お金儲けで調子乗る。
「うん……完全に寝落ちだなって、あれ?」
俺は辺りを見回す。おかしい。明らかにおかしい。”いつも通りではある” でもおかしい。
俺はついさっきまでゲームをしていた。最近では中学生でもやってるVRMMOだ。仮想現実の中で冒険する体感型ゲーム。好きなアバターで現実では出来ない、ファンタジーな冒険に出かける。そんなゲームだ。俺がやっていたゲームはマイナーな課金型の異世界冒険もの。いや、それはどうでもいい。問題は、起きたらそのゲームの中だったってことだ。ゲームの中にいたんだから当たり前だって? そんな訳ない。ゲームの中で寝る。そして起きたらゲームの中。そんなことすれば現実が分からなくなってしまう。起きたら現実。ゲームは夢。この区別こそが大事だったはずだ。
「やっぱり、いつも通りだよなー。正直グラフィックは進化しすぎてて、小説にあるようなゲーム中の様な異世界に飛ばされてたとしても気づかないけどね」
そう言いながら、いつもの王座で自分の体をペタペタと触る。頭の隅で、どうせちょっとしたバグだろと分かっていながらだ。でも少しくらい異世界に行けてたらいいなーと現実逃避をしてもいいだろう。だって現実クソなんだもん。冴えない社会人だぜ。仕事もつらいし。
「うん、どっからどう見ても俺超絶美少女!! これが現実なわけない! ゲーム最高!」
そうです俺は所謂ネカマです。ネット上で女性に成り切る哀れな男です。別に男にアプローチがしたくて女に成ってるわけじゃないよ? 俺最高に可愛い!! が、やりたいだけで性的思考は普通だからね? もちろん人には言えない趣味だけど……
「はぁー改めて見てもいいなーこの服」
俺は自分が来ている服を見てしみじみ思う。やっと手に入った、完璧な黒一色。レースが満載なゴシックロリータドレスだ。肌が出てたりスカートがミニだったりする邪道じゃない。本物のゴシックロリータドレスだ。服の名称まで分かるオタクの人ではないけど、俺にはこれが似合う。というかこの姿が理想です! このために瞳の色は真紅にしたし、肌は真っ白だし、髪は金髪だぜ! でもすいません! ショートカットにしました! 趣味です……そして見た目の年齢は12歳ってところ、身長は140センチしかないんだ! 完璧だ! 変態ではない!
「まぁ、明日仕事だしログアウトっと……マジで?」
コンソールを取り出して、宙に浮くモニターを見てもログアウトの文字がない……まじで異世界だったり? と、そこで気づく。
「人いなくね?」
ここは俺の城だある程度課金すれば城はみんな買える。そこの王座がいつもの特等席なわけだが……いつもは設定したNPCが、ぞろぞろとそこら辺を歩いては、これまた設定した言葉を掛けてきてくれたりするんだが、誰もいない? この無駄に広い王座のまではの少なくとも10体以上のNPCがいたはずなのにだ……
「ネットには繋がって……ない。となば勿論サポートには連絡できないと」
ほかにも確かめる手はあるのだろうが、どっちかといえば異世界で俺強い! 俺可愛い! が、やりたい俺は確認が遅い。するとだ。王座の間の扉が勢いよく開かれる。
「お嬢様あぁぁああああああ!!!!!! 目が覚めましたかあぁあああああああ!!!!」
「うぉ!」
扉から飛び混んできたのは執事服を着こなす老紳士だ。基本的に女NPCしか作らない俺ではあるが、偶にはいいだろうと思って作ったキャラだ。名前は【爺や】 俺の相談役って設定だな。
「え? 爺やじゃん! 話せるの? マジで! 異世界だ!! これは確定! はい! かくてぇぇ!!!!!!!!」
超絶美少女の甲高い声が王座の間に鳴り響く。――俺です。
俺が狂喜乱舞して飛び跳ねていると、傍まで走って来た爺やはなぜか俺に思いっきり拳骨を落とす。
「こっの非常事態にいつまで寝ぼけていらしてますますかぁぁぁあああああー!!!」
急に怒られた俺は吃驚して頭を抑えながら
「え? なに? なんで?」
「城が! 城が! どこか分からないところに飛ばされたんですぞ!」
爺やは慌てているようだが俺はその言葉を聞いて安心した。慌てている人間を見ると逆に冷静になるだろ? そういう事だ。
「そんなことかぁ! そんなの異世界に決まってるだろ! 異世界!」
「はぁ……はぁ……異世界ですか。それは分かっております。マップに乗ってないんですからな、問題はそうではないのです」
異世界……NPCがみんな動くんだったら俺には軍が丸々いる。そういう事もできるゲームだったからな。まずは周辺の探索をして、強い魔物とか倒して俺強いを! 国を乗っ取ったりなぁー
「そうか! ではまずは周辺の探索を――」
「それは終わってます!」
「――おぉ、で? なにがあるの?」
「森です。ワイバーンで3日くらいの距離はすべて森です」
「広! じゃあ人が住んでるところは?」
「森を出て暫くするとそれなりの町がありますな」
「もうそんなに調べたの?」
「千里眼をもつ者達に調べさせたので、そんなに時間はかかってないですな」
出来る! こやつ出来るぞ! 一応NPCはすべて配下って扱いだったはずだ。ここは主として褒美でもあげようじゃないか。
「よくやった! うむ。 全員に褒美をあげようじゃあないか!」
「ないです」
? じいやの反応がおかしい。
「ない? なにが?」
「お金も食料もです」
「城にある分は?」
「食料は僅か、お金に関しては昨日お嬢様がその服を買うのに全部使ったではないですかぁぁああああああああああ!!! あれほど止めたのに!!!」
鬼の形相で涙を流しながら爺やが訴える。止められてた設定なの? お金がない……そういえばそうだった……イベ限定品だからって委託でめっちゃ吹っかけてたからな。しょうがないじゃないか!
「じゃあ倉庫にある金目の物を褒美に――」
「ギルドとの繋がりは消えました」
「――え? あれ倉庫って……あ!」
そうだ、倉庫はギルドに預けてるって設定で、それをどこからでも専用のBOXから取り出せる……異世界に元のギルドはない……」財産が……あ、なんか考えてたらお腹空いてきた。お腹空くってやっぱり異世界! ってそれどころじゃない!
「食料ってどのくらい持つの?」
「全員分ありませんなぁー」
「それって」
「一日分ないです」
やばい! すごくヤバい!
「まぁ 私とお嬢様、あと一人くらいなら3週間は持つかと。 その為、他の者たちには保管モードになっていただきました」
「お! おぉ!! 爺やすごい!」
保管モードってのは城に配置する前の状態だ。その状態にできるのね。でもって食料はいらないと……安心した。よし、テンションよ! 戻れ! 異世界だぞ! 楽しい異世界ライフだ! それもこのキャラはカンスト最強装備だぜ! それに可愛い!
「まずは誰かを町まで派遣して、何とかこの世界での金銭を作り食料の確保でしょうな」
「……」
そう言われると、なんかすごいやる気なくす仕事みたいで……やめろよぉ~じいや
「まぁなんか売ればいいだろう!! な! アイテムボックスの中になんかあるって!」
「金があればきっと売れると思いますよぉー 昨日まで大量にあったんですがねー。 この城が買えるくらいにはあったんですがねー」
めっちゃ爺やが俺の服見てくる。こいつ……なんて厭味ったらしい!
「いやほんとお嬢様のお金の使い方と来たら。防具も武器もお金も全部使って新しい武器1個だけ買ったり。スロットで使い切ったり。今回みたいな見た目の為だけに全財産突っ込んだり!」
「普通だから! ネトゲじゃ普通の使い方だから!」
「意味わかんないこと言ってるんじゃないですよぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
爺やにまたも拳骨を食らわされる。
「いたいぃいいい!!!!」