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夕食会(前編)

あのおばさんこと継母を、私達がここまで毛嫌いしているのにはきちんとわけがある。


私達が6歳の時に母は亡くなった。

子供心にそのことを受け入れようとしていた矢先に父が継母を「新しいお母様だよ」と言って連れて来た。

ゲラルドとゲレオンも一緒に。


わけがわからなかった。

母が死んで悲しんでいる時に、子持ちの女性を連れて来る父…ゲラルドはその時5歳で、母が存命中に生まれている。

葬儀もそこそこにその女性にかまけ、ゲラルドとゲレオンを可愛がり、私達はほぼ放置されていた。

それでも、それはまだ我慢出来た。

父には心底失望したが。


問題は、新しい「お母様」。

我が子であるゲラルドとゲレオンを可愛がるのはよくわかる。

だが、父と結婚すらしていないのに、フリートベルク家の夫人を名乗り、私達を前妻の子として廃嫡しようとしたのだ。

もちろん、理由も無く廃嫡など司法局が許すはずがないので、出来るわけないが。

それからというもの、夫人のような振る舞いで私達に付けられていた家庭教師をクビにしたり、ゲラルド達に回したりして、教育を放棄した(表向きは、もう必要ないからだそうだ)。

使用人達も外そうとしたがそれは体面的な問題で父が反対し、フィーネを始めとした数人に減らされるだけで終わった。


これも別に平気だった。

覚えていなくても日本人としての感覚が残っていたのか、誰かにお世話されなくても支度くらい出来たし、勉強もあらかた終わっていたから。


ただその後…私達が平気そうなのが気に触ったのか、食事に毒を盛り始めたのだ。


父は、あんなんでも一応領主なのだ。

そのため、「社交」で毎日忙しいらしく、食事は私達と継母、ゲラルドとゲレオンで取るのが普通だった。


最初のうちは気が付かなかった。

食後に体調を崩すようになったのは、新しい生活に慣れようとしている疲れが溜まっているのだろうと思っていた。

微量とはいえ、毎回摂取していた毒は身体を蝕んでいく。

明らかにおかしいと思うようになり、調べてみたことで判明したのだ。

もちろん、毒見はされていた。

だが、微量では大人にそこまでの効果は現れない。

カトラリーに塗られているケースもあり、毒見はほとんど意味をなしていなかった。


おそらく、体調不良を病弱ということにして跡継ぎから下ろしたかったのだろう。

殺すつもりがあったのかはわからない。


継母がやったという証拠がないわけではない。

だが、言ったところで無駄。

そう悟った私達は、解毒薬を手に入れようとした。


屋敷の中は監視されている。

こっそりと市場に行って買ったり、作ったり、貰ったり…。

食事でも気を使った。

怪しいなと感じたら、「あら?埃が入っていますわ」とか「きゃあ!む、虫が浮かんで…!」とか言って取り替えてもらった。

その度に継母が悔しそうな顔をするのは見ていて楽しかった。


他にも、家のお金の浪費癖とか、母の悪口を言うとか、いろいろあるが…まぁ、そんな感じだ。


「そういえば、明日司法局に行くとか言ってなかった?結婚手続きをするって…」


再婚していい期間というものがある。

妻が死んだから次と結婚、ということが出来ないように、最低でも何年かは空けなければならない。

それらの手続きを行なっているのが司法局なのだが…


「ん?私達が倒れたのが3日前なんだよね?てことは…」


私達が倒れたからといって、延期にするような人達ではない。

ということは、手続きは既に済んでいる…?


「せ、正式に夫婦になっちゃう!?」


「落ち着いて!まだ結婚式は挙げてないから…いや、それでも婚姻届を出したら夫婦か…」


あのおばさんが…フリートベルク夫人…

いや、私達の姓はディオワリスだから関係ないのだが。


「やだー!なんかやだ!よしわかった、今すぐこの家出よう!」


気持ちはすごくよくわかる。


コンコン


ドアがノックされた。


「ティアナ様、ソフィア様、随分長く話されていますがお加減は大丈夫でしょうか?それと、夫人の使いが来まして…今日の夕食会はこの家に住む者全員が出席するようにと…」


「早速だね」


「うん…これ、チャンスかも」


小さいとはいえ、領地を出るには許可がいる。

商人や冒険者だったら簡単だが、私達は領主の娘なのだ。

きちんと領主の許可を取る必要があるが、それは簡単に出るものではない。

了承の返事をしたかったが、淑女たる者、声を張り上げるのはあまりよろしくない。

立ち上がってドアを開けるとフィーネが立っていた。


「フィーネ、教えてくれてありがとう。夕食会は何時からになっている?」


「6時からです。食後に大事なお話があるそうで、いつもより早めになっております。」


「わかったわ。準備が必要よね?時間になったら呼んでちょうだい」


「かしこまりました」


静かにドアを閉める。


「ソフィー、聞いた?」


「どうせ、あのおばさんの結婚祝いとか、次期領主の決定とか、私達の廃嫡計画とか、そんなとこじゃないの?」


激しく同意する。


「大体のパターンは予想出来るからさ…最後に一泡吹かせたいんでしょ?」


「うん!ついでに、許可も取っちゃお!」


作戦会議の、始まり。


ついでに、固有魔法《魔法秩序創造》や《知識の書》を試したのだが…とにかくすごかった。



そして迎えた夕食会。


「フリートベルク家当主ヴォルラム・フリートベルク様、並びにアンゲラ・フリートベルク夫人のお越しです」


夕食会のメンバーは父、継母、私達、ゲラルド、ゲレオン、そしてフリートベルク家に仕えている執事やフィーネなど、それぞれのお世話係の代表だ(横に控えているだけで、食事を共にはしないが)。

…あのおばさんの姓がフリートベルクになっているということは、本当に結婚したんだ…。


「あー、今日は皆に重要な話がある。だが、まずは食べよう」


父の宣言と共に食事が運ばれてきた。


こっそりと、片目を瞑る。

《魔法秩序創造》で創った魔法、その名も《鑑定》だ。

発動条件は片目を瞑って鑑定したいものを見ること。

魔法効果は毒物などが混入されていたらわかるようになる、だ。


そうして運ばれてきたスープに目をやったが…何も変化がなかった。

おかしいな。


カチャカチャとカトラリーを動かす音が響く。


「ねぇ、ティアナ」


唐突に継母が話しかけてきた。


「はい、何でしょう?」


「貴女、将来は何になるつもりなの?」


うわ…

これまた難しい質問が来たな…

長女で能力も申し分ないため、通常なら領主だろう。

だが…


「将来、ですか?まだ特に決まってはおりませんが…どうしてです?」


質問には質問で返す。

領主にはなりたくないし、こんな状況ではなれないだろう。


「そう。もう貴女達は10歳なのだから、決まっていないといけないわ。そうだ!どこか良い仕事を紹介しましょう。ね、あなた?」


学校ではなく、仕事か。

家は別に貧乏ではないが、浪費癖のある継母にはお金がいくらあっても足りないだろう。


「そうだな。2人は魔力もあるし、2属性だ。良い条件で働けるだろう」


あー、そうですか。


「ゲラルドとゲレオンは…どうだ、勉強は順調か?」


「はい、父上。今日は各属性の特徴を覚えたのですよ!」


…それ、常識だから。


「文字を書けるようになりました!」


…文字書けない7歳って、結構やばいと思う。


低レベル過ぎだ。

文字や属性など、私達は4、5歳の時に覚え終わっていたというのに。

こんなのが次期領主とは…先が思いやられる。


「そうだ、もし働きたくないって我儘言うのなら、結婚でも良いわ!お隣の領主様の息子さんとかどう?確か、今年で…」


「21歳になるかな。領主が、行き遅れにならないかと不安がっていた」


「あら、ちょうどいいじゃない」


…あのー、私達10歳ですが?

どこがどうちょうどいいのか教えて欲しい。


「あの女の子供だもの、政略結婚くらいしてもらわないと。ねぇ?」


「そうだぞ、ティアナ!ソフィア!お前達ばかり遊んで!ずるいではないか!」


なんかゲラルドまで乗っかってきた。


「せーしきな跡取りでないのだから、役に立ってください!」


ついでにゲレオンも。


面倒くさいから、放っておこう。


次に運ばれてきた料理にも、毒は入っていなかった。


その次も、そのまた次も、同様だ。


おかしい。絶対におかしい。



「皆食べ終わったな?話をするので、紅茶でも飲もうか」


ティーカップと角砂糖、ミルクが入った瓶がそれぞれに置かれる。

紅茶がゆっくりと注がれるが、それに毒は入っていなかった。

いつも通り砂糖を入れようとして…白い砂糖の周りに黒い靄が纏わり付いて見えた。


毒だ。


砂糖と見た目の似ている白い粉末状の毒を混ぜて角砂糖にしたのだろうか。

何気無い動作でミルクを手にする。

ちらりとソフィーを見ると、砂糖を入れていた(ソフィーはミルク派だ)。

継母はこちらを見て驚いたような表情をしていた。

2人が普段と逆の行動を取ったのだから、驚くのも無理はない。

感情を表に出すなど、領主夫人としては失格だが。


ティーカップを静かに置き、父が口を開いた。


「今日、次期領主を決定しようと思う」


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