練習(倉田視点)
今日はクラス対抗障害物レースのチーム毎に練習すると、体育祭委員が言っている。倉田は、二人三脚の相方である広瀬を探した。あっあっちから走ってくるのが見えた。
体育祭委員の子から足を結ぶひもをもらい、俺達はさっそく足を結んだ。そして立ち上がり、肩をまわしてみると体の柔らかさに驚き、思いっきり体を離してしまった。気恥しい気持ちになり、広瀬の方を向けない。
いやいや、俺何やってんだよ!肩に手をまわす程度だぞ!!普通普通!!と言いきかして、倉田は、軽く手を広瀬の肩に触った。このままひき寄せれば体が密着する。さっきの柔らかさが…馬鹿!なに考えてるんだ!!頭を振り、あまり近付かないようにした。
「じゃあ、歩く練習をするぞ。つながってない脚の方から出すぞ。」
なにかしていないと変なことに頭がまわってしまうので、さっさと練習を始めようとした。1、2、1、2とゆっくり歩いていった。倉田は、広瀬がふらふらと安定していないことは分かっていたが、これ以上体を近づけることも出来ずにいた。
あっ、ヤバい!倉田は、広瀬の下に体を入れ受け止めた。いてーっと思っていると広瀬と目があった。
「怪我はないか!?」
広瀬が頭をこくんこくんと縦にふる姿を見て安心した。広瀬は、あわてて倉田の上からどき、足を結んでいるひもをほどいてくれた。倉田が起き上がると、擦り傷が腕などに出来ていた。
「大丈夫!?」
広瀬は慌てて聞いてきたが、倉田はかすり傷だから気にするなと答えた。むしろ、俺が、ちゃんとしなかったのが悪いんだし…
大丈夫だという俺の言葉を広瀬は無視して、水道まで連れて行き、傷口を洗わされた。汚れが垂れて服に着きそうになると、広瀬はハンカチでふいてくれた。
「ハンカチが汚れるだろ。」
と言ったのだが、これも無視され、ハンカチで汚れをふかれていく。洗い終わったら、広瀬が保健室に連れて行こうとする。大丈夫と言おうとしたが、今回は目で脅されと素直についていった。
保健室には誰もいなかった。広瀬は、手際良く手当てをしてくれる。
こいつって、この間俺がおばあさんの手伝いしていたときも見捨てたりしなかったし、勉強も教えてくれるし、ハンカチを汚してまで手当てしてくれるし、本当に優しいな。
そういえば、いま、保健室に二人きりなんだよね。意識し出すと変な妄想が止まらなくなってしまった。広瀬の手が触れるたびに心臓がバクバクいった。
手当が終わり、クラスの皆の方に戻ると、
「二人でどこ行ってたんだよーらぶらぶだな!」
とはやし立てられる。
「そんなんじゃない!!」
先ほどまでの事なんかも頭によぎり、振りはらうように躍起になって否定した。
練習をやり直す。今度は、くっついて肩をしっかりと掴んだ。また倒れて、広瀬を怪我させるわけにはいかない。
やらけーてか、こんなくっついて下心あるってばれないか!?って下心でくっつくわけじゃないんだけどー!!
倉田は、足元をみてひたすら煩悩を振り払った。
しかし、広瀬に肩を掴まれまた、心臓がバクついた。その後何度も深呼吸を繰り返し、なんとか、走れるようになるまで練習し続けた。
 




