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内通者の正体

そもそも生徒は全員、自室待機しろと言われていたはず。

疑問に思いつつもそーっとドアを開ける。


「ーっ!カレン!?」


開けた先にいたのは、予想もしていなかった人物。

魔術科の生徒、カレン・エーデルだった。


「ごめん…ティアとソフィーに、話したいことがあるの」


両手を身体の前で合わせ、視線は下向き。

言いにくい内容であるのは伝わってくる。


「気にしなくていいよ。さ、入って入って」


カレンは私のお見舞いに来てるから、部屋の場所を知っていても不思議ではない。

用件の方には、全く思い当たる節がないが。


ソファにカレンを座らせ、向かい合う形で私とソフィーが座る。

お茶でも出そうとしたが、断られてしまった。


「…それで、どうしたの?」


改めて見ると、カレンは相当顔色が悪い。

いつもの優しくて明るい雰囲気はどこへやら、青ざめ、思い詰めているような…


「その、私…」


カレンがこれ程悩んでいること、それは一体…


「…っ、ごめんなさい!」


「「へ?」」


いきなりの謝罪。

告白してきた相手を振るような勢いだが、謝られるような何かを、された覚えはない。


「…ティアとエマが誘拐されたのも…今日の事件も…全部…私の…私のせいなの…」


…。

……え?


その台詞を飲み込むのに数秒を要した。


「ちょ、ちょっと待って…え、カレン、どういうこと?」


誘拐事件と、今日の騒動。

それらがカレンのせいだというのは…


「違うかもって思ってたけど、今日ので確信したの…あの…あの人…あの人がやっぱりっ…」


「落ち着いて、カレン」


カタカタと震え出したカレンの肩に手を置き、深呼吸するよう促す。

スーハースーハーと息を吸って吐いて、少し落ち着いた所で続きを…


「知らない人に、話したの…週末にシュラハト草原に行くこと。今日のことも…魔術科と武術科の授業をする教室と、授業内容…聞かれたから…」


知らない人?

でも、週末以外は学園から出られないはず。


「どんな人だった?髪色とか目の色とか」


「わかんない…何も、思い出せなくて…男の人、だったと思うけど…」


「どこで会ったの?」


「学園…でも、先生じゃないの…マントなかったし…」


エーデルシュタイン学園の教師は白いマントを羽織る、というのが原則だ。

生徒なら青、赤、黒のどれかを羽織っているはずなので、マントがない=外部の人、となる。


「お客さんってこと?でも、カレンが話す機会なんて…」


「ティア、希望的観測はやめとこ。外見を覚えてないってことはさ」


…わかっている。


「魔族だったってことだよね。いつ?」


問い詰めるソフィーの鋭い視線に、ひゅっとカレンが息を飲んだ。


「私が、誘われた日の夕方に…図書館の近くで、声をかけられたの」


「1人だった?」


「そうだよ…?私も、相手の人も」


ソフィーと顔を見合わせて、はぁとため息。


「カレン…学園の規則にあるでしょ?『在学中の者以外、学園内に許可無く立ち入ることを禁じる。入る場合は申請、許可証の提示をした上で、学園関係者の立ち会いの下』って」


「う、うん…あっ!」


校内をまわる場合は、学園関係者の付き添いが必須。

つまり、外部の人が1人でいること等、あり得ない。


「無許可で入ったんだろうね…それなら、マントくらい似たのを用意しとけばいいのに…」


抜けてたのか、バレない自信があったのか…


「どんな話をしたの?」


「えっと…その…」




ティアに誘ってもらえた!と浮かれていた日の夕方。

それでも、日課は欠かさない。

いつものように図書館へ足を運び、本を読み漁っていたが、閉館時間になったため、何冊か借りて寮に向かう。


「よいしょ…っと」


古い本(もちろん、借りたのは写本だが)なので分厚いし、重い。

若干ふらつきながら歩いていると、案の定ー


「あーっ!」


バサバサッドンッ


「あーあ…」


積み上げて腕に抱えていた本の1冊が、音を立てて落ちてしまった。

拾おうとしてーーその本がふっと消えた。


「あれ?」


顔を上げると、知らない人が私が落とした本を手に取り、しげしげと見つめている。


ー誰だろう?


ふと、疑問に思った。

だが、それが言葉になる前にー


「…どなたか、ご病気の方がいらっしゃるんですか?」


相手の質問によってかき消されてしまった。


「あ、えっと…それは、その…」


どうしよう、何か言わなくては。

軽くパニックを起こしているのは自覚していたが、咄嗟に言葉が出てこない。


「安心してください。こう見えても魔法は得意なんです。お役に、立てるかと」


私の慌て具合を肯定と受け取ったのか、目の前の人が話を続ける。


「そうですね…今週末にでも、出向きましょうか?家族でも、友達でも、誰かが苦しんでいるのは辛いでしょう?」


「ちょ、ちょっと待って!待ってください!」


私はまだ何も言っていない。

それなのに、何故…いや、それはともかく…


「無理です…治せないって…」


「そんじょそこらと一緒にしないで頂きたい。自分で言うのも何ですが、片手に入る程の実力者ですよ。ですから、心配いりません」


ゆっくりと紡がれる、優しい言葉。

目の前の人が誰だか知らないが、好意に甘えてもいいのでは…?


頷きかけて、先程の台詞を思い出した。


「…今週末は…駄目、です…」


相手の機嫌を損ねたら、なかったことにされるかもしれない。

そうなれば、2度と…


わかっていたが、頷くことは出来ない。


「何故です?早い方が…」


「今週末は…友達と、遊びに行くんです…」


こんな身勝手な理由じゃ駄目か。

もっと、ちゃんと、説明しないと…


「ティアに誘われて…皆…ソフィアさんと…リアと…アンゼルム様と…皆で…約束…」


理由になっていない。

相手の目が細められたのを見て、駄目だったかと息を吐きー


「素晴らしいですね」


ーえ?


「ご友人とお出かけ。楽しみになさっているのでしょう?良いことではないですか」


予想外の笑顔に、何と答えたらいいのか…


「先方との約束は優先するべきです。あなたは、何も間違っていませんとも。どんな予定なのですか?」


「え、えっと…しゅ、シュラハト草原って所で、ご飯を食べて…後は湖で…」


ティアから聞かされた予定。

まだわかんないけどね、と笑っていたが、その未来はとてもキラキラしていてー


「でしたら、今度伺いましょう。きちんとお話したいですし…あなたはいつも図書館に?」


「え、あ、はい…」


にっこりと温厚な笑みを浮かべた目の前の人が、再会の約束を取り付ける。


「では、また」


よかった…これで…


助けることが出来る、という安堵で一杯だった。


目の前の人はいつの間にか消えていて、寮に着く頃にはその姿を思い浮かべることも出来なくなっていたが、それを疑問には思わなかった。




カレンの話を聞いた私達の第一感想は…


「「えっ!誰か病気なの!?」」


といったものだ。

無言で視線を彷徨わせるカレンを見て、事実なのだと判断する。


「…カレン、言いにくいのかもしれないけど…私だって、魔法は得意だよ?何か出来ることが…」


「うん…でも、迷惑だし…治せないって言われてたし…」


消え入るような声。

治せない病気…それでも、何か出来ることがあるかもしれない。

…頼って欲しかったな。

まぁ、それは置いておいて。


「それで、その人とは?」


「うん…この前、授業の後に同じ場所で会って…」


誘導尋問のような形で情報を引っ張り出されたのか。


カレンのことを今更怒る気にはならない。

仮にカレンが言わなくても、いずれ同じことになっていただろうし、何よりわざとではなかったから。

1番不安だった内通者疑惑を晴らすことが出来たのだから、むしろ…


「ありがと、カレン。話してくれて」


え、とカレンが目を丸くし、ソフィーはそう答えるのがわかっていたかのように息を吐き、脳内ではノエルが『ティアがそう言うなら…まぁ…』と納得していなさそうではあるが、とりあえず引き下がってくれた。


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