小休止
琥珀の墓参りに、さくらの故郷である徳島を訪れた2人。
宿を取った先の旅館の女将と、さくらは知り合いで、しかも朔と同族である『森の民』であることが判明。そこはさておき、2人は、そこでしばしの休息を取ることにした。
さくらと、この旅館の女将が話をしている間、朔はなにやら落ち着かなかった。
気配だ。
やはり同族の気配がする、近くに、何者かがいるのかも知れない。
警戒しながらも、片方はさくらの会話を聞く。
話の内容からして、さくらと女将は知り合いのようだ。
「今年も、またお世話になります。澪君も、こんにちは」
さくらが少し屈んで微笑みかけると、女将の足に、しがみついていた少年が振り向いて『いらっしゃい』と笑った。
「おりこうさんねぇ、澪君は幾つになったのー?」
「5つ!」
もにもにと小さな手を動かして、身振りでそう伝える澪に、さくらは悶絶する。
「かわいーいっ、やっぱり子供って好きだなぁ」
弾けるように笑う、さくらの意外な表情に、朔は一つ瞬く。
「さくらちゃん、そちらの方は…?」
微笑みながら尋ねる彼女に、さくらは幸せそうに笑った。
「この人は、朔っていってね…あたしの一番大切な人なんだ。椿さんと同じ『森の民』だよ」
瞬間、朔は固まる。
(『森の民』……そうか! この女の気配だったのかっ)
「あ、あの」
びくっと、固まった朔に、椿は慌てて付け足した。
「大丈夫、長には伝わりません……安心して? ここには、結界が張ってありますから」
「ありがと、椿さん」
話からして、危なかったらしいことを悟り、ほぅ、とさくらが安堵の息をついた。
「いいのよ、昔のよしみだもの。あなたの家には、よくお世話になったから。お部屋の方に、案内しましょうね」
椿は、廊下を静々と歩いてゆく。
「お夕餉、でき次第にお持ちしますね? それでは、ごゆるりと」
そう言うと、椿はにっこりと笑って襖を閉めた。
「静かね」
ぽつりと呟いたさくらに、朔もどうしていいか分からず、小さく返事を返す。
「ああ」
二人きりになり、どこかくすぐったいような静寂を感じて、さくらはテレビを付けた。
「……さくら」
朔が甘えてくる。
テレビではバラエティ番組が流れていて、芸人の、とりとめもない笑い声が聞こえている。
そんなギャップに、さくらは内心笑った。
「ダメよ、離して? こんなとこじゃできないわ?」
「やだ……離さねぇ」
首筋に口づけられ、彼の熱い息がかかる。
「や、ん……ダメ、朔」
背中からまわった手が、さくらの胸元に触れようとした瞬間‐‐――。
「ねーねー、お兄ちゃん」
ぐい、と朔のトレーナーが小さく横に引っ張られた。
「ぶっ!」
バランスを崩した朔は、みごとに床へご対面。
「てーめーえ〜、ぬぁにすんだよ、このちびっころっ」
朔は、恨みの籠もったジト目で侵入者を睨む。
「澪君か…どうしたの?」
(もう少しだったのに……はぁ)
さくらも溜息混じりに、飛び込んできた侵入者・基い澪を手のひらに拾い上げた。
「隠れんぼ、隠れんぼしてたの、一緒に遊んでー」
悪気はなかったらしく、無邪気にえへー、と笑う澪。
それと正反対に、ぴょん、と膝に飛び降りた茶色い小ウサギに、朔は顰め面。
「しょーもない、いっちょ遊んだげるっ」
きゃっきゃとはしゃぐ2人を見ながら(主に澪の方)朔のこめかみに、青筋が数本浮く。
(このガキ……あなどれねぇっ)
「かくれんぼ、しよ!」
「おわ! お前、いつの間にっ」
いつの間にか、自分の膝の上にいた澪に、朔は驚いて尻餅をついてしまった。
「お兄ちゃん、溜息ばっかりはダメなんだよ?」
「んだよ?」
澪は、小さな前足で朔の膝を叩きながら得意気に言った。
「幸せが逃げちゃうの。めっ」
(ガ、ガキに『めっ』とか言われた‐‐―――っ)(怒)
「あーあーあ、朔…とりあえず、行ってくるね?」
「バイバイお兄ちゃん!」
憎たらしく笑顔で手を振る澪に、朔は更にへこむ。
げしょ…と自己嫌悪に陥っている朔を放っとらかして、さくらは澪と庭に出て行ってしまった。
こんにちは、維月です。
朔とさくら、段々きわどくなって来ちゃったなー(汗)
どうなんだろう……。
拙作に、よろしければ感想などいただければ幸いです。
こんな作品ですが、よろしくです。