ダンジョン
「ティアナさん、少しよろしいですか?」
次の日の午前授業。
先生がいつもより早く来て、リアと喋っていた私を手招きした。
「今日の授業ですが、基本魔法が実践で使えない人が多かったので、昨日と同じことをやるつもりなのです。ティアナさんは退屈だと思うので、最初に見本を見せていただいたら、合格にするので自由にしていてください」
復習の日だけでは間に合わなさそうな人が多かったしね…
でも、授業中に自由というのはどうなんだろう?
迷っていると、先生が声を潜めて、
「校長から報告を受けています。週末まで3日はあります。早く、行きたいでしよう?」
それってつまり…
「武術科も同じ対応をするそうなので、ソフィアさんも自由時間になると思いますよ」
「…ありがとうございます」
それなら、行くしかないよね?
やったぁ!
「全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ 我に力を与え給えーアイス!」
言われた通り、授業の最初に呼ばれて前に出た。
昨日と同じように、だが、昨日よりも魔力を注いで、先生の風魔法に対抗する。
そのため今回は私の魔法が勝ち、先生は氷で覆われるはずだったが、《風結界》を発動して防ぎきった。
「はい、ティアナさん合格です。☆を付けた後は自由にして良いですよ」
あっさりそう言われたので、リアに手を振ってその場を後にした。
向かうのは、寮の自室。
案の定、ソフィーもいた。
「ティア!すごいよね?すごいよね!?昨日の今日だよ!」
うん、落ち着け?
「ノエル、聞いてたかもだけど、これからダンジョンに行くから。着いたら出してあげるね」
指輪に向かって声をかけると、荷物を用意した。
いつも使っている腰ポーチに追加で、収納魔法から回復薬や魔水晶を取り出して入れる。
大体のものは収納魔法に入ってるし…収納魔法って便利!
「ソフィー、出来た?」
「うん、大丈夫だよ。ところで、どのダンジョンに行く?」
王から渡された一覧は、難易度順に書かれていた。
「全部攻略済みなんでしょ?じゃあ…」
危険はないだろうし、わかった上で許可を出したはずだろう。
「この中での最高難易度、行っちゃう?」
「えっ!?最初から?」
ソフィーがにっこりしながらそう提案してきた。
確かに、難易度が高い方が、魔石や素材なども質の良いものが出やすいが…。
「行ける行ける!さ、レッツゴー!」
ダンジョンはとても広く、外とは隔絶された空間だ。
下の層に行く程、強い魔物が出るようになり、当然、素材の質も上がる。
だが、ダンジョン内で死亡したら外で生き返る!という便利な場所ではないので、警戒は必要だし、無理は絶対に禁物だ。
「名前…ティアナ・ディオワリス、ソフィア・ディオワリス。日にち…えーっと…」
ダンジョンの入り口の前で、書かなければいけない届けと格闘中。
意気込んでいたのに、出鼻を挫かれた気分だ。
「目的…えぇ?行きたいから、じゃダメか…よし、探索と魔法の練習。だーっ!面倒くさい!帰る時間?そんなの、終わったら帰るよ!…昼前でいいや」
「書けたー?」
「うん、もうちょい…よし、終わり!」
項目が多い!
書かなきゃいけないのはわかるけど、面倒くさいな…
やっとのことで書き上げた届けを提出して、入り口に向き直る。
「行くよ?」
「いつでも!」
証明書をかざす。
微かな光とともに、入り口が開いていくー
「うわぁ…」
「これが第1層か…」
現れたのは、いくつも連なった岩山だった。
「どこかに、2層につながる階段か魔法陣があるんだよね?」
「うん。さーて、魔物は出てこないかな〜?あ、ネージュ!」
「そうだ、ノエル!」
呼ぶと、2匹の子猫が姿を現わす。
『へー、ここがダンジョンか〜』
『すごい広いけど…大丈夫なの?』
まぁ、まともに探索してたら日が暮れるね。
「こういうのってさ、変な所に隠されてたりするものなのかな?」
「んー…それでも、とりあえず行くとしたら山頂じゃない?何かあると思う」
私達がいるのは、この中で1番高い山の麓だ。
「登るか!」
「オーケー!《身体強化》」
魔力で身体能力を強化する《身体強化》。
これを使えばだいぶ速く進めるだろう。
「ノエル、掴まって?」
『じゃあ、お言葉に甘えて』
ノエルが肩の上に乗る。
重さは全くと言っていい程感じない。
「とりあえず、走ろう!魔物が出たら、一回ストップして」
「りょーかい!」
足に力を込めて、強く地面を蹴る。
周囲の景色が恐ろしい速さで後ろに流れていった。
しばらく走り、山の中腹に差し掛かる。
ここまで、魔物には遭遇していない(実はいたのだが、あまりの速さに魔物の方が追いつけなかっただけである)。
「っ!ソフィー!」
きゅっ、とブレーキをかける。
今、視界の端で何かが動いたー
「ティア…?あっ」
山頂に近付くにつれて、赤みを帯びてきた岩。
地面に様々な大きさのものが転がっている。
今止まった場所の、左前の大岩から、1つの影が飛び出してきた。
「ーアイス!」
念のため行っていた詠唱が終わり、その影に氷の礫が直撃する。
「ぎゃっ!」
サルだ。
いや、正確にはサル型の魔物だ。
衝撃で吹き飛んだ魔物に、ソフィーが剣で追い討ちをかける。
あっという間に魔物は魔石に変わった。
「1匹目。お、次が来た」
拾い上げる。
品質はそこそこといった所だ。
この1匹を皮切りに、次から次へと魔物が湧いてくる。
「よし、強行突破しよう!」
「了解!」
『落ちた魔石はボク達が拾うから安心して』
ありがたい!
拾ってくれるとだいぶ楽だ。
「まず範囲型いくよ!全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ 我に力を与え給えー《氷槍乱散舞》」
先端が槍のように尖った大量の雹が、一帯に降り注ぐ。
範囲内にいた100匹程の魔物が、弱るか、息絶えた。
『ネージュも手伝うよっ!』
ソフィーの肩の上から、ネージュが手(前足)を残った魔物達に向ける。
目の前に迫った魔物は、即座にソフィーが斬り捨てた。
こうして、数え切れない程いたサル型の魔物達は、私達に擦り傷を負わせることも出来ないまま、魔石へと成り果てていった。
「…で、もうすぐで山頂だけど?」
「ここに来て魔物減ったね…しかも、何か暑くない?」
大勢の魔物に取り囲まれていたことを踏まえても、明らかに減った気がする。
気温が上がっているのも、気のせいではないはずだ。
『ねぇ、集まった魔石の数知りたい?』
「…いや、後ででいいよ」
何百個もあるんだろうな…
そして、それから1度も魔物と戦わないまま、山頂へ到着した。
「うわ…そりゃ暑いわけだよ…」
火口を覗き込むと、ぐつぐつと煮立っていた。
この山は火山(という設定で造られた山)だったのだ。
「どう思う?飛び込んだら大変なことになりそうだけど…」
「でも、何かあると思う」
山頂まで来て、火山ですね、では終わらないだろう。
「じゃあ、飛び込む?」
「いいよ。念のため、結界張っとこ!で、ノエルとネージュは依り代の中に…」
『大丈夫!ボク達は大精霊だから!』
『マグマなんて平気だよ』
そういえばそうだった。
それでも一応、結界で囲んでおく。
ソフィーとも二重三重に魔法を掛け合い、いざ!とー
赤く輝くマグマの中へ飛び込んだ。




