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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

野獣学園

作者: 安達邦夫





はじまり


1.


期末試験になると、決まって欠席をする生徒が、今日は珍しく出席してることに、担任の貫井慶子は内心驚いていた。

不良という訳でもない。どこか孤独な陰のある男子生徒という印象だが、どこにでもいそうなごくごく普通の高校生……。

試験は、昼には終わり、生徒たちは、緊張から解放されように歓声を上げたり、三々五々と教室から引き上げていく。そんな様子が、慶子には、どこか微笑ましく写った。


だが、あの生徒だけは、生来クールなのか一人ポツンと席に坐り、うっそりと校庭の方に視線をやっている。

慶子が、声を掛けようと男子生徒に向かおうとした瞬間だった。

ハッとして立ち竦む。

高校生とは思えない眼光が一瞬だが、貫井慶子の視線を捉えていたからだ。あまりにも鋭くどこか大人びた冷たいアイピックのようなものを突きつけられたような感じだった。

だが、それも一秒にも満たない瞬間の出来ごとであった。

慶子が、金縛りにあったような状態から解放され、ふと日常的な高校の教室に意識をもどすと、すでに彼の姿は掻き消えていたのだった。


その生徒は、高校の校庭の端にある鉄棒の近くにいた。

逆上がりをしていたらしい。

職員室で今日のテストの採点を終えて、なんとなく校庭の方角が目に入ってきた。

独特の冷たいオーラをまとった男子生徒だから、すぐに判った。

慶子は、ノートに書かれた彼の境遇を確認する。あらゆる生徒について分かってることをしたためたノートだ。


彼は、父親との二人暮らしだ。母親は、数年前に交通事故で他界している。

父親は、さる新聞社のカメラマンらしい。母親がいないことで、きっと生活も不自由して寂しい思いをしているのかも知れない。そう思った。

慶子は、以前一度だけ彼の父親に会ったことがあった。真夏でもないのに肌が赤銅色に焼けた50年配の精力的な印象の中年男。時折見せる笑顔からこぼれる白い歯並び。

よく海外にも行くと話していた。

もしかしたら、男子生徒は、父親が出張でいない間、一人でいるのかも知れない。


気づくと、貫井慶子は町の外れにある男子生徒の家の前に来ていた。

鉄の門扉にブロック塀に囲まれた広壮な邸宅だった。

あららぎとステンレスの表札にある。蘭健一郎。父親の名前だ。男子生徒の名前は、雄太郎と言った。


広々とした庭があり、回りは立ち木が植えられていて、きれいに剪定されている。高い塀で囲まれた立派な邸宅だ。

彼の父親がかなりの資産家らしいとは想像していたが、これほどとは思わなかったのである。


「あのォ。何か?」見ると、感じのいい40才くらいの女性が、塀の木戸から顔を出していた。

「あ、あのォ私は雄太郎くんの担任の貫井と申しまして……」

「あらま、先生!そうでしたか。今は、雄太郎お坊っちゃんはいらしゃらないのですが、よかったらどうぞ!」

お茶でも出しますわ。おほほと笑った。当の本人もいないのでは仕方がない。

父親も南米に取材で行ってるらしい。いつも出掛ける度に、この人懐こい家政婦さんが来て、彼の世話をしてるらしかった。

なんだか拍子抜けした慶子だった。変な心配をしていた己れが馬鹿みたいだった。

彼が、何不自由なく生活してることに安堵したのも事実だった。彼女の心配は杞憂だったようだ。



つづく


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