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急な呼び出し

昼食をとり、ソフィーと交代するように剣術科の授業に向かう。


「今日はすぐ終わるから、アドバイス頑張ってね」


「えっ、そっちも!?」


剣術科も、昨日と同じ場所らしい。


「今日は先生と打ち合って、一本取るか、認められるだけの技量を見せれば合格だって。でも、ソフィーとティアは…」


エマが授業内容を教えてくれたが、それなら今日はアドバイスデーだな、と思ってしまった。


「この前も先生と試合しなかったっけ?」


「…それは私も思った。なんかね、今週は実技だから基礎を磨きましょう、だって。それと、全員の実力を把握しておきたいらしいよ」


生徒達が集まって、先生もすぐに来た。


「では、午後の授業を始める…ん?1人少なくないか?」


え、嘘、という声があちらこちらから聞こえた。

私は剣術科の生徒はエマくらいしか知らないので全くわからないが…


「え?いない人なんている…?」


エマもわかっていないようだ。

先生の数え間違い、というわけではないだろう。

数えたなら、時間が短すぎる。

この場にいる全員を眼で見たから、断言したのだ。


「誰もわからないのか?じゃあ名簿を…」


見て1人ずつ呼んでいく、という先生の台詞は、たったったっ、という足音で消えた。


「し、失礼しますっ!」


余程走ったのだろう、息を切らし、ふらふらしながらも一礼して入って来た。

全員が注目する中、現れたのは男の子だった。

背が低く、小柄で、ぱっと見では剣術科の生徒だとは思わないだろう。


「遅い。3分の遅刻だ」


「すみませんっ」


必死そうなので、何かわけがあったのかもしれないが、遅刻は遅刻だ。


「罰として、素振り300回だ…と言いたい所だが、それでは体力が持たないだろう。誰か一緒にやる奴を呼べ。そうしたら、300をその人数で割ってやる」


厳しい声で言われ、縮こまって周りを見渡したが、巻き添えはごめんだ、というように全員目をそらした。


「ぼ、僕1人で…」


悪いのは自分だという自覚があるからか、肩を落としつつも1人でやると言いかけた。


「私、一緒にやります」


知らない子だが、そんな寂しいことはさせない。

どうせ私は暇なんだし、たかが数百回くらいやったって構わない。

だが男の子は、一切交流のなかった私が手を挙げたことに驚きを隠せないでいた。


「…ぇ?いや、その…」


「構いませんよね?先生」


先生も驚きは同じ…いや、クラス全員が私の発言に驚いているようだ。


「いや、300だぞ、300」


「2人で割っても150!?」


「きつすぎだろ…」


「俺、絶対無理だ…」


150回は少ない部類では?

横のエマも驚いてはいたが、同時にやっぱり、という顔もしていた。

そして、


「先生、私も…」


と手を挙げた。

断る理由もない先生は頷きかけたがー


「エマ、大丈夫だから授業を受けて」


私がこっそり囁いた。


「えっ、でも…」


そうしたら100回ではなく、150回になってしまう、言いたいのだろうか。

どちらにせよ、大した違いではないと思うのだが…


「先生、私がエマの申し出た分も余分にやることは可能ですか?」


「…?どういうことだ?」


「私が300のうちの200回をやる、ということです」


100で済むはずが150になってしまったら、私はともかく、男の子が可哀想だろう。

だがこうすれば結果は変わらない。

なんなら250回やっても、299回やっても構わないのだが…それでは罰にならなさそうだし。


「当人より、多くやると?ははっ、ディオワリスは本当に面白いな。構わないが、そうまで言った以上、途中で止めるなよ?ギブアップしたら、今日は合格をやらんぞ」


「わかりました」


200回でギブアップって…もしかして、素振りで使う剣は無茶苦茶重く作られているのか?

負荷を掛けるために敢えてやったことはあるが、あれで200回は少しきついかもしれない。


「練習用の木剣を使って、隅っこの方でやってろ。終わったら、授業に参加して良い」


「「はい」」


…置いてある木剣を手に取ったが、普通の重さだった。


申し訳なさそうに俯いている男の子と、言われた通り隅っこに向かう。


「あ、あの…!」


その途中で決意が固まったのか、震える声を掛けてきた。


「すみません、その…」


真っ直ぐな目が、私を見つめている。

回数が減ってラッキー、という気持ちは皆無なようだ。


「謝らなくていいよ。200回なんて、いつもやってることだし…あ、私はティアナ・ディオワリス。よろしくね」


年下っぽい雰囲気(実際にはわからないが)だったので、ついタメ口で話してしまった。


「はい!僕は、クルトって言います。ティアナさんは、ソフィアさんのお姉さまですよね…?」


…ソフィーのことは知っているんだ。

クラスメイトだし、当然と言えば当然か。


「そうだよ、ソフィーは私の妹。…みんなに言ってるんだけど、敬語の必要はないと思うんだよね。同級生なんだし」


当たり前のことを言ったと思った。

だが、その言葉を聞いたクルトは信じられないというように目を見開いた。


「いやいや…それは無理ですよ。頼まれてもいないのに、特待生の方にタメ口なんて」


「え?なんで?」


特待生だから偉い、という制度ではなかったはず…


「特待生になれるのは、数十年に1人いるかどうかなんですよ?魔術科・剣術科のどちらに行っても構わないだけの実力と、知識、魔力を兼ね備えているので、将来は約束されているようなものです。いずれ重役に就くかもしれない方に、失礼なことなんて出来ませんよ」


あぁ、そういうことか。


「もちろん、理由はそれだけではありませんが…」


クルトが何かを言いかけたがー


「おい!早く始めろよー!」


先生が怒鳴ってきたので、顔を見合わせて互いに少し距離を取った。

壁に沿うように2人で並び、剣を構える。


「1、2、3、4…」


1度振り出すと、後はもう止まらない。


身体に染み付いた動作を、1点のぶれもなく行っていく。


「189、190、191…」


素振りと言っても、真剣にやれば汗をかくし、疲れもする。

だが、200回なら…


「…198、199、200!」


疲れはほとんどない。

ずっと集中していたので、周りがどうなっているのかがわからず、周囲を見渡す。


「49、50…はぁっ、51…52…」


隣のクルトはまだ50回目のようで、手を止めた私に驚愕の目を向ける。

私が終わったことに気付いていないのか、先生がこちらを見る気配はない。

まぁ、終わったし…と思い、クルトに「先に行くね」と声をかけて先生の所へ向かう。


先生は生徒の1人にアドバイスをしていた。

会話が途切れるタイミングを見計らう。


「先生、終わりました」


声をかけられた先生は、何を言われたのかわからないという表情をし、壁に目をやって私がいないことを確認し、目の前で立っている私を見て、


「もう終わったのか…?」


と呟いた。

終わったって言ったじゃん!という台詞を飲み込んで、はい、と答える。


「そ、そうか…じゃあ授業を、と言いたいが、正直必要ないもんな…一応試合をした後、他の生徒にアドバイスをしてくれるか?」


「はい」


ずっと振っていた木剣を構え直す。

話していた生徒はそそくさと離れて行き、代わりに先生が正面に立った。


「好きなタイミングで来い」



…昨日と同じで、やはり結果は私の勝利だった。



午後の授業が終わり、食堂に4人で集まる。


「ティア!聞いてください!私、合格したんです!」


顔を合わせて早々に、リアが目を輝かせながら報告してきた。


「へぇ!おめでとう、リア!」


余程嬉しかったのだろう、その頬は赤みを帯びている。


「ソフィー、私も合格したよ!」


エマも、ソフィーに向かって報告している。


「ティアも、もちろん合格したけどね」


「ソフィーも、ですよ」


ソフィーが不合格なわけないので、わかっていた話ではあるが。


「でも、ティアはすごいよ。関係ないのに素振り200回を…」


エマがクルトの件を話していると、パタパタとどこからか羽音が聞こえてきた。

上を見ると、白い小鳥が2羽、こちらに向かって降下していた。

もちろん、食堂は屋内なので、野生の鳥が迷い込んだというわけではない。

あれは《連絡鳥》という手紙を鳥の姿へ変え、宛先まで飛ばす魔法で作られた鳥だ。

案の定、2羽は競うようにテーブルに降り立ち、私とソフィーの前で封筒に姿を変えた。

いや、変えたというより戻ったというべきか。


「あれ?ティアとソフィー宛ですか?」


「うん、みたいだね」


真っ白な封筒には、「ティアナ・ディオワリス殿」と書いてあるが、差出人は書かれていない。

封蝋は砕けておらず、捺されている紋章は…エーデルシュタイン学園のものだ。

つまり、この手紙は学校から送られて来たということになる。


「差出人不明…?」


ソフィー宛のを横から覗き込んでいたエマが呟く。

遠目のため、学校の紋章には気付いていないようだ。


「あー、リア?」


「はい?」


嫌な予感がするのは、気のせいだろうか?


「教えるっていう話、明日の夜からでもいいかな?」


とりあえず、予定を空けておこう。

エマはリアの魔眼のことは知らないので、「何を」教えるかは明言しない。

きっと、シュラーギか、魔法だと思ってくれるだろう。


「大丈夫です!」


リアが特に文句を言わず、頷く。

ちら、とソフィーに目をやると、面倒くさそうな顔をしていた。



寮の自室に戻る。

夕食を終えたので、本来ならお風呂に入って寝るだけだったのだが。


「で、手紙だけど…」


『学校から?先生が渡したんじゃなくて、わざわざ送ってきたの?』


ネージュが不思議そうに首を傾げる。


「怪しいものではなさそうだし、開けてみるね」


念の為、《鑑定》してみたが、特に問題はなさそうだった。


「普通の手紙っぽい?えっと…『ティアナ・ディオワリス殿 本日の夜、校長室まで秘密裏に来るように。ソフィア・ディオワリスとの協力は認める。なお、ここで言う校長室とは、前に呼んだ部屋ではない』…唐突なお呼び出しだね」


「私のも全く同じ内容。本日の夜って、今じゃん!」


しかも、前とは違う校長室、か。


「校長室って2つあるのかな?」


「前とは違うってことは…」


証明書を取り出し、裏を見る。

そこには学校全体の校内図が書かれているが…


「やっぱり。これに書いてある校長室は前呼ばれた所」


「書かれていない秘密の部屋ってこと?うわぁ、楽しそう♪」


確かに楽しそうだが、今は楽しんでいる場合ではない。


「ソフィーとの協力は認める…ノエルの力は借りちゃダメか…」


『えー?どうせバレないと思うよ?ボクの存在はペットってことになってるんだし』


「まぁね…でも、せっかくの機会だし、私達だけでは不可能ってわけじゃないから」


大精霊であるノエルにばかり頼るわけにはいかない。


「ソフィー。唯一の手掛かりは、この手紙だよね」


「うん。《連絡鳥》で送られてきたから…ティア、手伝おうか?」


「大丈夫。見てて」


この手紙はおそらく、校長室から飛ばしているはずだ。

魔法で送ることによって与えられるヒントのつもりだったのだろう。


目を閉じて、魔力を込める。

見えないものが、視えるように。

現在ではなく、過去へと意識を飛ばす。


ー眼を開く。


魔力を過剰に込めたことで、私の眼は淡い光を伴っているだろう。

そして、その眼には輝く2本の線が、見えている。


「見えたよ、付いてきて」


「流石!やっぱ眼は、ティアの方がいいよね。ネージュ、戻ってくれる?外に出るから」


『はーい』


『じゃ、ボクも戻ろうかな。ティア、頑張ってね』


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