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プロローグ


何があったのかなんて覚えていない。


気が付いたら私は、真っ暗闇の中にいた。


自分の身体も見えない闇の中で、握った手からじんわりと伝わってくる熱を感じ、1人ではないのだとわかった。


生まれてからずっと一緒にいた私達は、やっぱりずっと一緒なのだ。


『気が付いた?』


突然、綺麗な女性の声が脳内に響いた。


驚くよりも、誰だろう、と疑問に思った。


『私が誰なのかは、今は置いておきましょう。それよりも、あなた達、自分が死んだってわかっている?』


あぁ、やっぱり。


私達は死んだんだ。


意外なくらいすんなりと納得出来た。


『あなた達は選ばれし子なの。だから、第二の人生を送る権利がある。もちろん、2人一緒に』


選ばれし子?何のことだろう。


『行く先はちょっと不自由だけど、それも少しの我慢よ。大丈夫、ちゃんと知識は与えるから。次の人生も楽しんで、世界を変えてね』


世界を変える?


『さ、もう行かなくちゃ。最後に名前だけ…もう呼ばれることのない、あなた達の名前を』


私達の名前?


そういえば、私の名前は…何?


『またね。神谷 藍里ちゃん、愛海ちゃん』





はっ、と。


唐突に目が覚めた。


「よかった…!気付かれましたか?」


女性が、心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「え、と…」


今、私は何かの夢を見ていたような…


多くの夢と同じで、記憶に靄がかかったように上手く思い出せない。

それに、目の前の状況も意味不明だ。

私はこの女性を知らないし、ここがどこかもわからないのだから。


「まだ混乱していらっしゃいます?ティアナ・ディオワリス様」


「っ!?」


名前が鍵だったのだろう。

一気に記憶が流れ込んで来た。

目の前の女性のこと。

この家のこと。

自分のこと。

そして、大切な大切な妹のことも。


「フィーネ、心配かけてごめんなさい」


少しくらくらする頭を押さえながら、目の前の女性に微笑みかけた。


「いえ、とんでもございません。今ご用意いたしますね」


私はティアナ・ディオワリス。

今年で10歳になる。

少し金色がかったセミロングの銀髪に、濃い水色の瞳。

フリートベルク家の長女?だ。


なぜ姓と家名が違うのかと言うと、私達の母は亡くなっており、嫁いできた継母が私達を拒んだからだ。この家の名を名乗ることを許されず、私達の母の姓であるディオワリスを名乗っているというわけ。

ちなみに、私達には異母兄弟がいて、そっちがフリートベルク家の後を継ぐ(と言い切られた)。

目の前でてきぱきと支度をしている女性はフィーネ。

私の幼い頃から世話係をしてくれている。


そして、今ここにはいないけど、おそらく隣の部屋で同じようなやり取りをしているであろう私の双子の妹、ソフィア・ディオワリス。

私より金色が強い銀髪のボブに、緑がかった水色の瞳。


私達には前世がある。

名前を呼ばれた瞬間に、そのことも思い出した。

太陽系 第3惑星 地球という星の、日本という島国で生まれ、おそらくそこで死んだ。


…私達の名前は…なんだったかな。

もう覚えていない。

夢には確かに出てきたはずなのに、思い出せない。

親や友達の名前も、顔も、記憶にない。

あるのは、知識と、妹のことだけ。


前世でも、私達は双子だった。

どんな時でも一緒にいる、仲のいい姉妹だった。

少しお転婆で、活発で、元気が良い妹。


ー早く会いたいな。


用意された服に袖を通し、身支度を整えていると、ちりん、とドアの外でベルの音がした。

フィーネが何やらやり取りをした後、私の方を向いた。


「ティアナ様、ソフィア様が今すぐお会いしたいそうで…」


「ティア!」


ばーん、とドアを開け放ち、妹ソフィアが入って来た。


「ソフィア様!あぁ、申し訳ありません!」


後ろからソフィアのお世話係の女性が謝罪をしながら追いかけて来て、ソフィアを連れ戻そうとしている。


「ソフィー、どうしたの?」


私と同じように前世のことを思い出したのだろう。

想像はつくが、少し落ち着いて欲しい。


「あ、あぁ…私は熱が下がったので、ティアのお見舞いをと思ったのだけど、もう大丈夫そうね。」


フィーネ曰く、私達は高熱を出し、3日間ほど意識が戻らなかったのだそう。


「えぇ。でもせっかく来てもらったのだし…お茶でもどう?」


「喜んで」


承諾の返事を聞いたフィーネが静かに下がった。

別室に準備をしに行ったのだろう。

すぐにワゴンを押して戻って来た。

1分もかっていないのだからすごい。


「どうぞ、簡単な席だけど座って」


「ありがとう。あ、皆は下がっててくれる?用があったら呼ぶから」


フィーネが確認を取るように私の方を見たので頷くと、一礼して部屋を出て行った。



「で、ティア。思い出したんだよね?」


2人きりになった部屋で、ソフィーが言葉を発した。


「うん。ソフィーはどこまで?」


「元日本人だったこと、向こうの知識、お姉ちゃんのこと、それだけだよ。目が覚める直前に変な夢を見てた気がするけど」


やはり、記憶は私と同じなのか。


「私も。夢も…思い出せないけど、何かを見たっていうのは覚えてる」


「たぶん、私達の記憶が戻ったのって熱の影響だよね?」


「断定は出来ないけど、可能性は高いと思う。しかも、高熱の原因がわかんないからね」


「そ。2人して原因不明の高熱出して、前世を思い出すとか…」


うん、誰かが仕組んだような感じだよね。

熱の方は、犯人の目星はつくけど。


「ねぇソフィー、これからどうする?」


わかんないことを考えても仕方ない。

今は、まず考えることがある。


「これから?」


「うん。母のいない私達は、この家を継げない。ていうか、継ぎたくない。あのおばさんがいるし、さっさと出て行きたいっていうのが本音」


あのおばさん、と言うのは継母のことだ(おばさんと言うほどの年でもないのだが)。


「それはすごく同意する。もう10歳なんだし、さっさと家出ちゃお。跡継ぎだっているんだし」


フリートベルクを名乗る、継母の息子(私達からすれば異母兄弟)は2人いる。

今年で9歳になる長男ゲラルドと7歳の次男ゲレオンだ。

私達とほぼ同い年っていうのがね…うん。


「跡継ぎかぁ…どっちかがなるから私達には関係ないもんね」


この世界でも、後を継ぐのは基本的には長男だ。

だが、それは魔力量に大差がなかった場合の話。

ゲラルドとゲレオンでは、弟のゲレオンの方が魔力量が多い。

父は家のことを考えゲレオンを、継母は初子可愛さにゲラルドを推している。


「ほんと、馬鹿だよね。私達の方が断然多いのに。あのおばさんに嫌われたくないからって」


そう。家のことを考え魔力量で選ぶのなら、私達を跡継ぎにするべきなのだ。

ゲラルドの魔力量を1とすれば、ゲレオンは1.5。

父は2、継母は1.5といったところかな。

そして、私達は150〜200(ただし、記憶が戻った今の感覚で、前までは3くらいだった)。

もちろん、成長するにつれて魔力量も増えるのでまだわからないが、この差が埋まることは無いだろう。


「てかさ、私達ってチートすぎない?魔力量は世界トップレベルで、属性は全属性。何かしたのって言うくらいすごくない?」


この世界には魔法や魔力が存在する。

魔力の属性は、全部で7つ。

光、炎、水、風、雷、氷、土。

平均は2つで、国王や大臣などでも3つか4つ。

それ以上は滅多におらず、3属性以上なら将来が約束されていると言っても過言ではない。


記憶が戻る前は普通に2属性だったが。


「うん。まぁ、前世を覚えている時点で私達は普通じゃないからね」


普通に受け入れているが、ここは異世界なのだ。

混乱していないのが自分でも不思議なくらいだが、理由に関しては、ここで暮らした10年があるからだと思っておこう。


「しかも、この魔法…これはさ、もう、何て言うか…」


「わかるよ!これはほんとにチートすぎ。前世で世界でも救ったのかな、私達」


「それはないでしょ」


私達の固有魔法。

上手く使えば世界征服だって出来てしまう魔法。

記憶と同時に、これの知識も頭に入って来た。


大きくわけて、2つ。

1つ目は《知識の書》。

そして、もう1つは…《魔法秩序創造》。


《魔法秩序創造》とはその名の通り、魔法の秩序を創る魔法だ。

例えば、本来なら魔法陣やら詠唱やらが必要な炎を出す魔法。

これを、『指を鳴らせば、手の平に思った通りの大きさの炎が現れる』と設定すれば、私達だけは指を鳴らすだけで炎を出せるのだ。

『ジャンプすれば空を飛べる』とか『その場で回転すれば転移出来る』など、人外な魔法すらも創り出すことが出来る。

設定を変更することも可能だ。

ただし、設定は2人で行わなければならない。


そして、《知識の書》。

唱えるだけで目の前に本(見た目変更可能)が現れる。

それは、世界中のありとあらゆる情報を見ることが出来る「すごい本」だ。

自分達が設定した魔法秩序の確認も出来る。

そこに載らない情報もあるみたいだが、大体のことは載っている。

しかも随時変更されており、最新の情報を確認出来る。

これは1人でも使用可能で、私達以外には見えないらしい。


いや、本当に世界でも救ったんじゃないかと思ったよ。

そのお礼です、みたいな感じで。

そうでもなければ、このチート魔法の説明がつかない。


「…もう、これだけあれば充分だよ。さっさとこの家出よう!」


あの継母(おばさん)から一刻も早く離れたい。

ゲラルドとゲレオンという馬鹿と顔を合わせたくないし、このままこっそり家を出てもいいのでは?と私も思ってしまったが、そういうわけにもいかない。


「ダメだよ。フィーネ達とお別れしてないし、何よりお金がないもん。剣の腕は確かだし、無一文でもやっていける気はするけど…」


「確かに。それに、あのおばさんに一泡吹かせてからじゃないと!」


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