第一章 成金になる編 ①
山城旭二十五才現在無職、彼女も居ない夢も見えず将来性はゼロ。身長百九十八センチ、体重九十八キロ、足のサイズ三十四センチ。
運が悪いのかと買った宝くじが見事3憶円の億万長者になった。
怒れば誰も敵わない、単細胞だが人情も熱い。みんなアキラの魅力引き込まれ
コメディーありアクションあり、喧嘩あり、人情友情あり、最後に彼女が出来たぁ!
第一章 成金になる編
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一~二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
山城旭二十五才現在無職、彼女も居ない夢も見えず将来性はゼロ。身長百九十八センチ、体重九十八キロ、足のサイズ三十四センチ。
今のところ、取り柄といったら人一倍大柄な体と若さだけだ。
どうせクビになるなら先にと、自分から辞めてしまった。アキラの人生はここから一変する。
自称二枚目だが他人から見た印象は、超大柄で二枚目には程遠いが、どこか愛嬌がある。そんな印象だ。
性格は以外と温厚、そして控えめ、しかし一旦キレたら単細胞なだけに野獣と変貌する。愛嬌ある顔から一変し、目は充血し大きな口で咆哮するらしい。まるでゴリラのようだとか?
プロレスラーに向いている体格はしているが、残念ながらその体格を活かす能力は持ち備えていない。誠にもったいない。ただこのままではウドの大木だ。
それでも特をする事もある。もっとも、今はデカイだけであるが。
街で人にぶつかって怖いお兄さんが、アキラをよく見もせずに怖いお兄さんは勢いで絡んで来たことがあった。
「こら! ワレ何処を見て歩いてやがる。ア~~~」
アキラは「あっ、どうもすいません」とその怖いお兄さんの、はるか頭上から謝ったのだ。
そりゃあ驚いたのは怖いお兄さんの方だった。
まるでゴリラが間違って街に出てきたような風貌に度肝を抜かれた。
怖いお兄さんも、さすがにゴリラとは戦いたくなかったらしい。だが威勢だけはよかった。
「バッカ野郎! 気っ気を付けろよ」と
そう言いつつも、そそくさと逃げるように立ち去って行った。しかしアキラは違った。
「なんだ! あいつ謝ったのに態度悪いねぇ~まったく」
そして損する事もある。アキラも年頃だ。そりゃあ彼女の一人も欲しいだろう。もし街で女の子に声でも掛けようものなら女の子は殺されると思って百十番通報でもされるのが関の山であろう。と、他人でさえ気の毒になる始末だ。
アキラは古びた二階建てのアパートで一人暮らしをしている。
東京都の板橋区にその住居はある。家賃四万八千円(風呂なし)六畳と三畳に小さなキッチンとトイレだ。
本当は二階に住みたかったのだが、大家がその体格ではアパートが潰れると言うので一階となった。
一・二階あわせて八部屋あるアパートで、アキラの部屋はそのアパートの玄関から一番近いところだ。
これには理由があった。
物騒な世の中で下町ほど危ないとされる昨今、アキラの部屋の窓を開けると、表の通りが見える。
アキラにはやはり狭い部屋という圧迫感で、普通の人は寒い時は窓なんか開けたりしないが、しかしアキラは違った。
寒いことより圧迫感が嫌で冬でも窓をよく開けていた。そしてこの風体だ。ここに大家が目を付けたのだ。ここ数年の間に二度は空き巣一度強盗が入っている。
つまりは用心棒代わりという事で大家も直接、アキラには言わなかったが。
(大家から指定された部屋)ということで、他の部屋より五千円安かった。
まあ安いにこした事は無い、とアキラは用心棒代わりと思ってもいない。だから深くは考えていなかった。
アキラの両親は大学二年生の時に、突然と離婚した。
その余波をモロに受けてアキラは大学を中退。しかしこれは親のセイ? だけでもない。
大学に辛うじて入ったものの、この時点で将来がまったく見えず、ただ人一倍大きな体を持て余して、小さくなって世の中を見廻していた。
人が思うには、こんなゴリラ男が浪人生活して公園でもうろついていたら、きっと警察か動物園に(ゴリラが野放しになっているから捕獲して欲しい)などと通報されるのが関の山だろう。
今や、動く粗大ゴミ同然となってしまった山城旭であった。
時には人から恐れられ、時には重宝がられ、男(山城旭)は二十五才の青春をただ、ただ無駄に生きているようだ。
板橋区は東京の北に位置し、荒川を挟んで埼玉県となる。
アキラの住んでいるアパートは、その荒川岸に近い高島平周辺である。
富士の樹海と言えば自殺の名所でも知られるが、なぜか此処、高島平も昔は自殺の有名な場所であった。
最近は話題にならないが、わざわざ九州など遠方から来て自殺した人も一人や二人ではない。年間十人以上とも言われた。
都営公団住宅が立並ぶ街、最寄の駅は中台という地下鉄の駅がある。地下鉄と云えば当然地下に潜っているのが、この地下鉄は普通じゃなかった?
どこを見たって地下鉄は? なんとそれがビルの五階建て位の所を走っているのだ。
まぁ、そんな事よりもアキラは今日も荒川土手の河川敷で少年野球の練習を見ていた。
別に見たくて見ている訳じゃなく、狭い部屋にばかりいると窮屈で仕方がない。
無職のアキラは土手の草むらに,寝っころがって空を眺めて流れる雲を見つめていた。
その雲はいろんな形に変わって行く、やがて雲の形が何故かボートの形に見えて来た。
「そうだ! 競艇に行こう」当時話題になったJRのCMのような単純な発想である。
この荒川の川向こうに戸田競艇場がある。歩いても行ける距離だし暇潰しには、ちょうど良かった。
サイフの中身は一万三千五百円、無職のアキラにはそれも大金であった。
アキラはギャンブルはやった事がない。しかしアキラ将来が不安だし、自分の運勢を占う為にも、いい機会だと思って競艇場に行く事に決めた。
時間は昼を少し過ぎていたが、それでも競艇場は凄い人だった。
アキラには今日は平日なのに、どうしてこんなに人がいるのか不思議でならない。
まさか! みんな無職と言う事はあるまいが。まぁそう考えれば気が楽だった。
みんな仲間に見えて来た。みんな無職かどうかは別として共に競艇を見る為にやって来たのだ。
しかしだ。どうすれば舟券を買えるのかサッパリ分からない。
競艇場の中には沢山の売店がある。アキラは売店でパンと牛乳を買って売店のおばさんに尋ねた。
「あの~~おばさん、俺……初めての競艇なのだけど」
聞かされたおばさん達は、あきれた顔をして笑ったが舟券の買い方を親切に教えてくれた。なんとか説明を受けて舟券を買う事になったが、競艇のレースの予想がつく訳もなく、考えたあげくに今日の日付で二十四日の二―四を買った。
アキラは三千円だけ、やったら帰ろうと決めていた。とりあえず一レースに千円賭け三レースと決めた。そしていよいよ発走だ!
水しぶきをあげて疾走するモーターボート、巧みなテクニックに観衆が騒ぐ、競艇を知らない人でも,一見の価値があるかも知れない。
競艇は一周六百メートルを三周して六艇で行なわれる。
レースはあっと言う間に終ったが、なんとアキラは自分が買った舟券が当たったか分らない。
分るのは観衆の一番後でも背が高いぶん良くレースが見えることだ。
結果が大きな電光掲示板に発表された。それでもアキラは分らない。
仕方なく隣の中年のおじさんに声を掛けた。背丈はかなり小さく、いかにも常連さんと思う様相をしていた。
その証拠に耳には赤いエンピツを挟んで予想紙がクシャクシャになり、その道のプロを思わせた。
「すみません……これっ当たっていますかねぇ?」
声を掛けられた中年のおじさんは、上空から何か聞こえたような気がして一瞬見回したが、自分の頭上にその声の主がいた。
おじさんは少しビックリしたが気を取り直し教えてくれた。
「あんた競艇を知らんのかね。えーと……おっ当たっているぞ! 素人は怖いねぇ適当に買って当たるんだから」
「ほ! 本当ですかあ、以外と競艇って面白いんですねえ」
「そりゃあアンタ、当ればなんだって面白いよ。兄さんは運がいいんだよ」
そのおじさんは丁寧に教えてくれた。それからと言うもの立て続けに残りの二レースも当たった。
今日は運が良いと思った。結局三万二千円の儲けになった。
しかしこのツキは、その予兆である事にアキラは気付く筈もなく。
その日の夕方アキラと中年のおじさんは近くの駅前で祝杯を上げていた。
駅前と言っても屋台に毛が生えたような小さな居酒屋だが。
「今日はどうもありがとう御座いました。いやあ競艇は面白いですね」
「なんのなんの。アンタの運が良かっただけだよ」
その男は真田小次郎と名乗った。まるで剣豪みたいな名だ。
つづく