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契約

「ティア、どうする?」


「万年氷を溶かす魔法、創っちゃえば1番早いんだけどね…」


手で擦っても、溶ける気配が一切ない。


「頼りたくないって言ってたじゃん!うーん…剣でも斬れなさそうだもんね」


《魔法秩序創造》で設定してしまえば、溶かすことは可能だろう。

だが…

ちらりと、背後に目をやる。

魔法で創り出したのか、氷で出来た椅子に腰を下ろして退屈そうに手を振っているフロレンティーナがいる。

振るごとに1つ、2つと氷の彫刻が増えていき、その場を埋め尽くしそうになっている。

この場で創るのは…フロレンティーナに敵対の様子はないが、隙を見せることになる。

既存の魔法では無理。

だが今までに創った魔法では到底ー


「あ、出来るかも」


もしかすると、あれでいけるのではないだろうか。


「えっ?」


冷気を発している氷のすぐ側まで近付き、

ぱんっ、と両手を合わせた。


効果は劇的だった。

私の近くの部分が窪んでいき、水が滴った。

もちろん、水はすぐに凍ってしまうのだが、氷は溶け続けた。


寒さのあまり先程創った魔法。

魔法効果は『自分の周囲の環境を過ごしやすいものに変える』とした。

そのため、私達の周囲の気温は20度くらいになる。


「あ、そっか!0度より上だったら、氷は溶けるもんね!」


「そゆこと。近付くだけじゃ不安だったから発動し直したけど、効いて良かった!ほら、ソフィーも」


「うん」


じわりじわりと氷が溶けていき、子猫に手が届くー


「あ…」


パキン、という音がした。

パリン、パキリと音が続く。

氷にひびが入っていた。

それは、徐々に広がっていきー


パァァァン!


盛大な音を立てて砕け散った。


「えっ!?そんな馬鹿な!」


その音にいち早く反応したのはフロレンティーナだ。

椅子から立ち上がり、つかつかとこちらに歩いてくる。

その表情は驚きに満ちていた。

視線を落とすと、紺色の子猫が上半分が砕けた氷の上に乗っていた。

かがんで、そっと抱き上げる。

嘘みたいに軽い。

身体は冷たく、心臓の鼓動は感じられない。


「そんな…万年氷が…」


側まで来たフロレンティーナがショックを受けた顔で呆然と呟く。

パァァン!と横からも音が響き、ソフィーが灰色の子猫を抱き上げていた。


「嘘でしょう…万年氷は『溶けない氷』なのよ?なのに何で…」


「それよりも!」


被せるようにソフィーが叫んだ。


「この子…すごく冷たいんです!早く温めないと!」


そう、さっきから擦っているが一向に温まらないのだ。


「あ、あぁ…それなら魔力を送ればいいのよ。ここに来たのに、知らないの?」


初耳だが、とりあえず魔力を流してみた。

ゆっくりと、慎重に。


どのくらいだろう?

結構流したと思うのだが…


『…ぅ…ん』


ふるり、と子猫の瞼が震えた。

ぴくぴくと小さい鼻が動く。

そして、ついにその瞼が開かれるー


「あ、気が付いた?」


『ん…あれ?ボク…』


喋った!?

あ、そういえば精霊だった…納得納得。

瞳の色は金だった。


「まぁぁぁ!目が覚めたのね!?」


『せ、精霊王様…そうだ、ネージュは?』


きょろきょろと子猫が辺りを見回す。

そして、隣でソフィーの腕に抱かれている灰色の子猫に目を止めた。


『ネージュ!』


ネージュ、というのは灰色猫の名前だろう。

紺色猫と同じようにゆっくりと目を開いた。


『…ぅぅん…』


紺色猫が声変わり前の男の子のような声だったのに対して、灰色猫の声は女の子のようだ。

精霊に性別があるのかは不明だが。

ネージュの瞳は青色だった。


『ノエル…?』


『よかった…本当によかった…ネージュ…』


嬉しそうに目を細めて呟く紺色猫(ノエルという名前らしい)はネージュだけしか目に入っていない。


「お早う。ノエル、ネージュ。状況はわかっているかしら?」


『はい』


『大体ですが』


「ならいいわ。ここにいる2人…ティアナとソフィアが契約主になるから」


契約主?

駄目だ、声をかけるタイミングが見つからない。


「ノエルはティアナと、ネージュはソフィアとね。依り代と指輪は作れるわよね?」


『『もちろんです』』


ちらりとソフィーを見ると、ぽかんと口を開けていた。


「2人とも」


フロレンティーナが話しかけてきた。

やっとだ。


「感謝しなければならないわね。お礼を言うわ。それと、契約についても了承しましょう」


えーっと…


「あの、契約って何ですか?」


ずっと聞きたかったことを質問すると、


「『『は?』』」


見事に全員、口を開けてしまった。

何で知らないの?とか、嘘でしょうという声をが聞こえた気がする。

ソフィーを見ると、《知識の書》を開いていた。

私が話している間に、確認を取るようだ。

…私も、そっちの役割が良かった。


「え、ちょっと待って…契約する精霊を求めて来たのではないの?」


「いいえ?ただ、純粋な興味です」


主にソフィーの。


「興味があるから…命がけで“万年氷の森”に来たって言うの…?信じられない!ここに入るには相当な魔力があって、且つ精霊と親和性が高くないといけないのに…」


なんかすいません…。


「でも、理由はどうあれあなた達には資格があるわ。ノエルとネージュの契約主になることを望むのなら、許可するわ」


「契約すると、どうなるのですか?」


「契約した精霊の力を借りることが出来るわ。もちろん、使役するには魔力が必要だけど」


魔力なら、問題ないだろう。

ソフィーを見ると、頷いてくれた。

ただ、懸念事項といえば…


「ノエル様とネージュ様は…いいのですか?」


本人が、了承するのか。

嫌々契約するのはごめんだ。

ちなみに、何故様付けなのかというと、ノエル&ネージュはおそらく大精霊だからだ。

本来なら敬うべき存在であり、状況が状況であったとはいえ、無断で抱き上げるなど言語道断である。

と、思ったのだがー


「ティアナ。あなたは2人の恩人で、契約主になるかもしれないのよ。敬称など不要だわ。それで、2人が契約をどう思っているのかだけど、」


『喜んで契約したいよ!』


『ネージュも、喜んで!』


…え?

こんなあっさりとOKしちゃうの?


「ソフィー、どうする?」


小声で尋ねる。


「ん?いいと思うよ。可愛いし、毛並みが気持ち良かったし…」


確かに、ノエルの毛は艶々のすべすべだったし、もふもふしたら絶対気持ち良い…じゃなくて!


「どこに視点を置いてるの…全く…」


呆れてしまったが、賛成しているのは間違いない。


「では、お願いします」


「わかったわ。では、ノエルとティアナはこっちに」


連れて行かれたと言っても、先程いた場所が目視出来るくらいしか離れていない。


「契約は、他の人の前ではしないものなのよ」


形として、離れただけのようだ。

ノエルは宙に浮いている。

いや、表現としては空気の上に立っている、と言った方が近い。


「契約の仕方は…まぁ、やればわかるわ。ノエル、どうぞ」


ノエルが、視線を合わせるように宙を蹴って上の方に来た。


『はい。ボクはティアナに、条件として魔力と1日に1回以上話すことを求めるよ。その代わり、ティアナの精霊として忠誠を誓おう』


…条件って、そんなことなんだ。


「えっと…私はノエルに側にいて欲しいかな。力を貸してね」


ノエルとは初対面だけど、自然と心が落ち着く気がする。

だから、一緒にいて欲しい。


『了解した。もしティアナが望んだら…その時は喜んで世界を滅ぼそう』


…え?

前提条件もおかしいし、一個人の望みだからって滅ぼさないで!ちゃんと止めて!


「ティアナ・ディオワリスとノエルの契約を認めましょう」


認めるの!?

え、あんな条件なのに認めちゃうの?


「この運命に祝福を。2人の人生が、より良きものであるように」


フロレンティーナが私達に向かって手をかざす。

その手の平から無数の光の粒が飛び出し、私達に降り注いだ。

それは赤だったり、黄色だったり、緑だったり、青だったり、と様々で、身体に当たった瞬間、雪が溶けるように吸い込まれて、消えた。


ー精霊王の祝福


『ティアナ、よろしく頼むよ』


感動していた私に、ノエルが手(前足?)を差し出した。


「こちらこそ。よろしくね、ノエル」


右手を重ねる。

すると、ノエルが左手も重ねた。

私もそれに倣う。

すると、ノエルの手が淡く光を帯びた。

その光は私の左中指に集まり1つの形になっていく。


「これ…」

それは、指輪だった。

私の金色がかった銀髪と同じ色合いのリングに、ノエルの毛並みそっくりの紺色の宝石がはまっている。

紺色の宝石の奥、中心の辺りには光が灯っていて、とくんとくんと動いている。


『その宝石がボクの依り代だから。大事にしてよ?』


「うん、もちろん!」


これを粗雑に扱うなど、あり得ない。

自然とそう思える程、綺麗な指輪だった。



「ねぇ、ノエル」


ソフィー&ネージュと場所を交代した私は、ノエルに話しかけた。


『うん?』


「ノエルとネージュってどういう関係なの?」


気になっていることその1。

長い眠りから覚めたノエルが、真っ先に気にしたのはネージュのことだった。


『あぁ、えっと…兄妹みたいな感じかな。精霊だし、血の繋がりとかはないんだけどね』


「そっか。それと…」


気になっていることその2。


「何で私と契約したの?」


『え?あー、それはねぇ…うーんと』


そこまで変な質問ではないはずだが、ノエルは何故かもじもじとし出した。


『やっぱ内緒!』


そして、言わないときっぱり断言。

まぁ、彼(?)には彼なりの理由があるのだろう。



「ただいま〜」


ソフィー達が帰って来た。

ソフィーの左中指には私と同じように指輪ー銀のリングに灰色の宝石ーがはまっている。


「ありがとうございました」


一緒に戻って来たフロレンティーナに頭を下げる。


「良きパートナーを、見つけることが出来ました」


「私からも。もし何かお礼が出来たらいいのですが…」


完全に成り行きだったが、ノエルと出会えて嬉しいのは本当だ。


「あら、いいのよ。でも…そうね」


私達が精霊王に出来ることなど、残念ながらないだろう。

そう思っていたのだが…


「ゲートの氷を溶かすことは可能かしら?」



ノエル達の氷を溶かしたのと同じ要領で、ゲートも溶かすことが出来た。

…正確には、ある程度溶けてひびが入った所までしか出来なかったのだが、フロレンティーナからすれば大進歩らしい。

ここから先は、自分1人でも大丈夫だろうとのことだ。


お礼を言い、言われて、そのまま万年氷の森を出た。


出る時にノエル達にもう少し居たいかと聞いたが、


『何百年間もいた場所だよ?』


『そろそろ飽きる頃だったから、むしろ早く出たいかな』


とのことだった。


「じゃあ、行きますか!」


「『『おー!!』』」



追放された双子と、眠りから覚めた大精霊の旅は、まだ始まったばかりだ。

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