[第三話]二人きりの空間
それから二週間経ったある日のこと。私は科学の野間先生から頼まれた、化学準備室の大量の実験道具の片づけ作業をようやく終えたところだった。
(やっと終わった・・・)
片付けのせいで中途半端に残った休み時間をどう過ごすか考えながら自教室へ戻っていると、由利、糸央里がこの前の青年と話しているのを見かけた。
「あ、紬。ちょっとこっち来て」
糸央里が私に気づいて私を呼ぶ。何でこの三人で話してるんだろ?
「佐藤詩織先輩。三年生なんだって」
「こんにちは、佐藤紬です」
私と同じ名字なんだ。といっても佐藤は珍しい名字じゃない。
同じクラスに二、三人いても不思議じゃないくらいには見かけるから、由利も糸央里も同姓ということに関して何か言ってくることはない。
「こんにちは、佐藤さん」
「ところで三人で何話してたんですか?」
誰にともなく向けた質問を糸央里が受け取る。
「この前下校中に先輩を見かけたでしょ?さっきたまたますれ違って話しかけたんだけど、先輩もわたしたちのこと覚えてくれてたみたいで、学校のこととか色々質問してたのよ」
なるほど。二年以上もこの学校に通ってる先輩なら、何か聞いておいて得する情報があるかもしれないよね。
「どんなこと聞いたの?」
「科学の野間先生は人使い荒いから気をつけてとか」
手遅れだった。
「そういえば、子ネコたちどうしてるんですか?」
「俺の家で飼ってるよ。家と言ってもアパートだけどね。子ネコ三匹ずっとは育てられないから、引き取り手が見つかるまで俺の家で預かってるって感じ」
「どこか悪いとこあったりとかはないんですか?」
「今のところは三匹とも元気だよ」
先輩の言葉を聞いて安心する。すると先輩がとある提案をしてきた。
「気になるんだったら俺の家に見に来る?子ネコたちの名前まだ決まってないから、佐藤さんたちで名前考えてくれないかな。三匹もいるから自分じゃつけられなくてね」
「えっ?」
突然の招待に戸惑う私。
生まれてから今まで男の人の家に行ったことも無ければ、付き合ったこともないので、こういう時どうすればいいか分からない。
「いいじゃん紬。行ってきなさいよ」
「あたしたちの分まで頼んだよ!」
由利と糸央里が私の背中を叩きながら他人事のようにそう言った。
「二人は行かないの?」
子ネコに合えるという嬉しさもあるけど、
異性のことに関しては知らないことばかりで不安でいっぱいだ。
二人もネコが好きだから来てくれると思っていたのに。
「何言ってるのよ紬。わたしたちが昨日言ったこと忘れたの?」
「昨日のこと?」
「由利。あれって紬が体育の授業で疲れ果ててた時にさらっと言ったから忘れてるんじゃないの?」
私の所属しているバスケ部の顧問は体育の先生でもある。
結構厳しい先生なので、体育といえど気が抜けない。
そのため、張り切りすぎて力尽きていたのだった。
「そうだったわね。糸央里は彼氏とデート、わたしは弟の面倒見ないといけないから一緒に帰れないのよ」
由利の両親は忙しいことも多く、弟の面倒と家事全般をよく任されている。
料理の腕はかなりのもので、由利の家に遊びに行ったときに私たちの分まで振舞ってくれることもある。糸央里はいつも通りだね。
「じゃあ、二人の都合が」
合う時に行こうよ、という言葉は糸央里に腕を引っ張られたことで遮られた。先輩から距離を取り、私の耳元で糸央里が囁く。
「せっかくの二人きりのチャンスなんだから行ってきなさいよ」
「でもこういう経験ないからどうしたらいいか分かんないよ」
「先輩かっこいいから大丈夫!」
「そういう問題じゃないよね」
「細かいことは気にしたら負けよ?」
イケメンだから大丈夫という謎理論は細かいことなんだろうか。
「というわけで先輩。紬をお願いしますね!」
「あ、ちょっと!」
糸央里は私の意見を無視してこの話を強引に終わらせた。
「佐藤さん、それで構わない?」
糸央里の謎理論でやり込められた感じがするから悔しいけど、先輩に迷惑をかけたいわけじゃない。
「すみません、よろしくお願いします」
先輩の家にお邪魔する旨を伝える。その後は簡単に待ち合わせ場所と時間を決めたところで予鈴が鳴り、解散となった。
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