入学試験(前編)
『ティアなら大丈夫だと思うけど…頑張って!』
『ソフィー、ネージュも応援してるからね!』
2人が激励の言葉をかけ終わると、その身体が光に包まれていく。
その光は段々と小さくなっていき、指輪の宝石に吸い込まれていった。
今日のノエル達は依り代の中から応援だ。
「じゃ、行こうか?」
「うん!」
試験日、当日。
会場に着いたのは8時32分だった。
まだそこまで人はおらず、私達は前の方の教室になった。
3人掛けの長机を間を空けて座るようなので、ソフィーと私は同じ机だ。
周りはみんな教科書を開いたり、ノートに書き取りをしたりしている。
しん、と静まり返っていてソフィーと話すことも出来ない。
…暇だ。
だが先日、こういう時に使えそうなものを見つけた。
《知識の書》を出現させる。
余白、と頭に思い浮かべてページをめくると、何も書かれていない真っ白なページが現れる。
そして筆箱からインクが切れたペンを取り出す。
それは、私達が作った特別なペンだ。
魔力をインク代わりにして文字が書ける。
何故わざわざ作ったのかと言うと、インクは消せないが、魔力インクは自分の魔力なので抜く(消す)ことが出来るからだ。
このペンを、《知識の書》に走らせる。
『やっほー』
私達の《知識の書》は連動している。
私が書いた文字は、ソフィーのにも書かれておりー
『ティア〜ヒマだよぉ』
筆跡も、書き順も、ソフィーが書いたように。
0.1秒程のタイムラグで文字が順に現れる。
メール機能の、完成だ。
『そんなこと言わないの!』
『だってぇ…じゃあさ、当てっこクイズしよ!これなーんだ?』
文字の下に、三角が2つ、丸にくっ付いているものが描かれた。
丸の中には小さな丸が2つ。
『ノエルかネージュでしょ?』
『正解!ネージュだよ。次はティアの番』
ソフィーの絵は、上手いとは言えない。
お世辞でも「わぁ!シンプルでわかりやすい!猫だよね?」と言える程度だ。
だが、自分で言うのもあれだが、私は…
しゃっしゃっとペンを走らせる音が響く。
肩にかかるボブに、くりくりとした瞳。
活発な性格で、悪戯っぽく笑っているー
『私…?』
『正解』
最愛の妹、ソフィーだ。
『やっぱティアって絵上手いよね〜双子なのに何でこんなに違うの〜?』
『そう?ソフィーの絵、私は好きだよ?』
ソフィーの絵は要点を捉えていて、上手くはないが私は好きだ。
それが慰めではないことを知っているソフィーはー
『そう、かな?ありがと』
ちらりと横をみると、照れているのか、耳が少し赤かった。
今更だが、《知識の書》は他の人には見えない。
そのため周りから見れば、私達は空中にペンを走らせ、にやにやしているやばい奴らだったのだが…幸いにも、試験前の追い込みで誰しも忙しく、注目を浴びることはなかった。
9時になると試験官が教室に来て、問題冊子を配っていった。
問題冊子に解答欄もあるようだ。
私達も《知識の書》に書いた文字を消して、魔力ペンをしまい、普通の筆記具を取り出した。
「それでは、始め!」
配り終えると試験官は教卓に戻り、開始の合図を高らかに告げた。
ぺらり、とページをめくる。
第1問は…「属性はいくつあるか。また、それぞれの属性を何というか。」
…うん?
え、こんな簡単でいいの?
驚いたが、これは1問目だった。
基本が出来ているのかをまず確かめるのだろう。
えーと、次は…
第2問「各属性の特徴・性質を答えよ。」
あ、まだ基本問題が続くんだ。
第3問「神の名前を全て答えよ。」
第4問「神はいるとおもうか。理由と共に答えよ。」
第5問「精霊とは何か。出来るだけ詳しく書け。」
第6問「解答欄の地図に、国境線を引け。」
第7問「この国の歴代の国王の名前を、出来るだけ多く書け。」
…あれ?
基本問題多くないか?
しかも出来るだけ多くってことは、全員書けってことなのに…解答欄ちっちゃ!
次のページをめくる。
第8問「あなたの属性のうち、1つの基本魔法の詠唱を答えよ。」
これだと、私は光か氷ということか。
完全な詠唱でいいんだよね?
第9問「あなたが知っている魔法陣を、出来るだけ多く書け(最大10個 難度は高い方が良い)。」
第10問「この学校の仕組みと、卒業条件について知っていることを書け。」
第11問「ギルドのランクとレベルについて説明せよ。」
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・
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問題は多岐に渡り、剣術や歴史についてや、新しい魔法とその魔法陣を考えて創れ、というものもあった。
試験時間の3分の1を残して終えることが出来たので、上々といった所だろう。
余った時間は暇だが、一応見直しをしておくとしよう。
「そこまで!ペンを置きなさい」
ぎりぎりまで書いていた者達がペンを投げ出すようにして置き、試験官によって冊子が回収される。
隣のソフィーを見ると、にやっと笑って親指を立てた。
どうやら、ソフィーも簡単だと思ったようだ。
「次の実技は屋外、魔法は第一訓練場、剣術は第二訓練場で行います。順番は自由です。移動を始めてください」
教室は、がたっと席を立って移動し始める者、辺りを見回して様子を窺う者、に分かれた。
「ティア、どうする?」
「さっさと終わらせたいし、行こ」
「逆の方がいい?」
「どっちでも…じゃあ、私は魔法から行くね」
「了解!」
手早く打ち合わせを済ませて、私達は別々の場所へと向かう。
「頑張れ」はお互い口にしない。
言うまでもなく、わかっているから。
第一訓練場では、もう実技が始まっていた。
5枚の的が縦に1列に並んでいて、その奥には大きな岩が置いてある。
魔法同士が変に干渉し合うのを防ぐためか、試験は1人ずつ行うようだ。
50人以上の受験者が、後ろで見学をしている。
少しでも自分の参考にしたい、といった所か。
「我が炎の魔力よ 我に力を貸し給えーフレイム!」
ちょうど試験中だった男子が魔法を行使した。
的に向けられた手の平から炎が飛び出し、一直線に向かって行くー
が、1つ目の的に当たった時点で炎は霧散してしまった。
的は焦げ付いただけで、倒れたり、壊れたりはしなかった。
「0.5点。これで3度目。魔法の実技試験は終了だ」
どうやら、3回は挑戦してもいいらしい。
男子は踵を返し、会場を出て行った。
その間に、試験官が的を新しいものに取り替える。
「次の者!」
人が集まっている所に行くと、「ここから先は受験者のみ」とかかれた看板があり、線が引かれていた。
その線を越えると減点されるかも、と言わんばかりに皆、離れた所から見ている。
そして、その看板の倍くらいの大きさで「魔法実技 諸注意」と書かれた看板も立っていた。
どうやら、挑戦は連続で3回までで、合計得点を競い、的を1つ壊すごとに1点、当たれば0.5点らしい。
後ろの大岩まで届けば+10点、とも書かれていた。
つまり、最高点は15×3=45点ということか?
微妙だな、と思ったら続きがあった。
無駄の無い魔力の使い方、術式の工夫、大岩の破壊、等にはボーナスで+5点が貰える。
ただし、魔力枯渇等で倒れた場合は−5点。
魔法は何を使っても良いが、1度は基本魔法を使うこと。
合計得点は合格発表後にしか公開されない。
その都度、得点は告げるがボーナスは含まない。
…最高点は50点、かぁ。
何が何でも取りたくなってきた。
次に受けた者も、結果は1つ目の的の破壊に留まった。
次も、その次も。
2つ目の破壊までいった者は、皆無だった。
「次!」
あれ?誰も出ない。
よし、行くかー
「俺がやる!」
行こうとした矢先、名乗り出た男子がいた。
「うわぁ…」
「アンゼルム様の後とか、やりたくねぇな」
落胆したような声が、後ろから漏れる。
そんなに凄い奴なのだろうか。
見た感じ、魔力もそこそこ多い程度だが…。
「知ってるとは思うが、アンゼルム・ギーゼブレヒトだ」
試験官に向かって名乗る。
「それでは、どうぞ」
試験官は静かに促したが、その目には期待が込められている。
「我が炎の魔力よ 我に力を貸し給えーフレイム!」
堂々とした声で詠唱を唱える。
手の平から炎が飛び出し、的へ向かう。
確かに、今までで1番大きい炎だった。
それは1つ目の的に当たり、的を破壊した。
2つ目も破壊し、3つ目でようやく止まった。
「2.5点です」
おぉぉ、という感嘆が漏れる。
「流石だな」
「魔術科の首席は決まりじゃね?」
…そんなに凄い?
2回目も変わらず2.5点。
3回目は魔力を使い過ぎたのか、2.0点だった。
アンゼルムとかいう男子は、得点を聞いて自慢気に、
「うん、こんなもんか。さぁて、俺の後にやるのは誰だ?」
とか言って居残っている。
「次!」
試験官が声をかけるが、誰も下を向いて行こうとしない。
…出番かな。
「私やります」
手を挙げて、前へ進み出た。
10歳はこの中では小さい方だからか、「え?マジか」「こんなガキが?」という声が聞こえる。
「へぇ?お前、勇気あるなぁ。俺の後じゃあ、頑張ったって見劣りするぜ?」
例え見劣りしても、点数は変わらないので問題はないと思うのだが…
「名前は?」
「ティアナ・ディオワリスです」
試験官も、可哀想にといった表情のまま、「どうぞ」と促した。
さぁー私のショータイムだ。