表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

未来へ…

朔とさくらが棠国へ戻って、3年が経っていた。

紆余曲折の果てに幸せを手にした二人。

未来への架け橋。

世代が替わり、時代が変わっても、梁呂の乱を治めた、元は人間だった勇敢な少女の話は、後々まで語り継がれていった。

さくらと朔が棠国へ戻って、3年が経った。

そして…。


「パパちゃん、あっかんべ〜」

「くぉら、また脱走する気かおのれは」

がし、と背を押さえられ、子供は無惨にも地面に押しつけられることになる。

「うっ、やあ〜っ」

「ったく、紐でも付けときたいぜ」

脱走した息子を抱きあげて、朔は溜息した。

「もう逃げないか?」

「やら」

また溜息。

現在、母親であるさくらが留守なので朔が子守り中なのである。

(はぁ〜……ガキの世話って大変)

「おあーしゃんは?」

「んー?」

むに、と鼻をつままれて、朔は濁音気味の声で応える。

「んあいのの、はにゃ…はにゃせ」(買い物、鼻、離しやがれ)

「いないの? ぼく、おあーしゃんさがすっ」

やっと離してくれた鼻をさすって、朔は渋々彼の物見行に同行することにした。


話題は戻るが、朔とさくらの間には一人息子・かなでが生まれていた。

3つにしてはやんちゃ坊主で、利発な彼に親となった二人は毎日がてんてこ舞い。


「おあーしゃーん?」

てこてこと歩いていっては、木の虚に頭をつっこんだり。

枯れ葉の裏を返して呼びかけてみるが、結局見つからずに、機嫌を損ね始める奏。

「あえ、おとーしゃん?」

朔はというと、切り株に腰掛け、飽きてしまったのかポケ…と空なんかを見ている。

当然、奏のことは忘れている。

「おとーしゃん、いない…」

(やっぱガキだな〜、気づいてねぇし)

しょげた奏は、ぽしゅんと柔毛の黒い子兎になり、耳を毛繕いする。

「おとーしゃん、ぼく、きらいなの?」

枯れ葉を銜えて、ころころと砂の上を転がるしぐさが可愛すぎて、出るに出られない、バカ親な朔が物陰にいた。

(我が息子ながら、可愛い。ま、俺には劣るけど)

「朔ちゃん? なーにしてんのかな?」

「子守りです…ってさくら!? つーか早っ、もう買い物済んだのか?」

うだうだと物陰で悶えていた朔は、さくらの冷たい一瞥に跳ね上がってしまった。

「あたりまえでしょー? 本当は奏も連れていきたかったんだけど、まだ人混みになれてないし。早く戻ってこないと、朔ちゃん見習って悪いコになっちゃう」

「点検、俺の嫌いな人参が入ってないか」

もそもそと買い物袋を漁り始めた朔の足を、さくらは踏みつけた。

「漁らないの、行儀悪いわねっ…悪いコっ」

「ひ、ひでぇな、さくら…俺そんなに悪い子じゃないだろ? 夜以外は」

「ヘンなこと言わないの! 教育に悪いでしょ。文句言ってないで、これ持っていってね? あたしは奏抱っこするから」

「あう?」

きょとんと首を傾げる奏。

幼いのが幸いで、会話の内容が理解できていない。

「へいへい(さくら、奏が生まれてから変わったな…俺、悲しい)」

朔は苦笑して荷物を両手に持つと、玄関へ向かっていった。

「おあーしゃん(お母さん)」

もにもにと両手を伸ばして、奏はさくらの足に抱きついて笑う。

「あら〜? 泥んこじゃない、奏ぇ。おフロ入らなきゃ」

「やらよー、おフロやら〜」

にーっと笑うやんちゃ息子に、昔見た朔の満面の笑みが重なって、さくらは思わず溜息した。

(ほーんとそっくり、瓜二つなんだから)


ねえ、琥珀。

きっと、アンタが引き合わせてくれたんだよね。


色んなことがあったよ、色んな人に出会って別れたよ。

結局、あたしは人間を棄ててしまったけど。


人間でいたら、こんな道は絶対歩かなかったと思う。

始まりは徳島。

そして、あの場所から始まった。


出逢いと別離の果てに、あたしはかけがえのないものを見つけたの。

大切な人の傍で、『生きる』と言うこと。


Rabbitぱにっく、もう本当に毎日がパニック状態。


琥珀、それにお父さん、お母さん。

あたし、ここで生きてるよ。


約束、まもったからね。


「おあーしゃん、かえろ?」

「あ、うん。お父さんも待ってるし、帰ろっか?」

「うん!」

さくらは石青の空を見あげて深呼吸し、ひとしきりの風に身を任せた。

『Rabbitぱにっく』最終章です。

紆余曲折の果てに幸せを手に入れたさくらと朔。

ここまで読んでくださった読者様方、本当にありがとうございました。

本作について質問などがございましたら、何なりと申しつけくださいませ。

それでは。

2006.4.26 維月十夜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ