お金儲けで調子乗る。終
「で? お嬢様? 何をしていたので?」
鬼の形相で、俺に詰め寄ってくる爺や。年寄りの顔なんか近くで見たくねぇ。……怒ってんなぁ。勝手に飛び出して、置いて行ったの怒ってんだろ? 指輪のことはバレてないはずだ。軽く誤魔化すか。俺は出来るかぎり澄ました顔で
「指輪が思いの外高く売れてな。それで遊びに行ってきたんだ。次は爺やも連れていくから機嫌治せよ」
何ら綻びのない言い訳だな。完璧だ。
「ケビン。そうなのですか? お嬢様は何も騒ぎを起こしていませんでしたか?」
「そ、そうでありますな! ちょっと遊んでいただけであります!」
ケビン! 動揺するな!
「私を置いて行ったことについても怒りたいのですが……」
ついても? 他に何かあったか? 食料が少なかったとか?
「爺やはどうやってここまで来たんだ? LV1でも森を突破出来るのか?」
「ワイバーンが戻って来たんで、乗ってきたんですよ――」
あー、放置してる間に戻ったのか。ん? 爺やワイバーンに乗れなくない? どういうことだ? 俺が考えてると、未だ怒りの表情だった爺やの感情が爆発しやがった。
「お嬢さまぁあああああ!!!! 詐欺行為はいけません! 犯罪です!!! すぐにお金を返してきなさい! そして誠心誠意謝るのです。 異世界ですぞ! 死刑でもおかしくはないのですから! 本ッ当に何をやっているんですか! それにケビン! あなたはお嬢様を止めなさい! 貴方まで加担してどうするんですか!」
「「……」」
あっれー? 何で……知ってんのかな? やばい? ヤバい? ヤバくない!!
「異世界なんだし、好き勝手やってもいいだろぉおおおお!!! 」
「開き直りやがったか! クソおじょうさまがぁ!!! 良いんですか? 超絶美少女は犯罪者でも良いのですか?」
「ぐッ……いや、たまたま運が悪かっただけだ。バレなきゃ犯罪者じゃない! そういう意味では犯罪者じゃねぇ!」
「思いっきり追いかけられてたでしょうが! もう見つかってますよ!」
「全員ぶちのめせば目撃者はゼロだ!」
「人を切れるのですか?」
「……グロはちょっと……に、逃げればいいんだよ! 城まで行けばいいんだ。ほとぼりが冷めたら、この金使って他の街で豪遊しようぜ」
こうなったら爺やもこっち側に引きずり込むしかない。
「どうあっても反省はなしですか。お嬢様には制裁を与えるしかないようですね」
あ? 何言ってんだこいつ?
「俺とやろうってんなら相手になってやるよ! 俺の防御を破れるもんなら破ってみろよー どうせ無理だけどな!」
「ふぅ、お嬢様。どうして私がワイバーンに乗ってこれたのか。どうして悪事を知っていたのか。何も考えなかったのですか? そんなのだからバカ! なんですよっ! お嬢様が置いて行った食料で1人再設置が可能になりましてね。私の役職は参謀です。再設置できるの忘れてましたか? フレイヤ。やってしまいなさい!」
ん? なんて言った? フレイヤ? 今まで森に隠れていたのだろう。スレンダーで幻想的な”エルフ”が前方から歩いてくる。黒髪ロング……エルフ……それにあの無駄に豪華な装備! 俺が作ったキャラの中でもガチな奴じゃねぇか! どんな設定にしていた? 思い出せ! ――そうだ! 正義感が強いって設定……やばくない?
「お嬢様よ、久しぶりだな。少し見ない間に悪党になり下がっていたとは驚きだ。千里眼で移動中観察していたが、随分とあくどいことをしていたな。それに反省の色なし。少し痛い目にあってでも正さねばなるまい。あとケビンと言ったか。お前も後で説教だ」
「ひっ!」
やばい。やばい。あいつの職業はアーチャーのLV70だ。NPCの最高LVはプレイヤーより20低い。俺とのスペックは差は大きいが……相手が近接系や、せめて魔術師系ならまだ……ガチ装備のアーチャー、何がガチかって対人専用のガチ装備なんだよ!
「フレイヤ……落ち着け、話し合おう」
「問答無用」
クソっ! いや、まだタンクはPVE(対モンスター)PVP(対人)で装備の垣根は少ない。それにあいつ、今は人みたいに喋ってるが、元々はNPCだ。PVPのやり方なんて知らないはずだ。凄いと言われる為にソコソコPVPは強い俺だ。行ける。
「デフィンスオーラ! 護身の剣! ジャストアタック! 」
俺は剣を取り出すと自身にバフを掛ける。そして、すぐさま飛び込み技で先制を取ろうとする。
「ダブルショット。毒の矢。鈍足の矢」
あ! 対人のテンプレじゃねぇか! なんで知ってんだよ。
「がっ!」
ダブルショットのノックバックで飛び込みが中断させられ、毒の矢を受けて毒状態になる。さらに鈍足の矢で足が遅く……ダメージは1割も受けてないが……ヤバい!
「キルショット」
ギリギリとフレイヤが弓を引く。はっ? それはテンプレじゃねぇ。即死弓とか効くわけないだろ! 飛び込みはクールタイム……突進技があるな。足が遅くなってても、突進技なら距離詰めれるんだよ! やっぱNPCだな。俺も当たるが大したダメージにはならないはずだ。距離さえ詰めればスタンハメしてやるよ! そこで俺は気付く……いや、でも、確率は低いけど……即死したら……死んじゃう? 怖い怖い怖い!
「回避マクロ1」
俺は回避パターンを使う。自作のパターンは重宝する。VRになって自分で動かして戦闘は出来るけど、みんながみんな素早く動けるわけでもない。状況に合わせた、いくつかのパターンを持って置いて、自動で体を動かすのは基本だ。
右に転がって回避→すぐさま立ち上がり構える。これだけの動作でも意外と自分ではできない。自分から転がるって勇気いるしね。 おっ! 俺が今までいた場所に矢が刺さる。
「ダブルショット」
クールタイム短すぎ! 壊れ技なんだよホントにもうっ! またノックバックかよ。早く回復しろ!
「スナイプ、バスターショット!」
はい、20LV差があっても勝てない理由来ました。ノックバック硬直からの防御無視スナイプバフ付けてからの、バスターショット……パラディンは動作の初動が遅いから、距離を取られやすい。鈍足継続ダメのコンボに、止めの防御無視。やっぱ勝てねー!
「ぎゃ! って痛い! 痛い! めっちゃ痛い!」
刺さってはいない。刺さってはいないが、めっちゃ痛い。ナニコレ! ゲームと全然違う。HPを見ると半分減ってた。まだ戦える……けど、俺にそんな気持ちはもう、どこにもなかった。
「……ごめんなさい……」
「やっと反省しましたか」
それからもまた大変だった。爺やが関係者全員に謝って(もちろん俺とケビンも)金を多めに返して、また謝って……どこからそんな金がって? 俺の服だよ! ゴスロリドレスはフレイヤとの戦闘でボロボロになったし……アイテムボックス内の服半分売って何とか商人の青年を説得&お金を作ったんだよ……はぁ……悪い事はするもんじゃないね……
犯罪については俺の見た目の為と毎晩酒場で騒いでたからか、冒険者のみんなからは仲間みたいに思われていたらしく、軽く怒られただけで済んだのが幸いしたのかな? 細かいことは爺やが何とかしたんだろう。とにかく何とか犯罪者になって死刑にはならずに済んだとだけ……はぁ
「なぁ服のお金少し余ったから食料買えたって言ってたじゃん……爺や、なんでまだ俺乾パン?」
「罰ですな」
「……」
今の俺はウサギパジャマでベッドの上をゴロゴロする超絶美少女だ。なんか、城に帰ってきたら何もやる気なくなった……もうしばらくはこのままでいよう。俺凄いは、また後でな。
「ケビンとフレイヤは?」
「フレイヤがケビンに地獄の特訓を行っております。それも罰ですな」
大変だねー。俺じゃなくて良かった。
そう思いながらゴロゴロしてると、突然電子音が大きく響いた。
「ん? クエスト音じゃん?」
俺はコンソールを開いてクエスト欄を見てみる。
「森のエルフ達を救え? 報酬……文字化けしてるな。バグ?」
何だろう? と思いつつも俺はコンソールを閉じた。