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入学式

「よし、荷物オーケー、書類オーケー、ノエルオーケー、大丈夫だね?」


「忘れ物はないよ!大丈夫」


ぱちん、とカバンを閉める。

収納魔法にも入るのだが、手ぶらで目立ちたくないので買ったのだ。


「行こうか!」



「これ、よろしくお願いします」


ネームタグを付けたカバンを預けて、講堂に向かう。

今日は新入生だけなので全体で100人くらいだが、熱気がすごい。

憧れの学校に入れたのだから、当たり前かもしれないが。

自由席のようなので、空いている席を探そうとするとー


「ティアナさん、ソフィアさん」


入り口で待っていたのか、この前の女性教師に声をかけられた。


「レーゼル先生、でしたっけ?どうかしましたか?」


「覚えているのですね…改めて、カルラ・レーゼルです。担当は魔術科ですが、下っ端なので助手という形になります」


丁寧な人だな。

こちらも名乗った方がいいのかな?


「あ、知っているので自己紹介は結構ですよ。それで、ティアナさんには魔術科、ソフィアさんには武術科の首席を任せたくて…よろしいですか?」


首席を、わざわざ辞退する人なんているのだろうか?


「もちろんです」


「今日の入学式ではマントの受け取りをお願いしたいのですが…」


ノエルとネージュ、正解だったよ。


「あ、はい。作法とかはありますか?」


「壇上に上がって礼をすれば良いです。その後は、校長がマントを手渡し、先生の誰かがマントを羽織らせます」


へぇ、意外と普通だな。


「礼の仕方は任せます。あ、席は1番前なので。では、よろしくお願いします」


レーゼル先生はそれだけを言うと、そそくさと立ち去ってしまった。


「だって、ソフィー」


「礼かぁ…ちゃんとした方がいいよね」


昨日呼び出された時は、きちんと挨拶すらしていなかったが、あれはタイミングがなかったのでノーカンとしよう。


「で、特待生は最前列に座るんだよね」


「うん。どうする?《知識の書》確認しとく?」


ぶっつけ本番なので、ちょっと自信がない。


「いや…大丈夫じゃないかな?むしろ、自然な方がいいと思う」


それもそうか。

新入生なのだから緊張してて当たり前だし、ぎこちなくても大丈夫だろう。

席に座って後ろを振り返ると、大勢の人が着席したり、席を探したりしていた。


「うわぁ…すごい人…」


「言っても、100人かそこらでしょ?大丈夫だいじょーぶ」


「先生方を合わせると…150人くらいかな。うん、大丈夫だね。そういえばさ、マントって自分の魔力が登録されるんだよね?気を付けないと…」


全属性だとバレてしまう。


「んー、2属性だけ流せばいいんだよね?余裕だよ」


ある属性だけを抽出して流すというのは、一般的には結構難しい技術とされているのだが…


「そうだね〜あ、ノエル達っていつ紹介しよう?」


「寮に入る時に、管理人さんか先生に聞けばいいんじゃない?授業中どうするかは…要相談だね」


うん、と頷いたタイミングで、ギィ、と横の扉が開いた。

舞台の真ん中に校長先生がゆっくりと歩いて来る。

ざわついていた会場がしん、と静まり返る。


「あー、新入生諸君」


低く、安定感のある声で先生が話し出す。


「エーデルシュタイン学園への入学おめでとう。狭き門を通り、ここに入ったからには、学校の名前に相応しい行動を心がけ、その名を汚すことの無いように!」


おぉう、いきなり言ったな…

てか、唐突すぎないか?入学式始まるの。


「学校の長き歴史に名を刻める事を誇りに思い、有意義な時間を過ごす事が出来るよう願っている。以上だ」


…え?

校長先生の話は長い、というお約束を破ったよこの人。

流石に周りも面食らっただろうなと辺りを見回したが、何故か皆決意を新たにしたように目をキラキラさせている。

こっちの世界には定番の「お約束」はないのだろうか?


「続いて、マントの授与を行います」


校長先生はまだ舞台上に残っている。

舞台の端の方に立った先生が、司会進行をするようだ。


「新入生代表 魔術科首席ティアナ・ディオワリス、武術科首席ソフィア・ディオワリス」


あ、呼ばれた。

返事は…しなくていいか。

立ち上がり、舞台に続く階段を上る。


「あれって確か特待生の?」


「姉妹?」


「首席になるんだ…」


「ぶっちぎりだったもんな」


ざわざわと話し声が大きくなる。

そして向けられる、好奇心に満ちた視線や探るような目。

それらを受け止めながら、一段一段を上って行く。

10歳というのは、平均よりだいぶ幼い。

そのため、隙を見せれば舐められてしまう。

だから決して俯かず、胸を張って前を見る。

私達は「特待生」であり「首席」なのだから。

階段を上りきると、すぐ後ろに続いていたソフィーが横に並ぶ。

校長先生の目の前だ。

優雅な所作を心がけて、その場にゆっくりと跪き、頭を垂れる。

ざわついていた会場が、校長先生が登壇した時のようにしん、と静かになった。

舞台袖から女性の先生が2人、歩み寄って来る。

その内の1人はレーゼル先生だ。

彼女達は手にお盆を持っており、それらをそっと校長に渡した。


「ティアナ・ディオワリス。エーデルシュタインに相応しい者となるため、この学校で多くの事を吸収し、学べる事を願っている」


「ありがとうございます」


渡されたマントを受け取るとレーゼル先生が近付き、そっと広げて掛けてくれた。


「ソフィア・ディオワリス。エーデルシュタインに相応しい者となるため、この学校で多くの事を吸収し、学べる事を願っている」


「ありがとうございます」


ソフィーにももう1人の先生が近付き、マントを広げて掛けた。

校長が目線で立ち上がるよう促したので、マントが落ちないようにそっと立ち上がった。

先生がマントの留め具を留めると、魔力が吸われる感じがしたので、光と氷属性だけの魔力を流す。

黒のマントが一瞬、金と水色の光を帯びた。

成功だ。


「以上でマントの授与を終わりま…」


司会進行役の言葉を途中で途切らせるように、バァァン!と大きな音が入り口から響いた。


「…え?」


厳かな式の最中の、あまりにも唐突な出来事に、恐怖よりも疑問の方が先立った。


扉を破壊して雪崩れ込んで来たのは真っ黒な服を着て、顔まで覆った十数人の黒装束だ。

全員、手に武器を持っている。


「誰だ?」


舞台上から校長が尋ねたが、それには答えず、一斉に何かを投げた。


妖しい赤に輝く結晶がー


「ーーっ!」


緩やかな放物線を描いて講堂中に散らばり、落下途中で強く光ってー


連続的に爆発した。


「うわぁっ!」「きゃぁっ!」


真上で爆発音がした生徒達が反射的に頭を庇う。

…が、音がしただけで、何も起きていない。


恐る恐る顔を上げると、空中の赤い結晶ー《爆発》の魔水晶全てが、薄緑の球に覆われていた。


校長の結界魔法だ。


流石校長。

無詠唱でこのスピードとは…

と、素直に感心している場合ではなかった。


黒装束の1人が入り口付近に座っていた少女にナイフを突きつけた。


「ひっ」


「立て」


鋭い声で命令されて、少女が震えながら立ち上がる。


「全員、武器を捨てて両手を挙げろ」


その声に、帯剣していた者が剣を床に置く。

私達のは収納魔法に入っているのでバレないだろう。

すると、真っ黒集団の奥の方にいた1人の男性が前へ進み出た。

そいつは顔を隠していない。

黒装束達が道を譲っているあたり、あいつがリーダーなのだろう。


「誰だ」


校長が、本日2度目となる問いかけを放ったが、リーダーの顔を見た途端、目を見開いた。


「其方…」


「お久しぶりです、校長。早速ですが、こちらをどうぞ」


あくまで丁寧な口調。

だが、それが逆に不気味さを醸し出している。

言葉と共に何かが投げられた。

ゴトン、と重厚な音を立ててそれは舞台に落ちた。


ー手枷だ。


「そこの女、校長の手にそれを嵌めろ」


…ん?私達?

舞台上にいるのは私とソフィーと校長と、先生3人。

女に該当するのは結構いるが…私が1番校長の近くにいるか。

ソフィーに目配せをする。

意図を察してくれたようで、手枷を拾った私と一緒に校長に近付いた。


私の手伝いをするフリをしながら、さりげなくソフィーはリーダーとの壁になっている。

その隙に、手枷に魔法陣を刻んでおいた。


「それは魔法を使えなくする。校長、大人しくしていて下さい」


…ごめん、元々の魔法は無効化したよ。

もう少しで効果が現れるから、校長なら、しばらくすれば手枷を壊せるだろう。


「要求は何だ」


「わかっているでしょう?卒業認定ですよ」


卒業認定とは、エーデルシュタイン学園を卒業した者に与えられるものだ。

エーデルシュタイン学園は入学倍率もさることながら、卒業条件もだいぶ厳しいらしく、卒業出来る者は限られている。

そのため、卒業認定を持つ者は周囲からの称賛と名誉が手に入る。


「其方は入学すらしていないではないか。渡せるわけ…」


当たり前だが断ろうとすると、部下がナイフに込めている力を強くした。


「生徒の命が大切ではないのですか?あぁ、それとも…」


右手が滑らかに動き、魔法陣が描かれていく。

あの魔法陣は…


「我が雷の魔力よ 我に力を貸し給えー《雷撃》」


校長が焦って手を動かそうとして、手枷に阻まれてもどかしそうにした。

まだ外せないようだ。

…思ったより手枷が頑丈だな。


描き終わった魔法陣が講堂一杯に広がる。


「ソフィー」


「うん。全てを創りし創造神の眷属たる風の神ウェントゥスよ 我に力を与え給えー《風結界》!」


後出しでも間に合うのは、ソフィーの練習の成果と魔力量の差だ。

薄緑のドームが《雷撃》の魔法範囲に被せるように展開される。

僅差でけたたましい音が響き、雷が数十本落ちるが、結界が盾となり、生徒達には怪我一つない。


「ちっ。テメェら…黒のマント?特待生、か」


忌々しそうな舌打ちと共に、少女を人質にしている黒装束に目配せをする。

そいつはナイフを1度引き、高く振り上げた。


「全てを創りし創造神の眷属たる光の神イルミナルよ 我に力を与え給えー《閃光(フラッシュ)》っ!」


そのナイフが振り下ろされる前に、急いで詠唱を終わらせる。

太陽の様に強く、眩い光が爆発的に講堂を埋め尽くした。

術者の私でさえ、思わず目を瞑ってしまう程だ。


もちろん、純白の光の影響で目が潰れていたのは僅か数秒間。

だが、講堂の造り、距離、人の配置を全て舞台上から俯瞰していた私達には、目を閉じていてもわかる。

ソフィーが身体強化をして少女の元に駆け、ナイフを弾き飛ばす。


「うわあっ!?」


黒装束からすれば視界が真っ白な状態で、手からナイフの感触が消えたのだから驚くだろう。


「な、何だ?どうした?」


視界が戻ってきた。

目を瞬かせながら辺りを見渡すが、その頃にはソフィーが黒装束(人質を取っていた人)を拘束し終わっている。


「テメェっ、いつの間に!?」


収納魔法から抜いた剣を構えるソフィーと、いつでも魔法が発動出来るように魔力を練っている私。


…人質もいないし、勝ち目なんてないんだから、諦めればいいのに。


残った黒装束達は魔水晶を投げ、リーダーは《雷撃》を使おうとしている。


「ティア!全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ」


「全てを創りし創造神の眷属たる風の神ウェントゥスよ」


ソフィーの位置からでは、講堂全体が見渡せないため、結界を張るのが難しい。

下手をすれば、敵まで結界で守ってしまうので、ソフィーと役割交代だ。

私は光・氷属性ということにしているので、後でどう誤魔化すかは考えておこう。


「我に力を与え給えー《風結界》!」


元人質の少女と、黒装束の近くにいる生徒達、そして魔水晶の飛んで行った方向に結界を張っていく。

その間にもソフィーは、氷で創った剣や槍を振り回し、向かってきた黒装束を倒している。

生徒達は座席にしゃがみ込んでるか、結界の存在に安心して身を乗り出しているかのどちらかだ。

ガシャン、と何かが落ちる音がしたので振り返ると、校長が手枷を外し終えていた。


「すまない、助かった」


後は校長に任せよう。

舞台から降り、ソフィーの助太刀に行く。


「ソフィー!全てを創りし創造神の眷属たる氷の神フリーレンよ 我に力を与え給えーアイス!」


ソフィーと私の手の中に氷の剣を創る。

結界を破ろうと魔水晶を投げまくっている黒装束のお腹に剣を叩き込み、しばらく行動不能にしておいた。

人質だった少女には結界を張ったが…大丈夫だろうか?


向かうと、床にへたり込んでいた。

彼女の結界にはひっきりなしに魔水晶がぶつかり、剣やナイフが振り下ろされている。


とりあえず、すぐ近くにいた黒装束を氷漬けにして、結界を重ね掛けする。

少女の側に膝をつき、震えている手をそっと取った。


「大丈夫ですよ」


こんな少女にナイフを向けるなんて…よく出来るよね。

微笑みかけてから手を離し、少女を背に庇う位置に立つ。


もうすぐソフィーの掃討戦も終わるし、校長もいるから大丈夫だろう。




「ティアー!そっちもう残ってない?」


「うん!お疲れ様!」


拘束した黒装束達を先生方が引っ張って行く。

使われた魔水晶の数は100を超えているだろう。

…魔水晶って滅茶苦茶高いし、作るのも難しいのに。


小物かと思ったが…背後(バック)にいるのは誰だろう?


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