久し振りの授業
今日は風の日。つまりー
「久し振りの授業だー!」
目を覚ましたのが炎の日で、水の日は校長から呼び出しを受けていた。
「ちょっとくらい体調悪いフリしてね?あんなこと言っちゃったんだから」
「うーん…あれは不可抗力と言うか…」
思い返すこと前日。
アーカイブから行く秘密の校長室で、国王も含めた4人でお話し合いをしたのだが…
「…では、誘拐理由について思い当たる節はないと?」
「はい」
精霊関連です、と答えるわけにはいかない。
笑顔を作って誤魔化す。
「あれだけ酷い傷を負って帰って来たのだ。何をされたか言えとは言わんが、聞かれたことくらいは教えてくれ」
「それは…」
2人の目にはこちらを心配する色が浮かんでいて…真っ直ぐ見ていられなくなり、目を逸らした。
「変装してこちらに入る等、外交問題にも発展する。似た様なことをしてこちらも入ったため、文句を言える立場にはないが…」
「我が校の生徒が害されたのだ。そんな悠長な事を言ってはおれん」
「抗議文くらいは送っても良かろう…本当に、何もないのか?」
どうしよう…
言えないが、それっぽい理由も思い付かない。
えっと…
「そ、その…あまり、覚えていなくて…」
脳内が高速でフル回転した結果、「覚えてないからわからない」と嘘を吐くという結論に至った。
「何と…」
「強い精神的負荷がかかるとそういった事もあると聞く…すまんな、無理強いをしてしまった」
…こちらこそごめんなさい。
痛みで意識は朦朧としていたけど、覚えてないわけじゃない。
もう、こっちが罪悪感に潰されそうだ。
ソフィー、帰らせて!
視線を送ると、
「まだティアも体調が優れないので…あまり長話は…」
と申し訳なさそうに切り出してくれた。
「傷痕はないが、目を覚ましてすぐだったな」
「そういえば、誰が治癒魔法を使ったのだ?」
ぽん、と国王が手を打ち、校長が首を傾げた。
「許可をいただいたダンジョンで手に入れた魔水晶を使いました」
本当はノエルだけどね。
魔力はメディシアの花の蜜で回復させたらしいし。
納得したように2人が頷き、扉に手を向けた。
「呼び出してすまなかったな」
「無理せず休みなさい」
「「はい、失礼します」」
ーというわけで、先生方の中で私は完治していないことになっているのだ。
「だってさ、他に何て答えられた?」
嘘は吐きたくないけど、仕方がなかったと思うのだ。
「んー…本当のこと言う、とか?」
「いやそれは…先生も言ってたじゃん。結界は役に立たないって」
国境にも、学校にも、許可された者以外は通ることの出来ない結界が張ってある。
無理矢理破ることが出来ても、不法侵入の報せが術者に行くはずだ。
なのに、何故か反応しなかった。
「魔族が入ってもわかんないんだよ?情報漏洩の可能性を考えると、誰にも言わないのが1番」
「そうだね」
一応、警備は強化してくれるらしいが…正直不安だ。
「まぁ、ノエルとネージュもいるし、この前よりは安全だと思うけどね」
「うん…お願いだから魔族は来ないで欲しいな…ノエルがまだ怒ったままだし…」
魔族に対するノエルの怒りはまだ解けておらず、ケフィンがのこのこ現れでもしたら、その場で抹殺されるかもしれない。
…目の前で殺人事件なんか見たくないので、自分の身が大切なら魔族の皆さんは来ないでください。
「ティア!ソフィー!おはようございます!」
「おはよー!」
廊下に出るとリアとエマが待っていた。
エマがポニーテールじゃないことに、違和感を覚える。
「待たせちゃった?」
「いえ!これを見てたので…」
手に持っていたのは証明書だ。
もうすぐコース選択だから、確認していたのかな?
「皆さんは何にするですか?」
「んー、特に決めてないけど…2人は?」
魔術科なら魔術師や魔導具師、武術科なら騎士になる生徒が多い。
他にも、少数ではあるが冒険者や領主を目指す生徒もおり、目指すものによって取らなければいけない授業が変わってくる。
「私はまだだよー!稼げる職業なら何でもいいかな」
「私は…私もまだ決めてないです…」
リアはトスパン家の血筋だから、いずれ家に呼び戻されるだろう。
となると、貴族コースは確定なのか。
「ソフィーとティアならどこからでも声がかかるんじゃない?」
「いやー、堅苦しいのとか苦手だし…」
魔術師や騎士は花形だが、私達は特に目指しているわけでもない。
「エマとか騎士になれそうだけどね?体力もあるし」
「それを言うなら、リアは魔術師?魔力あるし」
「「いやいやいや」」
リアの魔眼は最前線で活躍出来る程のものだ。
ゼアスト魔皇国に潜入した時も、役に立ったらしい。
エマは毒耐性がある(ケフィン談)し、勘も優れている。
剣の実力的にも体力的にも問題ないだろう。
なので、結構本気で勧めたのだが、首を振られてしまった。
朝食を摂り、魔術科と武術科に分かれる。
これまで通り、私は午前中魔術科だ。
「ティアと授業、久し振りです!」
「今日は何だっけ?」
えっと…とリアが考え込んでいると、その肩をぽん、と叩いた者がいた。
カレンと、その横にいるのはアンゼルムだ。
「おはよう!」
この2人の組み合わせ…取り巻きはどこへ行ったんだろ?
「おはよ!元気そうで良かった〜」
「あぁ、無理するなよ?」
心配してくれたのか。
やっぱり、誰かが裏切るわけないよね。
一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしくなる。
「わかってるって!ありがと」
笑顔を向けると、アンゼルムは照れ臭そうにそっぽを向き、カレンが笑顔を返した。
用件はそれだけだったようで、静かに離れて行く。
「ティア…本当に、無理しないでくださいね…?」
リアまで気遣い始めた。
もう…大丈夫だって言ってるのに!




