんかの技能も身につけておいた方がいいね」


「うう……そんなにたくさん覚えなきゃいけないの?」


「もちろん、勤め始めてからも教えてもらえるだろうけど、今のうちから備えておくに越したことはないよ。なにも出来ないメイド見習いとして雇われるのと、ある程度仕事のできるメイドとして雇われるんじゃ待遇が全然違うからね」


「うう……ちゃんとしたメイドになれるように頑張る」


「うん。すべてを完璧にできなくていいけど、色んなことをある程度出来るようになっておくのがいいね。今も教会のシスターたちのお手伝いをしているだろうけど、毎日同じ仕事を手伝うんじゃなくて、今日は洗濯、明日はお料理、明後日はお裁縫って感じで色んな仕事を手伝うようにしたらどうかな? 色んなことが出来るようになるよ」


「うん。分かった。やってみるね」


 そしてサミエラは子供たち全員の顔を見回す。


「……さて! 来年卒院の4人とのやり取りをみんなも聞いてたわけだけど、勉強がどれだけ大事か分かったかい? 勉強を真面目にやるならそれだけ可能性が広がるんだよ。読み書きや計算が出来ない奴は安い給料で長時間働かされるような最低の仕事でしか雇ってもらえないけど、読み書きや計算が出来る奴は自分の望む将来を自分の手で掴み取ることができるんだ。

 海軍の弾薬運搬係(パウダーモンキー)になるか士官候補生(ヤングジェントルマン)になるか、商会の下働きになるか商人見習いになるか、レストランの雑用係になるかコックの弟子になるか、お屋敷の洗濯女になるか正規のメイドになるかはあんたたちの頑張り次第だよ」


 サミエラの激励に当事者である4人だけでなく、他の子供たちも目をキラキラ……いやギラギラさせ始める。


「あは。みんなすっかりやる気になったね! よし、じゃあ前置きが長くなっちゃったけど今日の授業を始めるよ。まずは九九の暗唱からだ。みんなちゃんと覚えてるかな? 1の段から9の段まで声を揃えていくよー」


「「「はーい!」」」


「1×1は?」


「「「1ッ!」」」


「1×2は?」


「「「2ッ!」」」


 サミエラはこれまで子供たちに簡単な足し算と引き算、そしてかけ算の九九を教えている。特に九九は難しく考えずにただただ丸覚えするように教え、毎回の授業でこのように暗唱させているので頭の柔らかい子供たちはほぼ全員が九九を覚えている。


 ちなみにこの時代の平民の識字率は低い。数字の計算ともなればなおのことだ。大人でも指で数えられる以上の数の計算が出来ない者も少なくない。そんな中、足し算と引き算のみならず1×1から9×9までのかけ算を習得しているというのはとんでもない英才教育であり、最初は微笑ましく授業を見守っていたトーマスだったが、幼い子も含めた子供たちが九九を暗唱する様子に開いた口がふさがらないほどの衝撃を受けていた。


「9×9は?」


「「「81ッ!」」」


「はい。よくできました。かけ算の九九は一度覚えたら一生涯役に立つ知識だから何度も練習するんだよ。特にお金の勘定には8の段が必須だから、何よりもまず8の段をきちんと覚えるんだよ。……よし、じゃあ応用問題だ。分かったら手を上げるんだよ。5ペソはレアルだといくらだい?」


「はいっ!」「はいはいっ!」「はい!」


「じゃあ一番早かったアンドルー」


「40レアル」


「正解。暗算速くなったね。じゃあ次は8レアルと8レアルを足したら何ペソ?」


「「はいっ!」」「はいっ!」


「お、じゃファンナ」


「えっと2ペソかな」


「そうだね。正解。レアルだといくら?」


「16レアルかな」


「大正解! じゃあ次。1レアルでパンが10個買えるとするね。80個買うにはペソだといくら必要になる?」


「……はい!」「……はいっ!」「はい!」


「じゃあマーク」


「1ペソです」


「うん、正解。絶好調だね。リンゴを木箱で買ったらそのうち3個が腐ってるとする。9箱買った場合、全部で何個腐ってるかな?」


「はい」


「ルーカス」


「27個」


「よくできたね! 今の応用問題でも分かったと思うけど、かけ算が出来ればどれだけのロスが出るかの予想も立てられるんだ。長い航海にどれだけの食糧が必要になるかの計算は海軍士官の大事な仕事の1つだから、こういう計算が出来るのは大きな武器になる。今のうちからしっかり身につけておきなよ」


「うん」




サミエラは無自覚にやらかしているのではなく、その時代の一般教養レベルを理解した上であえて孤児たちに高等教育を施しています。孤児たちにはこれぐらいできて当然という態度で教えているので孤児たちもどれほど高水準の教育を自分たちが受けているのか理解していません。

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