主人公、スライムを倒せない。
━━「…きて、起きて、おーい...?」
...誰だよ、朝からうるさいな。
誰かに起こされ闇の中にあった意識が覚醒した。目を開けるとそこには...
「あ、起きた!!大丈夫?」
━━美少女がいた。
「...なんだ夢か。おやすみなさい。」
「えっ、夢…じゃないと思うんだけどな…?」
俺にこんな可愛い女の子の知り合いは居なかったはずなのだが?夢以外にこんなに可愛い子が自分を起こしてくれる展開などあるのだろうか?
とりあえず目を開けて体を起こす。
「おはよう、ぐっすりだったね?」
美少女が微笑んだ。可愛すぎる、控えめに言って結婚してほしい。
だがそんな考えはすぐに消える。
「ここは...どこだ?」
そこはいつも目覚める家ではなかった。周りを見渡すと辺り一面に草原が広がっている。
「どこって…リーセ村の近くの草原だけど…そもそもなんで君はこんな所で寝てたの?」
そうだ、俺はなぜ草原のど真ん中で寝ているのか…。
昨日の記憶を確かめてみる。
えっと、バイト→帰り道→細い道→神社→お賽銭→爆発...思い出した...
「...賽銭箱が爆発したから?」
「...???」
美少女はとても不思議そうな顔をしていた。まあ、そりゃそうですよね。俺も意味わからんし。ていうかあの爆発で死んでないのか俺。ていうかなんで爆発したし。
まずはこれが夢か確認。ほっぺたをつねってみる。
...マジか。...普通に痛い。夢ではないらしい。
深呼吸しつつ美少女に話しかける。
「あの、...君はいったい?」
「ああ、ごめんね。名前言ってなかったね。私はシオン、君は?」
「...レン」
「レン...素敵な名前だね」
そう言って美少女━━シオンが笑ってくれる。
白い肌に整った顔、身長は160cmくらいだろうか。小柄なのに胸はそこそこ大きく、黒髪のロングヘアーが肌の白さを一層際立たせている。
「天使ですか?」
「...えっ、違いますけど…じゃなくて、なんでレン君はこんな所で寝てたの?魔物とかもいるし危ないよ?」
「えっ、魔物?」
「そうそう、スライムとかゴブリンとか」
「...一応聞くけど、ここ日本であってる?」
「ニホン?そんな村聞いたことないけど...」
マジですか...。確かに考えてみれば日本にこんな広大な草原そうそう無いだろう。
とりあえず身体がしっかり動くか確認するため立ち上がる。そこでやっと自分の服がいつもと違うこと気づいた。
まるで冒険者のような服装だ。おまけに腰には剣までついている。
冒険者のような服装に剣、そして魔物...。
もしかしてここは━━異世界?だとしたら...あの退屈な毎日がやっと終わるな...。
自分でも驚くほどあちらの世界に未練は無かった。そして近くにあった池で自分の姿を確認する。池に映った自分の顔を見て思わず叫ぶ。
「...いや、誰だよっ!!めっちゃイケメンやないかい!!」
黒髪のイケメン。まさにアニメやマンガの主人公、そんな感じの顔になっていた。
「だ、大丈夫?」
気持ち悪い笑いが止まらない俺にシオンが心底心配そうな顔で聞いてくる。
シオンに声をかけられ我に返った俺は答える。
「ああ、ごめん、大丈夫」
それと同時に現在の自分の状況もシオンへ伝える。
「俺、記憶が無いみたいなんだ。どっか遠い所から来たってことと自分の名前しか思い出せなくて...」
「記憶喪失ってこと...?」
「うん…だからこの世界に関する知識も何もかも覚えてないんだ。良かったらしばらく一緒に行動してこの世界のこと教えてくれないかな?」
「そういうことなら力になるよ!!」
嫌な顔一つせずシオンは笑顔で答えてくれた。
「じゃあとりあえず村に行こっか!!」
そうして俺、神谷レンはシオンと共にリーセ村へ向かうこととなった。
◆◆◆
「あれ、スライム?」
村へ向かう途中でプニプニの青色の生物を目にする。てかあれでスライムじゃなかったら何も信じられなくなる。
「そうだよ、リーセ村付近のスライムはものすごく弱いくて倒しやすいよ」
そんなことを言われたら倒してみたくなる。腰に剣まであるし、この世界での俺の能力も知りたい。
「ちょっと倒してくる!!」
シオンにそう告げると俺はスライムに向かって駆け出す。
「あ、ちょっと待って━━」
シオンが後ろでなにか言っていた気がするが俺はそれに構わず剣を抜き、スライムへ飛びかかる。
「はあああああぁぁぁぁ!!」
掛け声とともに剣を振り下ろす、だが...スライムは切れなかった。それどころかぷるるるんっ!!とかいう効果音とともに剣の刃の部分がスライムの中に吸い込まれていた。
「...。」
俺は無言でスライムから剣を抜こうとしたが全然抜けない。剣をスライムごと振り回してみるがスライムは離れない。
「...俺弱くね?(笑)」
いや、全然笑えない。この世界でほぼ最弱とも言っていいモンスター、しかもその中でものすごく弱い部類のものが倒せないとなると詰みである。
━━ていうか転生したら普通もっと強いんじゃないの?最弱スライム倒せないとかダサすぎる。
「ふふふっ(笑)」
そんな困った俺の様子を見てシオンが笑っている。
「スライムは剣じゃ倒せないよ、よっぽど切れ味の良い剣じゃないと切れないし…」
そう言いながらバックから何かを取り出して近付いてくる。
とりあえず剣に引っ付いたスライムをどうにかしなきゃな...。
「これ、とれる?」
「ちょっと貸して貰える?」
そして取り出した赤い玉をスライムに当てた。
ボオッ!!という音と共に赤い玉は燃え上がった。そしてスライムはみるみる溶けていく。
「スライムは魔法が効きやすいよ!!」
シオンはそう言うと剣を返してくれた。
この世界で魔法があるという事は俺にも魔法が使えるのだろうか?
「今のは魔法なの?」
「今のは炎の魔法アイテムだよ、私は回復系の魔法しか使えないから...」
「そうなんだ、ところで俺にも魔法は使えるの?」
「うーん、まだレンがどんな魔法を持ってるかわからないから、とりあえず村でステータスを確認しよっか!!」
そうして俺とシオンは1時間程でリーセ村へ到着したのだった。