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レモンオブドーン  作者: 雪解 水
4/6

未知

——なんなんだ……これは⁉︎


 幻想的な深海を思わせるような空の下、見知らぬ建物の中庭に一人、サクの胸の内はただその言葉で埋め尽くされていた。


 夜明け前みたいな明るさに遺跡じみた建物が寂しそうに影を伸ばしている。しかし、青輝せいきを灯し咲き乱れている花々は影の暗さに呑まれてもなお辺りを照らし、それがまた現実離れした美しさを生み出していた。




 ……何故だ?何故俺はここにいる?


 サクは固い地面にあぐらを組んで頭を垂れ、視線と少し前の記憶を巡らせる。



 病院から家に帰った後、むしゃらむしゃらとパスタを食べてお風呂に入る等普段通りに事を済ませて眠りについたまでは覚えている。


 ……そして何故かここにいる。


 これはもう夢かパスタのせいとしか言いようがない。


 これがさっきまでのサクの答えだった。だが、その答えにサク自身が納得していなかった。


 夢を夢であることを自覚してしまったらそれはもう夢とは言い難い。自意識で自由自在になっていない分、これが明晰夢だとも断言できないし、パスタは論外だ。


 サクは自分の頬をつねり、やはり出した答えは間違っていたと確信した。


 


  ——しかし何だろう。まさか、異世界召喚?


 サクはふとこの花がファンタジーだと思ったことでその結論に結び付いた。可能性こそは何とも言えないが、異世界召喚という夢のあるワードに少し興奮した。


 しかし、ゲームをプレイする者としてはどうも『異世界といえば男臭さのある中世』なイメージがぬぐえないし、なにより召喚してくれたマスターがいない。


 こんな異世界召喚は嫌だの大喜利に出てきそうな回答が本当に起こってしまったが、本人的には笑えなかった。


「とりあえずここから出てみるか」


 今のところ大体が分からずじまいで詰みに突入しているが、そんなときにこそ行動を起こす事に意味がある。不撓不屈ふとうふくつが俺の信条だ。


 でもやっぱりその信条は身を滅ぼしかねないのでケースバイケースで使っていこうと言い聞かせ、サクは前向きな気持ちで顔をあげた。





 ——と、サクの身体に緊張が走った。


 仮に、そいつを形容するなら怪物というよりかは人形の方が適切かもしれない。


 サクは、某アニメの犯人より黒い体にあかく尖った口、虚ろな目をした人形に囲まれていた。どの方向からか、ケラケラとわらう声が耳を通して脳にさわり、サクは薄気味悪さを覚え心臓がうずいた。



 この世界に召喚?されたことについて考え込んでいる時に来たのだろうか。全く気づかなかった。しかも、影みたいな体だから影に紛れ込まれると口以外分からない。



 サクは実際に化け物に遭った時は小便ちびり散らかして何にもできずに死ぬんじゃないかと日々ゲームをして思っていたが、案外頭は冷静だった。


 気付けばこの幻想的な場所に一人な上いきなり命の危機を感じる状況下にあるとかもうそれはある意味ギャップ萌え。『なんなんだ、これは』としか言いようがない。



 とりあえず、命だけは守らねばと、サクは周囲を確認しながら相手と戦った時のイメージを膨らませる。


「仮に異世界に召喚されていたとしたら、俺のステータスはチート級になっているのが定石。ここは博打ばくちに出てみるべきか……」


 少し悩んだ末、一発貰ったらこっちも防衛のために手を出す正当防衛スタイルでいこうとサクは立ち上がって身構えた。しかし相手は何を待っているのか囲んだまま何もしてこないし、何を考えているのか分からない。それに加え口は笑っているのに目は笑っていないのだ。それが妙に怖い。



 最悪、命が危ない時には「お・は・し・も」とか習ったが、一人だし囲まれてるので大体が無効。まず、その心構え火事の時だったわ。



 初めてだからというのもなんだが、構えたところで何をすればいいかも分からない。ただ薄気味悪い奴らに囲まれるとかいうこのなんとも言えない状況を一変させたいと、サクは逡巡したが人間代表として人間の大きな武器である『会話』を試みる。



「や、やぁ(笑) いい笑顔ですね」


「……」


「君たちは家族ですか?双子?あっ、二十つ子くらいですか(笑)」


「……」


「あの、僕今からここを動かなきゃいけないんで、その……囲うのやめてもらって大丈夫ですか?」



「……」


 サクは会話という攻撃が通じるのは会話が成り立つことが前提条件だったことを今更ながら痛感した。状況を一変させるつもりが自分に傷をつける羽目になったしまった。ってこいつら何の為に口付いてんのじゃい。……ケラケラ笑う為なんかい。


 とりあえず会話が出来ないことは分かった。それなら——


「誰かぁああっ!助けてぇええっ!」


 自力ではどうしようもないなら助けを呼べばいいじゃないか。リスクはでかいがリターンもデカい。



 —————————



 静けさに花々が揺れる音がした。——だけだった。


 なんで誰も来ないんだよ!ヒーローとか呼んだら来てくれるんじゃないのかよ!あれか、遅れてやってくるみたいなノリの奴か、畜生め!



 静かに囲まれている中、助けを乞うて一人悪態ついている自分は、はたから見なくてもやばい奴である。サクは今更だが恥ずかしくなってきた。恥ずかしすぎてもうハゲそうまである。えぇこの状況から入れる保険があるんですかぁああ⁉︎



 だが、ここで恥ずかしくなって黙り込んでしまったらこの空気をどう処理すればいいのか。考えてみれば、はじめに囲ってきたのにアクションしてこない奴が悪いしこいつらを処理すればすべてなかったことになる。



 そうだ。全部こいつらのせいじゃないか!行動を阻害されたのも空気をおかしくしたのも。まんまとはめられたぜ。クソが‼

 

 自爆を相手の罠であるとこじつけに等しい結論に達したところでサクの中から怒りが沸々と湧き出る。


「ここは自分の手でやるしかねえか」


 囲われてること自体に精神的攻撃を受けているから正当防衛を口実とした攻撃を仕掛けよう。攻撃こそ最大の防御だ。


「お前らが来ないなら俺から行かせてもらうぜ!大人しく殴られてもう俺を囲うのやめろよ、ストーカーまがい!」


 遭遇した時から時が止まったように変わらないあの顔を一瞥いちべつすると、青い花を踏んでしまわないように配慮しながら目の前の相手に勢いよく飛び込んで渾身のストレートを放って——


 

「——え?」



 殴りかかった相手は目の前から姿を消していた。さらには、囲んでいた奴らの姿やあの青い花も見当たらない。


「ここどこ……?」


 

 周囲を見回すと、割と遠くまで見渡せることからここが屋上である事が推測できた。



「もしかして、これがあいつらの能力⁉やば!」


 やっぱ異世界はすげえなと、語彙力をそこらに落としてサクは素直に感嘆した。さっきまでの怒りは語彙力と一緒に置いてきた☆



「俺も使えたりすんのかな、能力とか魔法……!」


 自分の手をまじまじと見つめて興奮するサク。

 と、近づいてくる気配にその表情が変わる。


 後方から響いた足音——振り向けば一人の少女が銃口をこちらに向けて立っていた。



 

 


 

 







 

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