表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/109

結果発表

「ソフィー!起きてー!」


ゆさゆさと毛布に包まった身体を揺する。


「お、き、ろー!今日が何の日だと思ってるのー!起きなさーい!」


ソフィーは朝が弱い。

これだけ呼んでも起きる気配は一向に無く、むにゃむにゃとよくわからない言葉を呟いている。


「あぁー!もう、仕方がないなぁ…」


手の平に氷の粒を創り出す。

ひと摑み分のそれを、ソフィーの首元から服の中へ投入した。


「ぴゃ!?にゃ、なに…?」


効果は抜群。

短い悲鳴と共に飛び上がって、起きた。


「おはよう、ソフィー。今日は結果発表だよ」


「ん…そう、だったね…起きる起きる…」


ぶつぶつ言いながら、再び毛布を被る。

見事な二度寝だ。


「ソフィー!」


べりっ、と毛布を引っぺがす。


「わかったよぉ…おはよ、ティア」



学校に向かうと、


「うわぁ…すごい人…」


正門は人でごった返していた。


「あ、あそこの看板かな?」


少し進んだ所に看板が立っていて、そこから悲喜こもごもの声が聞こえてくる。


「行こ!」


どきん、どきん、と心臓が高鳴っている。

合格は間違いないとは思う。

だが、試験の結果発表はやはり緊張する。


看板は2枚並んでいるはずだ。

1枚には魔術科、もう1枚には剣術科の合格者の名前と点数が載ると聞いている。

だが、近付いて見ると、看板は3枚あった。

1枚だけ、他より一回り以上小さい。


「あれ…?」


「真ん中の小さいの、何だろ…?」


ここからでは、文字はよく見えない。

もっと近付いてー


「ぇ…」


無意識の内に《身体強化》をしていたのか、見えるはずのない距離なのにはっきりと見えた。


特待生

ティアナ・ディオワリス 270点

ソフィア・ディオワリス 270点


上記の者は魔術科、武術科、共に合格を認める。


「そ、ソフィー…」


「合格、だね…特待生」


両方行きたい!という目標、というより希望が叶った。


「やったね!」


「うん!」


200点満点の試験で何故270点だったのかは謎だが。


「合格者は明日の説明会に来て下さいだって。入学式は明後日」


「へぇ。結構急なんだね」


もう次の次の日には入学かぁ。

感慨深くなりながら、他の合格者の名前を見ていく。

魔術科の1番上に、アンゼルム・ギーゼブレヒトの名前があった。

点数は79点。

あれ?こんなに低いの?

確かアンゼルムの魔法実技の合計は7.0点だった。

剣の方は知らないが、魔術科になるということは、剣術はそれ以下。

ということは、100点満点の座学で70点前後しか取れなかったことになる。

その次の人の点数は、67点。

その次は65点。

そこから先は僅差で、50人近くが並んでいる。

武術科も、似たり寄ったりだった。

…これ、ノー勉でもいけたのではないだろうか。


「やったー!合格!合格だよ!」

「くっ…」


落ち着いて辺りを見渡すと、手を突き出している者、悔しそうに涙を流す者、無言で確認して帰る者、


「つうか何だよこれ!270点だぁ!?ありえねぇだろ!」


そして、私達の点数に驚き叫ぶ者、等様々だ。


「ディオワリスって、聞いたことあるか?」

「いや、ない」

「特待生…」


そして、大半が首を傾げている。

不正だ!という声が出ないのは、不可能だとわかっているからだろう。

何人かは思い当たる節があるように頷いている。

私達の試験を見ていた人達だ。


「ティア」


「うん、帰ろうか」


ここにいたら面倒くさそう。

意見は、ソフィーと同じだった。



「ノエル〜合格したよ!特待生!」


『やっぱり!?すごいじゃないか、ティア!』


やっぱり、なんだ。


「ところで、ノエル。私達が学校に行ってる間ってどうするの?ずっと依り代の中にいるのも…」


『うん、そうなんだよね。ティア、何か良い案ない?』


「えっ?うーん…契約精霊って公表するか、ペット扱いにするか、かな?」


だが、大精霊はとても珍しく、間違いなく目立ってしまう。

だからと言ってペットというのも…ノエルのプライド的にどうなのだろう。


『ボクだって目立ちたくないし、ペットでいいよ?ティアが出身領地の森で見つけた迷子の子猫 ノエル。ティアにしか懐かないから学校に連れてきました、ってことで』


え、いいんだ。


『魔法を使えることと、喋れることは内緒にしとくよ。これなら、大丈夫かな?』


「どうだろね?寮に入ることになるから…でも、多分大丈夫だよ!ありがと、ノエル」


使い魔という方法もあったが、あれは結構高度な魔法なので、やはり目立つだろう。

それに、ここまで自我のある使い魔は有り得ない。


『お礼はいらないよ。ボクの全ては、ティアの為にあるんだから』


っ!


「全くもう…嬉しいけど、それじゃあまるで告白みたいだよ?好きな子が出来るまで、そういうのは取っておかないと」


何でノエルはそこまで私に…?

前は「内緒」と返されたその質問を、するかどうかで悩んでー


『ぁ〜違うんだよぉ…』


恥ずかしそうに頭を抱えながらぶつぶつと呟いているノエルを見て、やはりやめておいた。



次の日に学校の講堂で行われた入学説明会は恙無く終わるはずだった。

パンフレットや、申し込み用紙等を渡されて、「では、解散!」だったからだ。

だが、さぁ帰ろう、と言いかけた時にー


「ティアナさん、ソフィアさん、少しよろしいですか?」


先生の1人に呼ばれてしまった。

事務仕事が似合いそうな、若めの女性。


「話がありますので、付いてきてください」


ソフィーの顔を見ると、面倒くさそうな表情だった。

絶対面倒事だと思いながらも、仕方がないので付いて行く。

…周囲からの注目を浴びるのは、もはや既定事項だった。



コンコン


「レーゼルです。連れてきました」


「入れ」


連れて来られたのは、立派な…校長室だった。

特待生だと何か言われるのだろうか?


「失礼します」


内装は豪華で、正面の壁には校章のタペストリーが掛かっている。

横の壁や棚には、歴代校長と思わしき写真や、誰が取ったのかわからないトロフィーや賞状等が飾ってある。

そして、そんな広い部屋を埋め尽くさんばかりの人、人、人。

この学校の先生達が、椅子に腰掛けた年配の男性の後ろや横に並んでいる。


「呼び出してすまない。だが、確認しておきたいことがあったのだ」


白髪に濃い群青色の瞳の、歳をとった男性ーおそらく校長だろうーが静かに口を開いた。


「まず、どちらの科を選んだ?」


視線で、ソフィーと回答権を譲り合いー


「「両方です」」


同時に答えた。


「ほう。この学校の仕組みは…当然、理解しているな?」


「はい」


ここ、エーデルシュタイン学園の卒業条件は至ってシンプルだ。

「卒業試験に合格すれば良い」のだから。

だが、その卒業試験を受けるために必要なものがある。

それが☆だ。

授業を受けて、試験に合格すれば☆が貰える。

それを規定数獲得出来れば、卒業試験を受けることが出来る。

そして、それに合格すればー卒業だ。


「両方取るということは、☆が倍必要になるのだが…それも、理解しているな?」


「もちろんです」


「なら、良い」


短く息を吐いて、口元を緩めた。


「君達が使った魔法は上級生が使うようなものだし、剣術に至ってはこの国の騎士団長を下したのだ。期待しているよ」


下がって良い、と合図された。


「「失礼します」」


一礼して部屋を出ながら、今聞いた情報を反復する。

…騎士団長って言った?



「それで、諸君。どう思う?」


先生だけになった部屋で、静かに校長が口を開いた。


「あの双子は異常…いえ、特別です。彼女達は私達を超えています」


「私もそう思います。ですが…彼女達は彼とは違う。同じ結果にはなりませんよ」


「ほう。何故そう言える?」


「魂ですよ。あれだけ白く、美しいものを見たのは初めてです」


特別な眼を持つ女性教師は、どこかうっとりとした表情でそう断言した。


「貴女の眼は確かだ。信じるに値するとは思うが…」


「前例が、前例ですからね」


一様に、黙り込む。


「そういえば、娘さんも今年入学されるとか。おめでとうございます」


「あれは娘でも何でもありませんが…その節はご迷惑をおかけしました」


『魂の深淵を覗く事が出来る』眼を持つ彼女にとって、眼が受け継がれなかった娘は出来損ないだった。

だが、それでも親子なので、今年の試験で彼女は試験官を務めることが出来なかったのだ。


「いえ、大した穴ではありませんでしたから…そうだ、娘さんに監視を任せてはいかがでしょうか?同じくらいの歳ですよね?」


女性教師が痛い所を突かれた、という顔になる。


「えぇ、今年で11です。ですが、魔術科なので…」


一応答えたが、さり気なく辞退しようとする。


「では、魔術科の方だけでも…」


それでも尚、食い下がろうとするが…


「あー、こほん」


校長のわざとらしい咳払いによって、黙りこくった。


「生徒の行動は、彼ら自身の自由意志によるものでなければならん。それに、特待生だというだけで彼と同じだと決め付けるのも良くない。今は、優秀な生徒が現れた事を喜ぶとしよう。異論は無いな?」


その場に会した教師一同、頭を下げる。


「皆の意見が聞けて良かった。解散して良いぞ」



「…制服は、マントだけなんだね」


「うん。魔術科が青で、武術科が赤。私達はどうなるんだろうね?」


「合わせて紫とか?…あ、書いてあった。特待生は紫がかった黒だって」


ちなみに、先生は白らしい。

マントの下は自由なので、今着てるような私服になるだろう。


「明日の入学式で、各科の首席の人が代表でマントを受け取るのか…え、どうなるんだろ?」


『ティアが魔術科でー』


『ソフィーが武術科の首席だと思うよー?』


一緒にプリントを覗き込んでいたノエルとネージュが元気よく言った。


「そうかな?で、クラスは…私は魔術科に最初行くから、ソフィーは武術科でしょ?」


「うん。専門はそっちにしようかな」


明日でこの宿とのお別れかぁ、と部屋を見渡して…


「荷物は朝、正門に預けるんだって。寮に送られるらしいよ。だから、荷造りしといてね」


「はーい」


部屋中に散らばったソフィーの荷物が片付け終わるのか不安だ。


『ソフィー、手伝うよー』


ネージュがぴょん、とソフィーの後に続いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ