トカゲのリンダ
▽▽▽▽▽
「「「アリス!誕生日の次の日おめでとう!!」」」
わぁと歓声をあげる人なのか物なのか動物なのか、よくわからない異形者達
「誕生日の次の日がこんなに素敵な日だなんて!」
「僕たちのアリス!本当におめでとう!!」
ピーとトランプの形をした者が笛を吹けば、ドレスを着た鶏が空に花を巻き、その横で躍りながらバレリーナの豚達がケーキを投げ合う。
みんな私を祝ってくれている。
…誕生日の次の日を
この光景にはもう慣れた
だってここは不思議の国
そして私は不思議の国のアリス
可愛いピンクのワンピースに白のフリフリエプロン
金のストレート髪に赤いリボン
「婚活!婚活をしなければぁぁあああ!!」
▽▽▽▽▽
―dear アリス
誕生日の24日後おめでとう
from .... ー
誕生日から24日が経った今でもアリスの家のポストには、おめでとうと書かれた手紙が毎日誰かから届いた。
ポストから溢れ出す手紙を抱えては直ぐ様それらをゴミ箱に捨てるのがここ毎日の日課になっていた。
「なにがおめでとうなのよ」
ゴミ箱に溢れた手紙を見つめながらため息混じりで呟いた。
アリスはゴミ箱の前に座り込み、捨てた手紙を片手で何通か拾い上げると差出名を読んでいった。
「アーロン、ディラン、ルーシー、エリック、、、はぁ」
中身は見なくともわかるとばかりに読み上げた手紙を再度ゴミ箱に捨てていく。
「エディ、エイプ、、あら?これは?」
見知った名前が書かれた手紙を見つけた。
他の質素な手紙とは違い、白に金色のキラキラした装飾をした少しだけ分厚い綺麗な封筒にはfromリンダと書かれていた。
「リンダってあのリンダ?」
アリスは手紙の封を切るとそこに書いてある文章を読んだ。
from アリス
久しぶりね!アリス!
私ね、今度結婚するの!是非式に来て!
場所は品曲がったキノコの下で
日にちは金色のユニコーンが起きるときよ!
dear リンダ
「けけけけけけっこんですってー!」
手紙を持つアリスの手が震える
あの、リンダが結婚だなんて!とアリスは頭を凍ったマカロンを投げつけられたような思いだった。
リンダは茶色のトカゲだった。二足歩行のトカゲだった。
人間のように長い黒髪は天然パーマなのかウェーブがほんのりかかっていた。
いつも自信無さそうに伏し目がちで、足の爪先が見えるか見えないかぐらいの長いスカートを履いて、たまに見える青い尻尾を隠していた。
アリスとの出会いはアリスが14歳の時だった。
アリスは7歳の時に不思議の国に迷い混み少しばかりの騒動を起こし、疲れ果てるかのように“名無しの森”にやってきた。
“名無しの森”の奥底には上半身と翼は鷲で下半身がライオンのグリフォンのおじさんと子鹿が住んでいた。
グリフォンのおじさんは優しくアリスを迎え入れ、アリスと子鹿とグリフォンのおじさんは“名無しの森”の奥底で暮らし始めた。
時は経ち、アリスが10歳の時だった。
グリフォンのおじさんはアリスに学校へ行くように言った。
グリフォンのおじさんは前々からハートの女王にアリスの事をお願いしていた。
自分がもし居なくなってしまった時の事を考えてしまったからだ。
「ハートの女王陛下。慈愛深い女王陛下。可哀想な独りぼっちのアリスを学校に入れさせて頂きたいのです。アリスの今までの御無礼をどうかお赦しいただき、アリスの面倒を見ては下さりませんか?」
グリフォンのお願いにハートの女王はふんっと嫌な顔をしたと思えば、何かを思い付いたかの様にニタニタと笑い「私の専属のメイドとして働くなら良かろう」と不敵な笑みで返事をした。
アリスは11歳ながら昼は小等部で学業を励み、夜はハートの女王のメイドとして住み込みで働いた。
そんな生活を続けていたらいつしかアリスは学校で有名になった。
アリスは学校に入るや否やメキメキと成長をし、文武両道なんでもこなした。
学校中から清楚で可憐でしかもハートの女王直属のメイドなんて!と皆口々に噂した。
14歳になりアリスは中等部に上がることになった。
その中等部の最初のクラスにいたのがリンダだった。
リンダはアリスの少し後ろを歩くような子だった。
アリスが色んな人に囲まれている時も遠巻きにアリスの様子を見ていた。
気にかけたアリスが「おはよう!リンダ!」と話しかけても、目を背け俯き小さく「おはよう」と呟くだけだった。
いつしかアリスも気にかけなくなり、いるかいないのかわからないようになったまま、中等部、高等部と卒業した。
20歳になりアリスはハートの女王の許可をもらい、住み込み先から曲がりくねった大木のマンションに住み始めた。
それから5年
アリスが25歳の時、級友の結婚式に呼ばれ久し振りにリンダに会った。
リンダは相変わらず足の爪先が隠れるぐらいの長いスカートを履いていて、友人と喋っていても伏し目がちだった。
時々腰辺りのスカート部分をぎゅっぎゅっと掴み、その度にスカートが揺れて足の爪先と長い尻尾がチラチラと見えた。
「久し振り。リンダ」
アリスはリンダに話し掛けた。
リンダはびっくりした目でアリスの目を見詰めて直ぐ様下を向いた。
「アッアリス、久し振り。来てたんだね」
「うん。リンダも」
それからアリスとリンダはお互いの事を少しだけ話した。
二人とも恋愛歴無し。好きな人すらいなかった。
アリスは少しだけホッとした。
この歳になると急に同級生が結婚をしだし焦りがあったからだ。
─ゴーンゴーン
鐘がなる。
結婚式が始まった。
アリスは「じゃあ、また」とリンダに挨拶をして新婦の元へと駆け寄った。
あれから3年
リンダはアリスに結婚式の招待状を送ってきたのだ。
「前はお互い恋愛歴0だったじゃない、、でも、どんな人だろう。リンダのお婿さんは。リンダは大人しい子だから、きっと大人しい人なのかな」
アリスは少しばかり複雑な想いはあったが、やはり祝福したい気持ちもちゃんとあった。
「ユニコーンが起きるときか、一ヶ月後だね」
カレンダーを見ながらアリスは手紙を書き出した。
─dear リンダ
結婚式に招待をしてくれてありがとう
必ず行きます
from アリス─
「これでよし、郵便屋さんに手紙を出しにいこう」
アリスは招待状に書かれたリンダの住所に手紙を出した。
速達専門のリクガメ配達員さんで。
◇金色のユニコーンが起きる日◇
マザーが笑った
▽▽▽▽▽
リンダから結婚式の招待状をもらって約1ヶ月後
リンダの結婚式にアリスはやってきた。
品曲がったキノコはとても結婚式をするには人気の場所だ。
曲がったキノコ二つが重なりあって、それがハートのような形に見えるからだ。
アリスは結婚式用のフリルが多くハートの模様があしらったチョコレート色のドレスを着ていった。
…3年前にも着たやつだけど
品曲がったキノコの下ではオルガンや新郎新婦が通るであろう赤いカーペットが引かれ、おもてなしのパンやお菓子やウェディングケーキが綺麗にセットされていて、その回りで招待客が談笑していたりした。
リンダはトカゲなので、招待客の大半がリンダの親族なのだろうか、トカゲだった。
けど何かがおかしい。笑っているものもいれば、泣いたり、暗い表情のトカゲがいた。
アリスはキョロキョロ回りを見渡して知り合いを探したが、特に知り合いもいなかったので、お菓子が置かれている机にやってきた。
沢山なお菓子からアリスは黄色いマカロンを手に取ると、半分かじった。
「美味しい」
残りのもう半分を食べたところでオルガンがなった。
結婚式が始まる合図の鐘だった
蛙がオルガンを弾いてる。
その曲に合わせて新郎が出てきた。
金色のトカゲだった。
髪は赤くて長く、時々見える舌にはピアスが付いてるのが見えた。
(えぇ?!意外!!)
アリスは新郎の姿があまりにも想像から外れていたのでビックリして心の中で叫ぶ。
招待客の中から、小さく「あぁ、なんてこと」「リンダが、、」といった声が聞こえた
(あぁ、リンダ側は認めてなかったのね)
アリスは心の中でなんとなく状況を理解した
…はずだった。
新郎が蛙の神父の前で止まるとオルガンの曲が変わった。
新婦入場の合図だった。
品曲がったキノコから新婦のリンダが登場する。
「リリリリッリンダ?!?!」
アリスには新婦がリンダだとは理解できなかった。
間違った結婚式に来てしまったのかとさえ思ってしまった。
ただまた招待客の中から「あぁ、リンダ、」と声が聞こえてきたのでリンダで間違いないのだろう。
茶色いトカゲのリンダは金色のトカゲになっていた。
髪は赤く巻き上げていて、真っ赤な口紅を付けていた。
「なんでリンダが金色に、、、」
あぁ、そういえば最近新聞でこんな記事をみたとアリスは思い出した。
-爬虫類の若者の間で肌の色を変えるのが流行中-
「そうか、リンダは肌の色を変えたんだ。どんな風にしたのかは私は爬虫類じゃないから知らないけれど、、」
新郎と新婦のリンダが神父の前で愛を誓う。
アリスはその様子を学生時代のリンダを思い出したながら見ていた。
姿形はまったく違ってしまった。何度見ても別のトカゲに見えた。
時々笑うリンダはとても幸せそうだった。
「リンダ、幸せそうだなぁ」
アリスがポツリと呟くと同時に蛙の司会者が叫んだ
「さぁ、次はブーケトスです!花嫁の指名でアリスさん前へどうぞ!」
「えぇ?!私?!」
突然指名をされてアリスは驚いた。
驚きでパチパチ目を瞬きさせていると、「アリスー!早く出てきてー!」とリンダの声が聞こえてきた。
(なんで、私が、、)
アリスは心の中で呟くとリンダの元へと歩いた。
みんなこっちを向いている。トカゲたちに見つめられると自分が食べられそうな虫になった気分だった。
「アリスー!遅いよー!」
リンダはアリスを見つけると早く早くと言わんばかりに手を招いた。
アリスがリンダの前に着くとアリスは「なぜ私?」と聞いた。
「アリス、私たちは親友でしょ?私はアリスに私達みたいに幸せな結婚式をあげてほしくて、このブーケを受け取ってほしいの。お一人様のアリスには幸せになってもらいたいから」
アリスは全身に電流が走ったような衝撃を受けた。
リンダとは親友になった覚えがないし、お一人様と言われたショックや訳のわからない感情が入り交じった。
「あっありがとう・・・」
こういう時は人間どうすればいいんだろうか
とりあえず、アリスは無理矢理笑って感謝の言葉を述べた。
「よかった!必ず幸せになってね」
リンダは爪が食い込んだブーケをアリスに手渡した。
アリスの手に渡ると周りの招待客が叫んだ
「おめでとう!アリス!」
「次の花嫁はアリスよ!」
「幸せになりなよ!!」
あぁ、穴があったら入りたい。
アリスは恥ずかしさと惨めさでそこから先は覚えていなかった。
気が付くとアリスは家に帰っていた。
アリスは戸棚から白いコップを取り出し紅茶を注ぎ、椅子へと座った
…疲労がすごい
暑い紅茶にふーふーと息を吹きかけ冷ましながらペンを取り日記帳を開いた
日記を書くのはアリスがグリフォンのおじさんと暮らし始めてからの日課だった。
書き始めてからもう何十冊となる。今の日記帳の表紙はグリーンがかった青い日記帳だった。
アリスは今日の出来事を日記に書きはじめた。
▽▽▽▽▽
-金色のユニコーンが起きる時
マザーが笑った
今日は友達の結婚式だった。
その友達は自分の知っている姿とは違う姿をしていた
まるで不思議な国に迷い込んだみたい(なんてね)
とてもキラキラ輝いていて、恋をするとあんな風になるのだろうか
机にはブーケを飾った
次の花嫁は私に、、、なるのだろうか、、、
トカゲのリンダーfinー