授業の続きと試合
「うりゃぁぁっ!」
取り巻き①がフェアケアを叩き付けるように打ち返してくるが、魔法発動が間に合わなかったのか、別段変わった所はない。
だが、フェアケアが向かう先にいるのはリアだ。
「す、全てを創りし創造神の眷属たりゅっ」
詠唱を変えることを進言したのだが、慣れていないのと、スピードが速いのとで、噛んでしまった。
ちなみに、これで4回目だ。
「…我に力を与え給えーアイス!」
念の為私も詠唱していたので、なんとか間に合い、滑り込むようにしてフェアケアを拾った。
「…っ!ティア」
「大丈夫。次来るよ」
今度はアンゼルムが炎の詠唱をしながらフェアケアを打った。
パーン、と高く上がったフェアケアを光の詠唱と共に打ち返す。
これまで氷しか使ってなかったので、予測していなかったのだろう。
目の前でフェアケアから放たれた光に、反射的に目をつぶってしまい、フェアケアを取り落としてしまった。
「ポイント15」
これで15−1。
あと少しだ。
「はぁっ、はぁ…」
「ポイント21。21−2でティアナさんペアの勝利です」
最後は、リアの土属性に私の光・氷というパターンが多くなっていった。
「お疲れ、リア」
「はい!お疲れ様です!」
で、相手はと言うと…見事にぶっ倒れている。
「全く…仕方ないなぁ…」
放って置けない。
試合前にしたのと同様に相手コートまで行き、魔水晶を取り出した。
それを、アンゼルムに押し当てようとしたが…
「…いや、いい」
首を振って拒否された。
「そう?じゃあ、これ飲む?」
代わりに差し出したのは、小瓶に入った回復薬だ。
ちなみに回復薬には、低位回復薬、中位回復薬、高位回復薬、完全回復薬、の種類があり、今回渡したのは高位回復薬だ。
だが、他人が作ったものは飲まないだろう…
「…あぁ、もらうぜ」
え?
ひょいっと私の手から小瓶を抜き取り、蓋を開けて中身を口に流し込んだ。
毒が盛られていてもおかしくないのに…。
「へぇ、思ってたより苦くないな」
口を手で拭いながら、そんなことまで言った。
「当然でしょ。苦いのは嫌いだもん」
一般的には、回復力が高いもの程苦くなる。
だが、苦いのが嫌いな私とソフィーは、苦労してレシピを改良したのだ。
あの、試験が終わってから結果発表までの暇な時期にいろいろ試してみた。
「あとの2人も…」
小瓶を取り出して2人に渡す。
魔力の減り具合的にも、中位回復薬で十分だろう。
「あ、ありがとうございます」
「すみません…」
素直に頭を下げられた。
そして、疑う素ぶりを見せず、蓋を開けて普通に飲んだ。
それを確認して、リアとコートを出る。
「あ、ティアナさん」
先生に呼び止められた。
「ティアナさんの試合結果では、あと1試合で☆を取れるのですが…」
えぇ!?
☆取るの簡単過ぎない?
「じゃあお願いします…あ、でも…」
コートの周りで観戦していた他の生徒達が暇だろう。
先生に目で訴えると、
「皆さんは練習していてください。あ、私はティアナさんと試合をするので、もし他ペアと試合をしたい人はサーブより前に言いに来てください…リアさんは審判をお願いします」
え、先生が相手なの?
確かに、公平だろうが…。
コートに入る。
コイントスの結果、最初のサーブは先生だ。
他の生徒達はと言うと、誰1人として散らばらず、周りに立って観戦している。
「えっと、ティア…ナさんとト、トスパン先生による試合を始めます!」
リアが緊張気味の声でそう宣言し、試合が始まった。
パン、と先生がフェアケアを打つ。
「全ての創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ」
落下地点まで動きながら、早口で詠唱する。
「我に力を与え給えーアイス」
攻防は、しばらく続いた。
先生が使う属性は風なので、飛んで来たフェアケアは不規則な動きをする。
リアには申し訳ないが、比べ物にならない。
対する私も氷を中心に、ここぞと言う所で光を使って決めていく。
「ポイント12。12−5でティア…ナさんの優勢です」
…リア、頑張って本名で呼ぼうね。
「ーアイス!」
早口詠唱にだいぶ慣れてきた。
「ヴィント!」
コートの奥に飛んで行くはずのフェアケアは、真ん中辺りでほぼ直角に急降下した。
無理矢理体を捻って打ち返す。
ネットギリギリに落ちたフェアケアが、一瞬光を放つ。
「っ…!」
伸ばしたラケットの数㎜先を、フェアケアが通過した。
「ポイント21!21−15でティアナさんの勝利です」
わぁっ、と歓声が上がる。
結構ギリギリだったけど、良かった。
「ティアナさん、お疲れ様です」
回復薬を使ったのか、疲れを感じさせない顔で先生が歩いて来る。
「証明書を貸してください」
そうだ、成績はこれに付けるんだった。
半透明のカードを取り出すと、名前、属性の下に「エーデルシュタイン学園 特待生 魔術科首席」と書き加えられていた。
そして、その更に下に点滅する文字で「基本魔法 実技 シュラーギ」と書かれている。
一体いつの間に…?
驚きながら先生に手渡す。
先生は証明書を左手で持ち、右手で魔法陣を描き出した。
「ヘルガ・トスパンの名の下に証明する。ティアナ・ディオワリス、基本魔法 実技 シュラーギ 合格」
その文言に呼応するかのように魔法陣が輝く。
証明書をその魔法陣に通すと、点滅していた文字が☆に書き換えられた。
「はい、おめでとうございます。新記録ですね」
「ありがとうございます」
パチパチ、と手を叩く音がした。
振り返ると、コート脇に立っていたリアが満面の笑みを浮かべて拍手をしていた。
パチパチパチ、と力強い音がそれに重なる。
音の主はアンゼルムだった。
続いてその取り巻きが手を叩き、生徒全体に広がっていった。
「ありがとう」
まさかこうなるとは思っていなかった。
おめでとう、すごい、と声を上げる皆に向かって、ぺこりと頭を下げた。
昼の休憩を挟み、もう一度同じ授業が行われる。
午前の内に合格した者は本来なら自由時間になるが、私達は違う。
予想通り午前中に合格したソフィーと、入れ替わるような形で武術科の授業を受けるのだ。
「じゃあ、後でねソフィー!リアをよろしく」
「うん!そっちも、エマをよろしく。だいぶ手強いよ」
「ティア、こっちだよ。今日はペアになって模擬戦するから…本物の剣は使わないけどね」
武術科の方も実技らしい。
「私はソフィーとやったんだけど、本当にすごかった!これでも私、院では敵なしだったのに…」
「院?」
「ぁ…その、私…孤児院出身で…」
人目を憚るように、小声で囁く。
孤児院の出、かぁ。
それでも苗字があるということは、預ける時に伝えたのだろうか?
まぁ、深く追求はしないとこ。
「そう。ソフィーは本当に強いからね〜」
「ティアに言われたくはないよ…」
グラウンドに集まると、一人一人に木製の剣が渡された。
「午前と同じで、誰かに正式な試合を申し込みたい時は2人揃って俺に言いに来る事。勝利条件は、相手が降参した時だ。今回は、魔法や身体強化は禁止とする」
あら…魔法禁止かぁ…
「では、各自始めるように」
「ティア、いきなりだけどやらない?」
どうしようかと思っていると、真っ先にエマから声をかけられた。
「うん、いいよ」
きっとエマは、ソフィーとも試合をしたはずだ。
負けたからリベンジをしたいのかな?
「先生、試合します。エマ・リーチェルと」
「ティアナ・ディオワリスです」
武術科の先生は、3、40代くらいのおじさんだった。
筋骨隆々といった体つきで、騎士っぽい感じだ。
「わかった」
ちらりと私を見て、何かを言いたそうにしたが、特に何も言わなかった。
…大方、ソフィーのことだろうな。
グランドの真ん中で、エマと向き合う。
「あの特待生が試合するって!」
「ソフィアのお姉ちゃんだよね?」
「そうそう、魔術科の首席!」
誰が広めたのか、あっという間に私達は取り囲まれた。
「ごめん、エマ」
「いや…ソフィーとの時もそうだったから…」
やっぱり。
元から先生が審判をするのか、もう授業にならないからか、先生まで近付いて来た。
「準備はいいか?」
標準的な大きさ、長さの木剣を構える。
正面のエマも切っ先を私に向けた。
構えに隙がない。
だいぶ手強いよ、というソフィーの台詞を思い出した。
どくん、どくんという心臓の鼓動を感じる。
たかが授業だというのに、緊張しているのだろうか?
「始め!」




