班別対抗戦、開幕
「優勝おめでとう!」
「おめでとうございます!」
わぁーっ、と歓声を上げてカレンとクルトが駆け寄って来る。
ソフィーやエマと一緒に観客席に戻った所を、取り囲まれたのだ。
「「ありがとう!」」
「エマもすごかったよ!準優勝おめでとー」
パチパチと手を叩きながら、カレンが称賛の眼差しを向ける。
「ありがと!ソフィーに負けたのは悔しいけど、当然と言えば当然かなぁ」
「いやー、私も驚いたよ?結構ギリギリだったもん」
ソフィーがエマに勝ったことで仲違いしないかと少し心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「ティアの魔法もすごかったよね!なんか鳥みたいなのが飛んでた!」
「えー、そうだったの?」
「集中してたから全然見えなかった!」
班員5人で一緒に校長の閉会宣言と明日の激励を聞き、会場を後にする。
「最後に先生が言ってた明日の場所割り見てから、練習しよっか」
会場全体の地図は渡されていたが、どうやら当日のスタート地点は班によって違う様なのだ。
同じ所からスタートしたらすぐに終わっちゃうじゃん、はソフィーの台詞だが、奇襲したり総攻撃をかけたりするのが班別対抗戦の醍醐味だと私も思っているので、不満はない。
…もちろん、不満はないのだが。
「「「うわぁ…」」」
壁に大きく貼り出された1枚の紙。
地図の上に、班の色で丸く印が付けてある。
私達の班ー紫色の丸は、大きな湖と砂漠の狭間にあった。
「あんな開けた場所じゃ、隠れられないじゃん!」
「全体的に森だって聞いてたんだけどなぁ…」
「湖と砂漠って、どんな会場なんでしょうね」
訓練場に入り周囲に誰もいなくなってから、エマ、カレン、クルトがぼやき始めた。
誰の班が何色かは公表されていないので、皆の前で文句を言わなかったのは英断だ。
「んー…でも、ちょうどよかったかも」
「ティア?」
目立つ位置にあるが、逆に奇襲に警戒する必要はなくなった。取り囲まれる前に気付けるし。
「じゃあ、作戦を伝えるね。まずー」
考えていた内の1つの作戦を伝えると、皆が呆れと驚愕を混ぜ合わせた顔になった。
そして、班別対抗戦当日。
「こちらが、ティアナさん班の布と宝です」
渡されたハンカチのような紫の布を全員が腕に巻き付けるのを確認してから、宝の魔法石を見せる。
「じゃあ、作戦通りにね」
「細かい所は各自に任せるから」
相変わらず緊張で真っ青な顔と、逆に興奮で紅潮している顔を順に見渡してから、大きく頷いた。
先生の引率で既に各班はそれぞれの位置についていて、拡声魔法で開会宣言がされるのを今か今かと待っている。
「にしても、本当に湖と砂漠だね」
「砂漠って言っても暑くないし、ただの砂だけどね。向こうの方に森が見えるから、こっちの方角か…」
グラウンドの何倍もあるような会場だが、本当に森やら砂漠やら湖やらがあるわけではなく、魔法でそれっぽいものを創っただけだ。
だから毎年配置が違うんだよ〜、とエマは楽しそうに言っていた。
『ボクは出たらダメなんだよね?』
ーうん、ノエルは強すぎるし、規格外のことをするからね。
『それティアが言うの…まぁいいや。大人しく待ってるから、頑張ってね』
ーありがと!
軽く目を閉じて、脳内での会話を楽しんでから再び目を開ける。
「あーあーあー、」
先生の声がどこからともなく響いた。
特に意味のない言葉だったので、マイクテストのつもりなのだろう。
「えー、それではこれより班別対抗戦を始めます!」
おぉぉぉぉ!という昨日のような叫び声は、相手に場所を教えるだけなので聞こえなかったが、何となく会場全体の熱気が伝わってきた。
「…も、もう始まってるの!?」
「じゃないですかね!?」
…確かに、わかりにくいアナウンスだったなぁ。
わたわたするカレンとクルトに「任せたよ」とだけ言って、ソフィーと視線を交わしてから走り出す。
「「全てを創りし創造神のー」」
後ろから詠唱が聞こえてきたので、緊張していても作戦を忘れる程ではなかったのだと安心した。
「「ー我に力を与え給えーアイス!」」
間違えることなく詠唱を終えたカレンとクルトが、そっと息を吐いた。
「皆さん、行ってしまいましたね」
「うん、ここは私達が守らないと」
くるりと振り返り、砂漠をじっと睨む。2人の背後の湖には、氷で創られた謎オブジェが建ってーいや、浮かんでいた。
氷の彫刻の中には、守るべき宝ー魔法石が埋まっている。
「湖の上に宝を置き、氷で包んで守る。第1段階は成功だね」
「…でも、早速来ましたよぅ」
どこからか情報が漏れたのか、砂漠から大勢の生徒が走って来る。狙っているのは明らかだ。
「こんな時のために、前にソフィー、後ろにティアでしょ?」
カレンの言葉を証明するかのように、砂漠に巨大な穴が開いた。
突っ走っていた先頭集団の大半が、勢いそのままに落ちていく。
「罠だらけの砂漠に誘い込む。第2段階成功!」
「僕達、何もしてませんけどね…」




