お金儲けで調子乗る。3
ケビンが飛び立って、既に1週間は経った。その間、俺は暇があれば訓練場にまで足を運んでいる。
「まだかーぁぁ……はやくー」
現在の俺は超絶美少女なので凄く女々しい! だって美少女だから! が、流石に待つのも疲れた。食事は乾パンオンリーだし……ケビン遅い……
「あいつ、もしかして一人でなんか美味い物食ってんじゃないだろうなー!! ゆるさん!!」
なんかイライラしてきたので、盛大に地団駄を踏んでみた。一向に気が晴れない。あー、はやくー!!
「お嬢様ぁぁああ―!!! 会いたかったであります!!」
お? おぉ!! 帰って来たー!!! 影が差たと思ったらケビンの声と共に、ワイバーンが訓練場に降りてくる。ワイバーンの放つ風圧で砂埃が舞い上がるので、俺はその場を離れる。服が汚れたらどうする!!
そして着地したワイバーンからケビンが降り立つ。ん? 大きな背嚢を背負ってる。そんな物は出かける時は持っていなかったはず。どうしたんだろう?
「おかえり。ケビン。その背負ってるのなに?」
「食料ですよ! お嬢様!」
ドンッと重さを感じさせる音を立てて、ケビンが荷物を置く。すぐさま俺は飛び掛かり中身を覗く。
「野菜。野菜。お、肉だ! ハム? ベーコン? 分からんがいただきます!」
「お嬢様そのまま食べたら怒られますよ!」
「もぐぅ、うぐん。うめぇ!」
「怒られますって!!」
「うるせぇ!」
「えー」
ある程度食べて気分が落ち着いたところで、ケビンに街がどんなだったのかを聞いてみる。
「そうですねー。ソアレフってレベル低いプレイヤーの方が集まる街があったじゃないですか? そんな感じですね」
「んー、中世みたいなテンプレな街ってことね。まぁ近未来みたいな、よく分かんないのとかよりはマシだ。俺無双出来そうなところが素晴らしい」
「? つまり? どういう事で?」
「プレイヤーだけわ分かる暗号だから気にするなよっと」
「はぁ」
うーん。でもそんな栄えた所じゃないのかな? せめて名物料理くらいは欲しいよなー。ハムっぽいのはおいしかったけど、やっぱあったかい料理が食べたいところだ。
「なんか、おいしい食べ物あった?」
「焼き鳥が凄まじくおいしかったであります! あとお酒も濁ってて変な味でしたけどおいしかったです!」
うわぁ! いいなぁーっ……って!
「ケビン!!! ふざっけんなよー!!! 俺だって食べたいし飲みたいのに!! 一人だけずるい!!」
「す! 少しくらいいいじゃないですかぁー! 指輪のお金たくさん手に入ったんだから、少しくらい楽しんでも労働費であります!!!」
「はぁー!! ん? お金いっぱい?」
え? あの1Gで委託マーケットに出しても売れなさそうな指輪でお金いっぱいん? どう言うこと? 俺はケビンに詰め寄る。とにかくケビンの肩を……ちょい高いので腕を揺らして問い質す。
「補正であります! あの街の人間はきっと1レベル以下ばかりであります! たかが2のプラス補正で大喜びでありました。しかもアイテムの鑑定に、専用の機材が必要なほどの無能力加減であります!」
「どれだけだ!! どれ位儲けたんだ?」
ケビンが腰に結びつけていた革袋を俺に手渡す。両手で抱えなくちゃいけないほど重いし大きい。これっていくら?
「持てる分の食料を買っても、それだけ余ったであります! 私が調べたところでは、一般家庭で半年は生きていけるだけあります!」
「おいおい」
何円くらいだ? 半年……最大限低く見積もって100万くらいか? まぁいい大金には変わりない!
「行くぞケビン!!」
「へ? どこへでありますか?」
「街だよ! 街! 俺も美味いもん食いに行く! こんだけ金あるんだ。いいだろ!」
俺はスカートを靡かせて一回転。決めポーズで宣言する。可愛いポーズはお手のもの!
「爺やに怒られるであります。まずは相談です!」
「あいつ反対するに決まってるだろ。今ならまだ間に合う。爺やが気付いて、ここに来る前に行くぞ!」
「一人にしていいでありますか?」
「この食糧置いていこう。そうすれば死にはしないだろう。外の獣は城に入ってこれないしな!」
「でも……」
なかなか首を縦に振らないなケビン……なぜ爺やを怖がる! 俺が主なのに!
「ケビン……お前はいい子だ。少しは一人で飲み食いして罪悪感あっただろう? 全力で飲み食い出来たか?」
「……もう少しくらいは食べて飲んで、そのまま寝たかったであります……」
「それを、やりに行くんだ。俺が許す!」
「行くであります!」
「よし!」
俺はケビンと共にワイバーンに飛び乗って大空へと飛び立つ。他人のワイバーンに乗ったことは何度もある。もう慣れたもんだぜ!
「でも3日は掛かるであります。野宿ですがお嬢様大丈夫でありますか?」
「休まず行くぞ!」
「タンクのお嬢様は体力が有り余ってて大丈夫かもですけど、ワイバーンと私が潰れるであります」
そう俺はタンク。敵の攻撃を受けて、ヘイトを管理する盾役だ。お前なら格好優先で魔術師とかじゃないのかって? 馬鹿が! アタッカーなんて腐るほどいるんだよ! それに比べて盾職は不人気! しかし需要は多い。そんな中、超絶美少女のタンクだぞ! チヤホヤされるに決まってるだろ! ほら? タンクしか選択肢はない!
「俺は最高レベルのタンク職だぞ! もちろん回復魔法が中級まで使える! 回復してやるから休みなしだ!」
「そんな―!!! であります!!」
そんなこんなで休みなしのおかげか、2日目の夕方には街の近くまで来てしまった。人に見つからないようにワイバーンを降りて門まで向かう。おぉあぶない! 暗くなると門が閉まってしまう。そういうのはお決まりだ!
「おぉ元気のいい姉ちゃんじゃないか、また来たのか」
どうやら門番のおっちゃんにケビンは顔を覚えられていたらしい。可愛いしな!
「その奇麗なお嬢ちゃんは?」
お! 見る目あるね!
「お嬢様であります!」
「うむ!」
「おぉようこそ。何もないけど楽しんで行ってくれい」
そう言って門を通してくれる。ザルだな! 都合が良くて助かるけど。街に入って一直線にケビンの案内で向かうのは酒場だ。なんたってこれが目的だから。酒場の中に入るとそこは正に想像通りの酒場だ。禿のマスターに、ちょっと可愛いウェイトレス。野蛮そうな男達がお酒と食事を取っている。うーん、見るからに冒険者って見た目のもいるから冒険者ギルドとかありそう。お、女冒険者もいるなー。何か、みんなにめっちゃ見られてるな。まぁ仕方ない。超絶美少女が来たら誰でも見る。むしろ見ない奴死ね。
「何にするでありますか?」
適当なテーブル席に座ったところで、ケビンがそんなことを聞いてくる。ふふ、そんなの決まっている。
「全部だ!! お姉さん! メニューの料理も酒も全部持ってきて!!」
「え? えぇ! はい!!」
ハッハッー!! 俺のテンションはうなぎ登りだ! 寝てないってのもあるけど、もうね。酒場に入ったところから良い匂いは漂ってくるは、冒険姿なんて見せられるは、俺の異世界生活始まった!
しばらくすると、料理に酒にと次々と運ばれてくる。なんか焼いたやつに、煮たやつにサラダっぽいやつに、なんのどんな料理とか気にしない! お酒もよく分からん味だけど気にしない! アルコールに温かい料理! 最高です!
「すげーな、あの嬢ちゃん達、奇麗な上によく食べる」
「あぁ声かけようかと思ってたんだが、あぁ勢いよく食べてるの見ると行きづらいな」
「どこかの貴族令嬢と護衛か? そこら辺の娘と奇麗の格が違うな 食べ方は汚いが」
なんか嬉しい声が聞こえてくるな。うんうん分かってるね君たち。実に分かってる!! 気分が良い! すごく良い! よーし!
「きけぇえええええええええーーーーーーーーい!!!」
いや気分が良い!! 仁王立ちして声を荒げるってもんですよ。
「会計はおれがもぉーつ!! みんなたべほうだいだぁーーーー! 超絶美少女の俺に感謝しろー!」
「ひゅあーーーー! おじょうさま! すーてーきー!!」
酔いがガンガン回ってきたケビンも同調する。
「「「「……」」」」
数秒間、酒場全体が静まり返った。けどそれはすぐに終わる。
「「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
大歓声だ。 うんいいね。
「ほんとに良いんですか?」
露出度の多い、冒険者なお姉さんが少し困った顔で訪ねてくる。そんな顔をするんじゃないよ
「よいよい! なんたって美少女だから!! お金あるから!」
俺は調子に乗って革袋を取り出して見せつける。現物を見て安心したのか、お姉さんが嬉しそうな顔で「ありがとうございます」なんて言ってくるもんだからもうね。ほら! ケビンなんか鼻の下伸ばしちゃってるよ!
その後はよく覚えてないけど、一晩中とにかく騒いだ。
滅茶苦茶騒いだ。
めっちゃ笑った。
こんなに楽しいのは久しぶりかもしれない。
これはリアルでは出来ない。
異世界最高!!!
うん……一晩でお金使い切っちゃったけどね!!!
次こそは調子乗る。