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驚きの授業内容

先程の生物学とは打って変わって、人がごった返している。

武術は、剣以外の武器の扱い方を学ぶため、騎士コース、冒険者コースはもちろん、剣は苦手だが魔法以外の自衛・攻撃の手段を身に付けたいという生徒も受けに来る。


「あ、おーい!エマー!」


「ソフィー!ティア!お疲れ様〜」


エマは、同じ騎士コースのクルトと更に仲良くなったようで、一緒に喋っていた。


「お疲れ様です!」


私達は前の教室から直接移動するので、エマとは会えないケースもある。

クルトという友達がいれば、エマのぼっちは免れるだろうから、安心だ。




「今日は剣でなければ何を使っても構わない。ここにある武器から、自分に合う物を選べ」


長机の上にずらーっと武器が並べられる。

弓、槍、鎌、斧、等選り取り見取りだ。


「ソフィー、どうする?」


「私は槍…いや、鎌かな」


「じゃあ、私は弓で」


正直、どれでも一通りは扱える。

何となくで、近くにあった弓矢を手に取る。


「選んだ物によって、課題も異なる。各自わかれて、取り組め」


あら、ソフィーとは別行動だ。

手を振ってわかれ、弓を選んだ人達と合流する。


「魔法による補助なしで、あそこの的を射るのが今日の課題だ。弓の経験者はいるか?」


…私って、経験者なのかな?


出来るという確信はあるのに、使った記憶はない。

構え方から手入れの仕方まで知っているのに、練習した記憶が抜け落ちている。


まるで、誰かに消されたかの様に。


…だが、まぁ、出来るならいいか。


弓を選択した約10人の中で、手を挙げたのは私を含めた3人だけだった。


「あの的に当てられる自信のある者は?」


私以外の2人がそっと手を下ろした。

的までの距離は、ざっと50m。

ここから見ると皿くらいの大きさの的に、屋内で風がないとは言え、当てるのは難しいだろう。


「ティアナ・ディオワリスか。やってみろ」


「わかりました」


えー流石に無理でしょ、あんな小さい的に、いやティアナ様なら出来るって、弓が得意なのかもよ、剣があれだけ上手いのに、いくら何でも…


後ろから聞こえてくる雑音が、的を見据えた途端、自然とシャットアウトされた。


弓を構える。


何十年も修練を積んで来たかの様に、意識しなくても身体が動いた。


番えた矢を離す。


ヒュッと風を切って飛んだ矢は、的の中心から少し逸れた所に突き刺さった。


…1発で真ん中を射抜けるとは思っていなかったが、これは及第点ではないだろうか?


弓を下ろし、先生の方を振り向く。


「どうですか?」


的には当たった、それは間違いない。

合格だといいな、と先生を見詰める。


「…あー、こほん。合格だ」


よし!


「今のを見本にして、各自取り組む様に。初心者は初めから教える。集まれ」


わらわらっと生徒が集まるのを横目に、途方に暮れているとー


「練習していても構わんし、自由にしていても構わん。好きにしろ」


とお達しがあったので、弓を構え直した。


ここまで来たら、中心に当てるまで帰らない…!




私が謎の意地を張っている間、ソフィーも同じ様なことをしていたらしい。

曰く「合格でも、納得がいかない」。

完璧を求めて授業の半分くらいの時間を費やし、満足してから残りの半分は、寮に帰ってノエル達と戯れていた。




「…3限は付与魔法か」


午後1番の授業は、魔導具師コース必修の付与魔法だ。


「あ、カレン!」


それ程意外でもないが、カレンは魔導具師を目指すことにしたらしい。

手を振る彼女の顔は、嬉しそうに輝いていた。


「どう?上手く使えてる?」


「うん!あんなに貴重なものをわざわざ…ありがとう、ティア」


話しているのは、私が以前渡したカノン用の魔導具のことだ。

魔力過多の症状は収まっているとは言え、また溜め込むと厄介なので、魔力を吸い出す魔導具を作り、カレン経由で渡してもらった。


上手く作動しているようで、安心だ。


先生が入って来て、全員が席に着く。


「えー、それでは今日の課題を発表します。こちらの魔石に…」




私達、特進コースの日々はこうして過ぎていった。


忙しくても慣れるのは早いもので、あっという間に…




「最後の授業だー!」

「やっと1週間が終わるー!」


やっほーい!と歓声を上げる。

金曜日にあたる、雷の日の4限。


「☆19、かぁ…よく頑張ったね、私達」


これまで連続合格を続けたからには、1週間の最後も合格で締め括りたい。


「今日の4限は…研究?」


「そそ。必修でもないのに、皆がこぞって受けようとする謎の授業」


教室は、これまでとはかなり違った。


大きめの机や、椅子、移動式の黒板等が大量に置かれている。

それだけならまだわかるのだが、教室の壁に幾つものドアが付いていて、ドアの向こうは、少人数で利用する会議室のようになっている。


「…これ、何の授業…?」


「さぁ…」


ドアの数を数えようとしたが、20を超えた辺りで止めた。

寮と同じく、空間拡張魔法を使っているのだろう。明らかに、面積が合わない。


「えー、皆さん。既にお気付きかもしれませんが」


教卓が存在しないので、入って来た先生はドアの前から呼びかけている。


「研究の時間は、その名の通り、皆さんに自由研究をして頂きます」


…自由研究?


「何人かで共同研究をしても構いません。期限は、4週間後の明日、つまり氷の日です。講堂で行われる発表会で、成果が認められた方全員に、☆5を進呈します」


全員ぽかーんとしている。

急に自由研究とか、発表会とか言われても、困惑するだけだ。


「間に合わないと思ったり、断念したり、研究テーマが見つからなかったりした場合は、発表会に出なくても結構です」


もちろん☆は付きませんけどね、と微笑まれるが、こちらはそれどころではない。


「禁止事項は数点。過去に発表されているものや盗作は禁止、他人を傷付ける魔法の研究は禁止、他班の妨害は禁止、といった当たり前のことだけです。行き過ぎると、退学処分もあり得るので、気を付けてください」


それは確かに当たり前だが、意図せずテーマが被ったり、他人を傷付けたりした場合はどうなるのだろう?


「準備はここで行ってください。部屋は班につき、1部屋まで借りられます。各自の証明書が鍵の役割を果たすので」


大量の部屋は、そのためか。


「あと、研究テーマは当日まで他班に漏らさないように。それでは、健闘を祈ります」


ぱたん、とドアが閉められ、先生がいなくなった教室は、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。

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