3話:無認可の正義の味方は何と呼ばれるのでしょうか
『兄さん、ターゲットまで後50メートル。もうすぐだよ』
ウサギの着ぐるみ的強化外装シロサーはさも当然のように通信機能までついていました。
ペッタペッタと大きな足で歩くと、人々は一瞬驚いたようにこちらを見ますが、何かのイベントなんだろうとすぐに興味を失っていきます。
この時ばかりは都会人特有の他人への無関心に感謝したくなります。
『われわれはー傲慢なる現政権を打倒しー真に国民が住みやすい国をー』
駅前近くの広場でノボリを立てて街頭演説をしている初老の男性が見えてきました。
『マスター・ツカサ。
視界内ターゲットマーカー外套人物をサーチ中。
ターゲット一致率99.2%。対象をターゲットと断定致します」
『さあ兄さんやっちゃって!』
『司さん、姫ちゃ……ヒメ博士の為にも頑張って下さい」
ここで問題です。無認可の正義の味方は何と呼ばれるのでしょうか?
『こ、国民の血税を浪費した、悪徳政治家に天誅ー!』
シロサー搭載のボイスチェンジャーで甲高いアニメ声に変化されているので緊張感が薄いですが、中の人たる僕はいろんな意味でギリギリです。
「な、なんだ君は…ぎゃあぁぁっ!?」
思い切りスイングした角ざ……ジャスティスカーボナルブレイドが、ばしぃん!と綺麗な音を立てて初老の男性の頭にヒットしました。
あの政治家は個人的に嫌いだったので、ちょっとすっとした気持ちもありますが―――
「テロリストだ、対応ー!」
遠くから警備をしていた、お仕事に忠実な警察官の皆さんが走ってきました。
はい、無認可で正義の鉄槌を下す正義の味方は、法治国家においてテロリストであるようです。
『ひぃぃぃい!』
悲鳴を上げて逃走した。
シロサーは対して高くもない僕の身体能力を上げてくれる。
本当に近未来のパワードスーツかロボットに乗ってるみたいだ。
そして管理AIのクロナはどこに逃げれば良いか適切なアドバイスをしてくれる。
とはいえ通り魔を通り過ぎてテロリストにランクアップした状態で捕まりたくない…っ!
―――
『ぜ、ぜはー……ぜはー…』
ごとごとと揺れるワゴンの車内。
長い長い現実逃避混ざりの走馬灯から帰ってきた僕は呼吸を整えてシートに座り込みました。
『やったねお兄ちゃん、ネットニュースはお祭り状態だよ!
正義の味方デビューとしては完璧だとだねっ』
通信ごしに聞こえてくる姫ちゃんの弾んだ声。
これは正義の味方デビューじゃなくて犯罪者デビューだと思うのは僕だけでしょうか。
「ねえU-1さん、どう思う?」
「……ごめんなさい。強く生きて下さい」
顔を背けられてしまいました。
―――
拝啓お父様。
今立派な悪の総帥になる為に研修なり勉強なりしていると思われますが。
正義の味方になった不肖の息子は、去年の夏頃にお父様に「縁故採用になるがウチの会社来るか?」と言われた際に、素直に頷いておけば良かったと痛感しております。
「兄さん、まだ4月まではかなりあるよ。
研修を続けて悪の秘密結社との対決までにどんどん知名度稼いで行こうね!」
「司さんあの…ここの問題集で分からない所があるんです。教えて貰えませんか?」
「戦闘員U-1号さん、それは夕方以降って約束だよね!?」
「私もう2浪しちゃったから色々後が無いんです、姫ちゃん見逃して!」
でもこんな色々と心配な少女達を見捨てる事は私には出来そうにありません。
「兄さん何笑ってるの、お仕事なんだよ!」
「司さん、笑うのは酷いです。本当に切羽詰ってるんですよ!」
ああ、僕は笑っていたのですね。
普通の社会人を目指していたけど、こんな楽しく賑やかな毎日が続くなら、そんな人生も悪くありませんね。
「さあ兄さん、今日も正義のお仕事を始めよう!」