第十一話 人間じゃない!?
池田屋事件から、新選組は忙しくなった。
あちらで護衛、こちで関所の番とやたら駆り出されている。
私は組に属していないので屯所の番と怪我人の治療などをしています。
百合ちゃんは主に家事全般を担っており破れた隊服を直したり、食事に関しても力がつくようにと工夫してくれています。
夏、真っ盛りのある日の昼下がり。
「百合ちゃんあとは何するの?今日は暇だからお手伝いしますよ?」
「ありがとうございます。裏庭が手付かずなので、そこを片付けようかと思っていました」
「じゃあ、二人でしましょう。早く終わらせて、久しぶりにお茶でも飲みましょうよ。最近皆さんは帰りが遅いから」
「そうですね。」
二人は裏庭を箒で掃くことに事にした。
無心に掃いていると、強い気配が近づいてくる。
「百合ちゃん!」
「はい?」
「こっちに来て!早く!」
「どうしたんですか?」
百合が来るのを待てず、自分から駆け寄って百合を背に庇う。
「流石、気配に敏感なのだな瑠璃とやら」
「どうして名前を?」
「瑠璃さん、あの人は」
「今日は真田百合、お前に用があって来た。何故、お前は人間どもと共にいる」
「仰る意味が分からないのですが。私に何の用ですか」
「お前は覚えておらぬのか、鉄扇公主またの名を羅刹女。俺と共に来い。汚らわしい人間どもからさっさと離れろ」
「鉄扇公主?」
「百合ちゃん、私の後ろから出ないで!」
「あなた何なの?意味の分からない事言わないで!百合ちゃんには手を出させないから」
「相変わらず威勢がよいな。気の強い女は嫌いではないが」
「真田百合、あなたはまだ目覚めていないだけです」
「あなたは」
「私は乾陸別名を迦楼羅と申します。この方は大和の鬼を統括する頭領で、神田蓮別名を羅刹天」
「えっ・・・全くお話に着いて行けないのですが、いったいあなた達は何者ですか!」
「ですから、我々は」
「乾、もうよい。言っても分からぬ」
瑠璃は百合を背にかばったまま、臨戦態勢に入った。
「おいおい、こんな真昼間から人様の庭で女を口説こうなんで、とんでもねえ奴らだな」
「おまえら何者だ!ここは新選組の屯所と分かってきやがったのか!」
「左之さん!土方さんも」
「おい、おまえら大丈夫か。後ろに下がってろ」
「神田殿、今日は下がりましょう。目的は果たしました」
「ふん、仕方がない。真田百合、早く目覚めろ」
二人は音もなく消え去った。
「土方さん、あの二人が池田屋で総司と平助に深手を負わせ相手だと思います」
「なに?奴らは何者だ。何か言ってなかったか?」
聞き慣れない単語が多くて、混乱していた。
後で百合ちゃんと話してからでも遅くないはず。
「いえ、私には彼らの言葉は難しくて、百合ちゃんは私が背に隠していたから聞こえてないかもしれません」
「そうか、百合、何か聞こえたか?」
「いえ、私もよく。なんだか意味不明で」
「そうか」
土方さんはそう言って、部屋に戻っていった。
「なあ、瑠璃」
「はい」
「嘘つくんじゃねえよ」
原田は瑠璃が咄嗟についた嘘だと見抜いていたのだ。
「うっ、左之さん。私なりに意味をかみ砕きたいんです。後できちんと報告しますから。今は見逃してください!」
そう言うと、左之さんは分かったよと 私の頭をポンポンと撫でて戻って行った。
「ふぅ」
「瑠璃さん、ありがとうございます。私、混乱していて」
「ううん、ひとまず部屋に戻ろう。ふたりで話しましょう。皆に話すのはそれから。彼らはきっとまた来ると思う。それまでにみんなにはある程度話しておかないと」
「はい」
百合の話によると小さい頃から怪我の治りがとても早く、子どもながらに異常を感じていた。
目の前で刀を抜いて、指を切って見せる。
瞬く間に傷は塞がり跡すら残っていなかった。
「す、すごい回復力だね!」
「私、本当に人間ではないのでしょうか」
「そんな、ただの遺伝子の変異かもしれないじゃない」
「そうでしょうか」
「どちらにしても、百合ちゃんは百合ちゃん。そうでしょ?私だって人間なのかどうか怪しいよ?」
「瑠璃さん・・・」
「皆も今更、驚いたりしないと思うよ。私で散々免疫ついてるはずだから」
「はい」
「でも、早く土方さんたちの耳には入れておかないと。彼らは異常な強さだったから。それに、百合ちゃん狙われてるし」
「そうですね。今夜にでもお話します」
「うん」
そして私たちは夕餉の準備に取り掛かった。
「瑠璃」
「あっ、一さん。お疲れ様です。最近お忙しいですね」
「ああ。それより左之から聞いたが、池田屋で現れた二人が」
「そうなんですよ。夕餉の後に皆さんに詳しくお話ししようと思っています。ここだけの話なんですが」
瑠璃が声を落として、口元を斎藤の耳元へ近づける。
斎藤は背を少しかがめそれを聞く。
「彼ら、人間ではないらしいです。そして、百合ちゃんを仲間だと言って連れ去ろうとしました」
「なにっ!」
「しぃぃ。また後で百合ちゃんからもお話ありますから」
「ああ、分かった・・・」
実は二人のやり取りを眺めていた者がいた。
「そこの二人、何こそこそしてんの?逢引の約束とかかな?」
「わっ、総司!」
「ねぇ、逢引なら僕としようよ。瑠璃ちゃん?」
「逢引って」
沖田はわざと瑠璃の肩を引き寄せ、斎藤の反応を見る。
「総司、いい加減にしろ。嫌がっているだろう、少し離れろ!」
百合は沖田の取った行動に驚き、顔を真っ赤にしている。
「瑠璃ちゃん?なににこにこしてるの?」
「えっ、総司と一さんって仲良しですね」
「・・・」
「・・・はぁ、鈍感って最強だね。ねぇ、一くん?」
「し、知らん!」
さあ、夕餉の時間ですよ。