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入学試験(後編)

「全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ」


静かに詠唱を始める。


「我に力を与え給えーアイス」


的に向かって伸ばした手から、拳大の氷の塊が現れる。

思い描いた通り、先端が少し尖っている氷だ。

それは、銃弾のように、勢いよく5枚の的を撃ち抜いた。

それだけでは止まらず、最初の位置から50m程離れた所にある大岩目掛けて飛んで行きーー貫通した。

ドガァァァン!というけたたましい音が響き、穿たれた穴によって、大岩が崩壊する。


「…」

「…」


「えっと…これ、何点ですか…?」


誰も何も言わないので、試験官に尋ねた。


「あ、えと…暫定15点です」


その声を聞いた他の受験者はー


「聞いたか、今の!」


「大岩破壊なんて、初めてじゃない!?」


「アンゼルム様を超えた!」


「何だ、あの詠唱?聞いたことねぇぞ!」


うわぁぁあ!と自分達の試験のことも忘れて、大盛り上がりしている。


…普通に、やっただけなんだけどね。


「な、な、な…」


周囲が盛り上がる中、わなわなと震えている者がいた。

そう、アンゼルム・ギーゼブレヒトだ。


「何だよ、今の!俺は認めねぇぞ!何か、ズルをしたんだ!そうだろう!?」


魔法でどうズルをするというんだ…。


「違うと言うなら証明してみろ!」


逆にそっちも証拠はないだろうに。

周囲も呆れてしまったようだ。

だが、ちらほら「ズル…?」「確かに、15点なんて…」「アンゼルム様の言う通りなのか…?」という声が上がっている。

面倒くさいやつだ、これ。


「アンゼルム君、落ち着いてください。不正をしたという証拠はなく、また装置も通常通りです。不正があったなら、私達の誰かが気付きますし、何より魔法実技での不正はとても難しいということを、知っているはずです」


試験官はアンゼルムを宥めるようにしながら、会場全体(人数は増えていっているので、今は100人以上いるだろう)に向けて言っている。


「まだ2回残っています。評価するのは、全ての試験が終わってからです。ティアナさん、2回目を」


「はい」


的は取り替えられたが、大岩はそうもいかない。

応急処置として、砕けた破片を積み重ね、それっぽい形にされていた。


基本魔法を1回は使うこと、と注意に書いてあった。

先程使ったので、次は何を使ってもいい。

目指せ、満点!目指せ、両科合格!の私は、出来るだけ多くの手札を見せる必要がある。


深呼吸をして、指先に魔力を込める。

そして、慎重に魔法陣を描いていく。

杖があればやり易いらしいのだが、仕方がない。

それでも、描き終えるのに5秒もかかっていない。


「全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ 我に力を与え給えー《氷槍乱散舞》」

魔法陣が光を放つ。


光を放った魔法陣が訓練場上空に広がる。

そこから雪がーいや、雹が降ってくる。

日本では確か、5mm以上の大きさのものを雹と言ったが、今降っているのはそれよりも明らかに大きい。

5〜10cm程の塊だ。

しかも、ただの雹とは決定的な違いがある。

槍のように先端が尖っているのだ。


それらが無数に空から降り注ぐ。

的は全て木っ端微塵に破壊され、ただでさえボロボロだった大岩は砂となり、風にさらわれて霧散してしまった。



「ふぅ…どうですか?」


「…ぁ…」


アンゼルムは声も出ないようだ。

ズルなんてしてないんだから、最初から邪魔しなければいいのだ。


「15点、です。いやはや、これは素晴らしい…」


的の取り替えをしているのだが、大岩の扱いに困っているようだ。

何せ、砂になっちゃったからな。

土属性があれば、岩を創ることは出来るのだが…


「私が直しましょう」


コツコツと靴音を響かせて、1人の女性が校舎から現れた。


「クラネルト教授!宜しいのですか?」


「構いませんよ。でもまさか、これが破壊されるなんてねぇ…」


教授と呼ばれた女性が大岩があった場所に近付き、魔法陣を描く。

あっという間に大岩が元通り現れた。


「まだ1回残っているのでしょう?壊されても良いように、ここで見させてもらいますね」


「えぇ、ありがとうございます。それでは、3回目をどうぞ」


ここまで氷属性ばっかり使っていたからな。

光は攻撃には向かないとされているが…あの術式なら。


「全てを創りし創造神の眷属たる光の神イルミナルよ 我に力を与え給えー《直進光線》」


魔法陣から一筋の光が飛び出した。

そのわずか1秒後。

ドガァァァン!

大岩が、崩壊した。

目で追えない速さで光線が的を射抜き、岩まで届いたのだ。


「え…あ、15点、です」


的に目を凝らし、中心に穴が開いているのを確認した試験官が、声を上げた。


「合計45点!?」


「新記録じゃない?」


「いや、ボーナスも付くだろうから…」


「満点!?」


受験者達が騒ぎ、第一訓練場が熱気に包まれる。


「素晴らしい!素晴らしいです!」


クラネルト教授も静かに(?)興奮している。


「これでティアナさんの魔法実技は終わりです」


試験官が告げた。

冷静に自分の役目を果たしているが、その目はぎらついている。


「ありがとうございました」


一礼して、第一訓練場の外へ足を運ぶ。

アンゼルムも、何も言って来なかった。

そして、入り口付近にはー


「お疲れ様。この雰囲気、ティアがやったの?」


剣術試験が終わったのか、ソフィーが立っていた。

魔法実技は、試験官が次を促しているが誰も行こうとしていない。


「その様子だと第二訓練場の方が不安になってくるけど…まぁ、私が原因なのかな?」


「絶対そうでしょ…じゃあ、私もやって来ようかな〜!ティアも、ね?」


「うん!後で」


剣術の試験で、何があったんだろう…。



第二訓練場で行う剣術試験は、試験官と一対一での実戦形式のようだ。

10人の試験官が2人ずつ散らばっており、受験者が相手をしている。

看板が立っていて、詳しい説明が書かれていた。

剣は場所についてから、自分に合うものを選ぶ。

試験官を1人倒せれば10点、2人倒せれば20点。

2人に勝つことが出来れば、もっと強い人が相手になり、その人にも勝てば30点。

更に強い人が出て来て、勝てば40点。

その他、動きや作戦等が特別良ければボーナス5点、魔法を利用することが出来れば+5点。

満点は50点で、1点刻みで評価されるらしい。


…ソフィーは何をしたんだ?


見た感じ、どこかが壊れていたり、動きがぎこちない人がいたりということはない。

考え過ぎかな?

不思議に思いながら、周りを見学する。

1人目の試験官に勝てる者は少なく、辛うじて勝てたとしても、2人目であっさり負けている。

試験官2人共に勝てた人はいなさそうだ。


「次!」


真ん中でやっていた人の試験が終わったようだ。

ボロボロになった男子が剣を杖代わりにして立ち上がり、剣を返却して会場から出て行った。


ー行くか。


「名前は?」


試験官は男性2人だ。


「ティアナ・ディオワリスです。よろしくお願いします」


「ディオワッ!?君、姉妹はいるか?」


…やっぱりソフィーが何かしたんだ。


「はい、妹がいますが…?」


「そうか…いや、何でもない。剣は選んだか?」


足元には木箱が置かれていて、その中には色々な形の剣が入っている。


「では、これで」


それらは全て、魔法が付与されていないものだ。

剣の腕だけを見る試験なのだろうか。


「細身か。君は、1本なんだな」


もちろんだ。

あれが出来るのは、ソフィーくらいだろう。


「まずは俺が相手をしよう」


片方の試験官が前へ進み出た。


剣を構えて向かい合う。

「始め!」という声が遠くから聞こえた。

試験官が一歩踏み出すよりも速くー

私の剣が試験官の剣を弾き飛ばし、首に当てられていた。

その間、僅か0.7秒。


「なっ…!?」


「合格、ですか?」


これで10点は確定だ。


2人目もあっさり倒すことが出来た。

これで20点。


「流石だな。では、あちらにいる試験官と…」


結論、3人目にも勝って30点。


そして、最後の関門ー


「俺まで辿り着くとはな…だが、俺はこれまでの奴らとは違うぞ」


どっしりとした身体をしている男性で、教師というより騎士といった方が近そうだ。


「数十年間一度も無かったのだ。だが、今年は何だ?2人もいるとは…ディオワリス姉妹?」


「やはり妹も?」


「あぁ…結果は本人から聞けよ?」


若干遠くを見ながら、最後のセリフをボソッと呟いた。

聞かないでくれという雰囲気が漂っている。


「では、始めようか」


「お願いします」


今までの場所から少し離れた、開けた場所で試験官と向かい合う。

最初の試験官達は他の受験者の相手をしているが、仕事がないのか3人目の人が審判をしている。

「それでは、ティアナさんとロスラーだん…試験官、始めてください!」


開始の合図と同時に、ロスラーと呼ばれた試験官が地面を蹴る。

やはり、男性は力が強い。

受け止めた剣の重みが今までとは違う。

スピードと言い、隙の無い立ち振る舞いと言い、この男性は今までとは格が違うようだ。

力で押し切られそうになるのを、無理矢理押し返す。

魔力で身体能力を強化する《身体強化》を使って、だ。

これはどの属性にも属さず、魔力さえあれば詠唱も魔法陣もなしで発動することが出来るのだ(もちろん、練習は必須だが)。

まさか押し切られると思っていなかったのか、驚いたように目を見開いた。

その隙に態勢を立て直して試験官から距離を取り、左手で魔法陣を描いて小声で詠唱する。


「全てを創りし創造神の眷属たる光の神イルミナルよ 我に力を与え給えー《破邪》」


剣に金色の光が纏う。

一時的に魔法を付与して創った、破邪のー「自分の敵を倒す」ためのー剣だ。


「なっ!?」


魔法は、禁止されていない。

だが、剣での試合中に魔法を使う機会など、そうそうないため、驚かれるのも無理はない。

破邪の剣は、敵を相手にした時に力を発揮するがそれ以外にはただの剣となる。

その「敵」の設定は、術者が行う。

どれだけの範囲にするのか、決めるのは術者であり、範囲が狭ければ狭い程、効果は上がる。

今回は「ロスラー試験官」ただ1人のため、能力の底上げが半端ないのだ。

風を斬り裂き、光の残像を残し、その剣はロスラーに向かう。

剣と剣が合わさり、高い鋼鉄の音を響かせる。

《身体強化》と《破邪》が合わさり、力は互角になっている。

あとは技術と作戦だが…

正直、ロスラーは強い。

そして私は、ソフィーより剣が上手くない。

ソフィーが一筋縄ではいかなかったであろう相手に、私が敵うわけがないのだ。


ー剣のみで、勝負をすれば。


「全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ 我に力を与え給えーアイス!」


魔法陣を描いている暇はない。

だが、魔力にものを言わせて…細長く尖った氷を4本程創り出した。

私の意思に従い、氷はロスラーに突っ込んでいく。


「ぬぉ!?」


咄嗟に剣を引き、2本を叩き落とした。

そして間に合わなかった1本を仰け反るようにして避けた所に、剣を突き付けた。

だが、ロスラーが手に持ったままだった剣が私のお腹に添えられた。

「引き分けか?良い試合だったな」

私の剣はロスラーの心臓部に。

ロスラーの剣は私のお腹に。

接近した状態で、決着は付かないはずだった。

「まさか」

ちら、と視線を上に向ける。

つられて軽く上を見たロスラーが目を見開いた。

先程創った氷の1つが上空から急降下してきているのだ。

それをロスラーが目視してから数秒も経たずに、氷は彼に直撃した。

剣で斬ろうとしていたが、無駄だ。

元々、剣を弾き飛ばす目的で飛ばしたそれはー

見事に役割を果たした。

パァン!と金属と氷がぶつかり、両方が砕ける音がした。


「っ!?」


私の魔力を注ぎ込んだ氷が、付与もされていない金属如きに斬れるわけがないのだ。

剣を失ったロスラーは、


「俺の負けだ」


両手を挙げて降参の意を示した。


「ディオワリス…あぁ、髪が短い方と戦った時も思ったが、お前らはどうなっているんだ?何でこんなに強い?」


ディオワリスは2人いることに気付いたのか、途中で補足が入った。


「何故と言われましても…私達は普通ですよ?」


それは無いだろうという顔をされたが、少なくともそう思っている。

私達はちょーっとチートなだけの、異世界人なのだから。


何はともあれ、試験はこれで終了だ。



「ソフィー、お待たせ〜!」


「ティア!お疲れ様」


正門に向かうと、すでにソフィーが待っていた。


「ソフィーったら、剣術であれをやったの?」


「そう言うティアも、基本以外の魔法を使うなんて…必要ないのに!」


お互い、それぞれの手札を切ったようだ。


「じゃあ、宿に帰りますか。ノエル達を戻さないとだし」



『ふぅ〜ティア、どうだった?』


依り代の中に入った時の逆再生のように、宝石から光が飛び出してノエルを形作った。


「たぶん、合格はしてると思うけど…」


『ボクが見てた感じ、余裕だったと思うよ?』


「そう?…え、見てたの!?」


衝撃だ。

依り代の中から外って見えるものなのか。


『表面的なことはね。何となくしかわからないけど…ティアに何かあったら困るだろう?』


そして、まさかの護衛目的だった。


「ありがと、ノエル」


ストーカー紛いの行為だが、心配されているのは間違いない。

少し照れて、お礼を言った。



結果が出るまでの3日間、宿でぐうたらしたり、魔法を練習したり、服や生活用品を揃えたりして過ごした。


いよいよ明日はー


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