王都めぐり
「あ〜やっとお休みだ〜!」
地球と同じで1週間7日のこの世界では、曜日も似ていた。
5日間授業して、2日間お休み。
土曜日にあたる日は復習の日なので、校内から出るには許可が必要だが、日曜日にあたる日は完全に自由だ。
ちなみに、こちらでの曜日は…
光の日、炎の日、水の日、風の日、雷の日、氷の日、土の日
となっている。
特に意味はないので、属性が7つだから丁度じゃん!という安直な理由で決めたんだろうな…
そして、今日は日曜日…いや、土の日!
つまり休日!
「で、何でみんなを集めたわけ?」
私、ソフィー、リア、エマが今いるのはいつも通り寮の私達の部屋だ。
場所は問題ではない。
何故、休日の早朝に召集をかけたのか…
「あっ、それは…その…」
「私がリアと話してたの!最初のお休みだし、遊びに行きたいねって」
それは楽しそうだけど、こんな朝早くだと…
「あー、しょーゆーこと…ぅん、いいとおもうよ!いこぉいこぉ」
こっくりこっくりしながら、ソフィーが相槌をうつ…が、何言ってるのかわからない。
「ソフィー!酔っ払いみたいにならないで!アイス!」
氷を創り出し、ソフィーに投げつける。
「ふぇにゃっ!…うー、起きた!起きたよぉ」
やっとか。
「ごめんね、2人とも。で、どこに行く?」
「んー、やっぱり王都かなって思ってるんだけど…いいかな?」
「「「うん(はい)!」」」
王都(学校の外)には入学試験が終わってからの3日間、服や生活用品を買いに行ったくらいだ。
楽しみだな♪
…ちょっと眠いけど。
「ほら、はやくはやく!」
「エマ〜どこに向かってるの?」
朝一番に学校を出て(おそらく全校生徒の中でもトップだろう)、エマに連れられて走っている。
裏道を駆使してジグザグに走る走る。
周りはすでに知らない景色だ。
「もうちょっとでっ!着くからっ!」
エマは息が上がっているし、リアに至っては倒れる一歩手前のような顔をしている。
私とソフィーは平気だが。
「ここをっ!左にっ!曲がるとっ!」
狭い路地裏を抜けると、こじんまりとした1軒の店が現れた。
蜂蜜色のレンガと木で造られた建物で、店名は“メル・パニス”。
「ここが目的地…?」
「そ。早く入ろう!」
慣れた様子で店のドアを開けるエマ。
からんからん、とドアに付けられたベルが音を立てる。
まさかとは思うけど…
エマに続いて店に入ると、ふんわりと蜂蜜の甘い香りが漂ってきた。
「いらっしゃーい!あ、エマちゃん!」
迎えてくれたのは、5、60代くらいの優しそうなおばちゃんだった。
「カミラさん!久しぶりっ。あの…」
「はいはい、今日は1番乗りだよ…そちらは?」
「同級生になった、ティアとソフィーとリアだよ!」
親しげに話していて何よりだが、その説明はどうかと思う。
「ティアナ・ディオワリスです」
「ソフィア・ディオワリス。ティアの妹です」
「リア・アーメントです」
あらあら、とカミラさんが目を丸くする。
「お友達がたくさんできたの。よかったわね、エマちゃん」
エマだったら、友達くらいたくさんいそうなものだが…
孤児院育ちと言っていたし、何か事情があるのかな?まぁ、深く追求はしないけど。
「今日は何を買ってくれるんだい?」
「え〜そりゃもちろん、特製はちみつパンだよ!ありったけ!」
「他のお客さんもいるから、それは無理だよ。そうだねぇ…5個までならいいよ」
「んー、わかった!」
…やっぱり。
急いでたのは、これが理由か。
「あっ、みんなも買うといいよ!ここのパンはすっごく美味しいから!」
「じゃあ、そのはちみつパンを3つ!」
おい、ソフィー!
早いな、全く…確かに美味しそうだけども。
「じゃあ私も。はちみつパン3つください!」
「あ、じゃあ…2つください」
カミラさんはほくほく顔だ。
「エマちゃんのお友達だし、少しおまけしとこうかねぇ。エマちゃんは20メルク、ティアナちゃんとソフィアちゃんは12メルク、リアちゃんは8メルクね」
安っ!
ダンジョンで貰った2億メルク+賠償金もあるから、少ない出費だ。
銅貨1枚と小銅貨2枚を払い、熱々のパンを受け取る。
「カミラさんありがと!また来るね!」
店のドアに手をかけるエマ。
「ちょ、エマちゃん!裏口から出てくれるかい?」
え、なんで…?
「まだ営業時間前なんだよ?売ったって他のお客さんが知ったら、文句を言われるだろう?」
「あ、そっかぁ…ごめんなさい、気を付けます」
…営業時間前!?
今の時間は午前6時ちょっと過ぎで、早いなとは思っていたけども…
「全く…ほら、冷める前に行きな」
「はぁーい!」
店の裏口からこっそり出る。
「あの…エマ、よかったんですか?営業時間前って…」
リアが手の中にあるパンを困った顔で見ている。
「いいのいいの!だって、そうでもしなきゃ食べられないもん!あ、あそこにベンチがあるよ!食べよ!」
横並びに4人で座りながら、パンに齧り付く。
ふわっとした食感に、程よい甘さの蜂蜜。
「ん〜!美味しい!」
これなら何個でもいける。
あっという間に手の中は空っぽになってしまった。
「ね、美味しいでしょ!メル・パニスのパンは一級品だよ!」
エマが早朝に呼び、全力で走ったのも頷ける。
「これなら5個買っとけばよかったな〜」
「ざーんねんっ!」
上限ギリギリまで買ったエマが、にやっとピースサインをしながら立ち上がり、元来た道を覗き込む。
「ほら、見て」
立ち上がってパンの粉を払い、エマの後に続いてみると…
「うわっ!?」
「えぇ…」
道の向こう、と言ってもそんなに離れていない“メル・パニス”には10人以上の行列ができていた。
しかも、着々と増えている。
「裏通りにあるけど、知る人ぞ知る名店なんだよ」
あんなに並びたくないし、売り切れていたかもしれない。
エマ、ありがとう…と心の底から思った。
「さて、朝食(?)も済んだし、どうする?」
「何か買いたいものがある人ー?」
誰も手を挙げない。
エマに至っては、はちみつパンが食べられて満足、といった様子だ。
「リア、なんかない?」
「えっ…うーん…ここは女の子らしく、服でも見ますか?」
服か。
確かに、必要最低限しか持ってないな。
「うん!行こ行こ!」
「でも、場所が…」
エマに連れられて走ってきたから、現在地も不明なんだよね。
「まず大通りに戻ろうか。エマ、わかる?」
「あー、たぶんこっちだよ!うん!」
満面の笑みを浮かべて、エマが指を指すが、流石にそっちではないと思う。
「…来られたのに、わからないの?」
「てへっ…行きはさ、食べたいっていう気持ちで一杯だったし、蜂蜜の甘い香りを辿れば着けるじゃん?」
いや、香りって…店に入るまでは何にもしなかったけどな。
これが執念というやつか?
「つまり、帰り方はわからないんですね?」
「うっ…ま、そゆこと」
はぁ、と3人で盛大なため息。
まさか道がわからなくなるとは…予想してなかったので、特に覚えてなかったんだよね。
言われていれば、道を暗記して来たんだけど。
どうしよう?私が打てる手は、
・こっそり《知識の書》を開き、道を調べる
・ノエルの精霊の力を頼る
・適当に歩き続ける
・誰かに尋ねる
くらいだ。
下2つは最終手段として取っておきたい。
固有魔法である《知識の書》の使用は控えたい。
ノエルは…腰ポーチの中にいたことにすればいいが、精霊(魔獣という設定だが)は目立つ。
「…カミラさんに聞いてこようかなぁ」
「いや、もうすぐ開店時間でしょ?お客さん沢山いるし、忙しいんじゃない?」
「そうだよね…とりあえず、メル・パニスまで戻る?」
その方面から来たことは確かなので、とりあえず行っているか。
「すごい行列だね…」
先程チラ見した時より、更に増えている。
開店時間は7時くらいだろうから、あと20分弱。
並んでいる人同士で話したりしているので、退屈はしなさそう…というか、常連さんで顔見知りなのだろうか。
と、私達が出た裏口から誰かが入ろうとしていた。
泥棒、といった様子ではない。
年下の男の子のようだ…ん?
思わず駆け寄る。あれはもしかして…
「…クルト君?」
「ひゃあっ!?」
後ろから声をかけると、奇声を発して、慌てて口を押さえた。
振り返った姿は、クルトで間違いなかった。
「て、ティアナさん!?何故ここに…?」
「んーなんて言ったらいいのかな…クルト君こそ、どうしたの?」
「僕はお手伝いですよ…と言ってもただの店番ですが」
まさか、知り合いに会えるとは思わなかった。
「そっか。頑張ってね!…ところで、大通りまでの道、わかる?」
笑顔で応援からの迷子申告に、クルトがずこっとこけた。
「いや、迷ったのは私じゃなくてエマなんだけどね…」
「えっ!?あ、あぁ、みなさんお揃いで…!」
後ろに3人いることに気付いてなかったのか、あわあわしながら頭を下げた。
「王都の地図なら大体は頭に入ってるから(現在地が不明だけど)、目印になるような建物か通りを教えてくれたらわかるんだけど…」
裏道を駆使して来たので、推測の仕様もないのだ。
今度、詳細な地図を見て覚えよう、と心に誓いながらクルトに尋ねると、クルトはぽかんとしていた。
「王都の地図が頭に…いえ、すみません。でしたらこの道を真っ直ぐ行って、2つ目の角を左に曲がって、1つ目の角を右に曲がると、大きめの通りに出ますよ。質の良い魔石屋があると評判で、人も多いので」
「なるほどね、ありがとう!あ、引き止めちゃってごめんね」
頑張ってね、と手を振ってその場から離れる。
「道わかったよ!こっち」
「ほんと!?」
「やったぁ!」
「ありがとうございますっ」
クルトの言う通りに歩いてみると、魔石屋のある通りに出た。
この辺りは入学前に来たことがあるので、もう迷うことはないだろう。
「で、服だっけ?こっちにお店があった気がするよ」
「じゃあそこで!」
「お願いします!」
リアが心なしか嬉しそうだ。
そこは女物の服や小物がたくさん取り揃えられている店で、頼めば布からオーダーメードも出来る。
質は良い方でデザインも可愛いが、それでいてお手頃価格という無茶苦茶良い店なのだ。
「うわぁ…っ!」
特にリアが喜んでいる。
私とソフィーは慣れているし、エマも喜んでいるがリアには敵わない。
「じゃあ、しばらく店内で自由にする?」
「はいっ!」
春物のワンピースを買い足したかったし、もうすぐ初夏(暦の違いはあるかもしれないが、感覚的に)なので、涼しい服も欲しい。
「ティア〜!これ、似合うと思うんだけど…」
ソフィーが持ってきたのは、フリルやリボンが付いた可愛いワンピースだった。
「じゃあ、ソフィーはこっちかなぁ?」
私が差し出したのはチェックの柄のスカートにベルトで上には飾りボタンが付いている、ぱっと見ワンピースには見えないワンピースだ。
「正直、私達ってどっちでもいけると思うんだけどね」
「まーね。でも、ティアって何か可愛い系じゃない?」
「そう?」
顔の作りはほぼ同じ。
髪色、瞳の色だって、よーく見比べなければわからない程の差。
身長も同じくらいで、性格も似ている。
明らかに違うと言えるのは、髪の長さだけだ。
「イメージってやつかな?だってティア、私より落ち着いてるし?」
「それはそうだね」
前言撤回。
性格も似ているが、私は朝寝ぼけたりしないし、宿を燃やしかけたりもしない。
買うと決めた服は、全部で6着だった。
まとめ買いにしては多いのか少ないのか…
普段着だけでなく部屋着も含まれてるし、無駄ではない。うん。
「お会計お願いします。あっ、そこのリボンと飾り紐も追加で」
カウンターの横に置いてあった箱に、色取り取りのリボンと紐が並べられていて、綺麗だったのでつい買ってしまった。
「はいよ。全部で2,500メルクね」
銀貨2枚と小銀貨5枚。
これは結構高い方なのでは?と思ったが、可愛かったので、買わないという選択肢はない。
他のみんなが何を買ったのかは知らないが、笑顔だったので良い買い物が出来たのだろう。
「さーて、次はどこ行く?」
「あそこで屋台出てるよ!行ってみよ!」
ソフィー…さっきパン食べなかった?
行ってみるとかなりの賑わいで、軽いお祭り状態だった。
「うちの焼き鳥美味しいよー!」
「ここの串焼きは最高だよー!食べなきゃ損だよー!」
客取り合戦が盛大に繰り広げられている。
「あの、焼き鳥と串焼きって何が違うんですか?」
「焼いてるものが鶏肉かどうかじゃない?」
串刺しにして焼く料理だけでもこの数の屋台が競っているのだ。
どこが美味しいかなんてわからない。
よし、ここは…
「エマ、どこが美味しいと思う?」
勘が鋭そうなエマに丸投げしよう。
「えっ?うーん…香ばしいタレの匂いがするのはあそこの店だけど、塩焼きにしてる店もあるしなぁ…個人的に野菜があまり好きじゃないし、それを踏まえるとあの右側のお店かなって」
何故この距離でそれがわかるんだ?
「わかった。買いに行ってくるけど、食べたい人?」
「「「はい!」」」
全員かい!
ちょっと待っててね、と言い残してエマおすすめの屋台に行く。
焼いているのは職人っぽいおじさんだった。
「すみませーん!4…いや、10本ください!」
「10!?わかった、ちょっと待ってな」
くるくると串を回し、こんがり焼くと、秘伝(?)のタレにつけ、また焼きー
「30メルクだ。お嬢ちゃん、1人で食うのか?」
「えー、まさか!友達みんなでわけるんですよ!はい、お金です」
銅貨3枚を取り出して渡す。
「そうか。じゃ、この辺のもやろう」
そういって、鉄板(網?)の上に並べられていた串肉を5本程、追加してくれた。
「えっ?でも…」
「いや、ちょっと冷めかけててよ。すぐにでも売らなきゃいけないやつだから、ちょうどいいんだよ。食べきれないなら捨てるだけなんだが…」
「いえ、こんなに美味しそうなので、食べきれないということはないと思いますが…本当にいいんですか?」
渡された15本の串肉。
それらに差はなく、冷めかけていたというのは嘘だとわかる。
「いいって。ほら、冷める前に食えよ」
「はーい!ありがとうございます!」
最初の10本は、私達4人が2本ずつ、収納魔法に入れて、ノエルとネージュに帰ってからあげる用に2本、のつもりだった。
15本になったので、増えた5本は…私達が1本ずつ、残り1本はノエルとネージュで半分でいっか、と考えながらみんなの所に戻る。
「お待たせー!はい、串肉だよ!」
「ありがとーって、どんだけ買ったの!?」
「いや、ちょっとサービスしてもらっちゃって…」
1人3本ずつ配る。
「「「「いただきまーす!」」」」
…うん、エマ正解。




