そこにいる
彼女が行きたいと言うので、心霊スポットに行ってきた。
もちろん気乗りはしないが仕方がない。
志度の小高い山の山頂にある喝破道場。
その昔、不良少年少女の厚生施設として造られたのだが、あまりにも厳しすぎて多くの死者を出したという噂がある。
屋上から飛び降り自殺をした者がいる。
地下の風呂場では集団自殺があったとか。
木で首をくくった者もいたそうだ。
どこまで本当なのかはわからないが。
道場には車ですんなり着いた。
目の前には電波塔がある。
俺のスマホは全ての線が立っていた。
外観は無機質なコンクリートの箱といった感じだ。
下手な字でいくつもの落書きがされている。
二人でまず屋上に上がった。彼女の希望だ。
「なんにもないし、幽霊もなにもいないわね」
彼女の霊感はゼロだ。
実は俺には血まみれの少女が一人立っているのが見えた。
当然彼女にはそんなことは言わない。
次は中を散策。
そして地下にある噂の風呂場に着いた。
結構広い。
一人ずつではなく、何人も一度に入浴していたのだろう。
いや、させられていたのか。
「なんにもないし、幽霊もなにもいないわね」
彼女がコピーのように同じ言葉を繰り返す。
しかし俺には屋上で見たのと同じく、血まみれの少年四人と血まみれの少女一人が見えた。
ぞっとするような恨めしさでこっちを見ている。
俺は無視した。
道場は一軒家よりは大きいが、巨大な建造物というわけではない。
ほどなくして全てを見終えた。
車に乗ってすぐに、彼女がまた言った。
「なんにもなかったし、幽霊もなにもいなかったわね」
俺は心の中でつぶやいた。
いるよ。
お前のすぐ後ろの後部座席に、血まみれの少女が一人。
終