聡太編〜圭人の説得〜
少なめ
山吹聡太は、結衣の家へと向かう道を、全速力で走っていた。
聡太の心の中にはずっと強い気持ちを秘めていた。
***
「圭人。俺を殴れ!」
俺はそう目の前にいる圭人に向かって言った。
圭人はいきなりの事で動揺していたが、すぐに取り戻して
「ど、どうしたんだ……。いきなり」
と、言ってきた。
「言っただろ、お前。前に俺を説得する時に一発殴るって。だから今が一番いいと思った」
「確かに言ったけど。本当に良いのか?」
「当たり前だ。俺はもう逃げたくない。何に対しても。——だから俺は変わらなくちゃいけないんだ。お前に殴られる事はその一歩に繋がるかもしれない」
俺は出てきた言葉を淡々と紡いで言った。変になってないかと心配したが、ちゃんと通じたようだ。圭人が「しょうがないな」と言うような顔でこちらを向いた。
「歯食いしばれ!」
「おう」
そして圭人はちゃんと殴ってきた。
しかし、全く痛くなかった。普通に触られたのかと思うくらいに。
「おい!」
「殴るのは後からでもできる。お前は今から有紗さんのお父さんのところに行くんだ。そんな奴が顔にあざをつけてどうする」
俺は冷静さを失っていたみたいだ。
「…………」
俺は圭人に諭されて、顔を下に向けた。
「お前はこの世界の誰よりも有紗さんを愛しているし、有紗さんに愛されてるんだ。その気持ちを、有紗さんのお父さんにぶつけるんだよ」
その語りかけるような言葉に、俺は圭人に背中を押してもらっているような気持ちになった。
俺は一度深呼吸をしてから
「圭人にそう言われる日が来るなんてな。何か良い気持ちはしねえけど一応感謝しとくよ。ありがとな」
と、いつも通りの表情で圭人に話しかけた。
その様子を見た圭人はクスリと笑ってから
「生意気言うな」
と、俺の額にデコピンを喰らわしてきた。
「いてっ。俺の顔にあざつけないんじゃなかったのかよー」
「こんなんじゃつかねえよ。——じゃあ行ってこい」
「ああ、行ってくる。なんだかんだで助かったよ」
俺が再度お礼を言うと、
「それを言うのは全部終わってからにしてくれ」
と、返してから、俺の背中を押してきた。次は物理的に。
「じゃあな」
「ああ」
そう別れを告げて、俺は圭人の家を後にした。




