そして、伝わる
無事帰還を果たしたさくら。しかし‐―‐彼女はもう『人間』ではなかった。それに、もう一つの新事実が判明して!?
「なにぃ‐‐――――――‐‐っ!?」
早朝の城館を揺るがせたのは、間違いなくこの城の主である弖阿だ。
「ばあちゃん、うるさ…」
――‐ゴッ!
両耳を伏せてぶうたれる紫生だが、弖阿の無言の鉄拳に敢えなく撃沈。
「さくら、お主……妾と同じ気配がするっ、一体、なにがどうしたんじゃっ!?」
彼女の突如な変化に、城中・城下の者すべてが顔を見合わせては首を傾げていた。
「だから……叔母上、結局は全部朔のせいですって」
「なっ、なにおうっ!」
さくらを板挟みにして、歯噛みし合う二人。
あっという間に取っ組み合いの喧嘩が始まった。
弖阿は肩を竦めて、障子戸に凭れていた刹霞に問いかける。
「なにか、分かることはないか? 人の娘を娶ったことのあるお主なら、なにか知っているのではないかと思ったのだよ」
視線が集まり、刹霞は短く咳払いした。
「前代未聞…としか言いようがない。人が我らと同族に変化するなど……」
彼にしても分からないことなのだろう、口調には、いつもの自信が見受けられない。
「父上! さくらを怖がらせるなよっ、ほらっ、泣きそうじゃないか!」
「え!? いやさくら、別にお主が悪いという訳じゃっ」
ぽろぽろと泣き出したさくらに、刹霞は大慌てだ。
「それは分かるんだけど……あたし、云わなきゃいけないことがあるの」
「男衆、ちょっとどきな。さくら? 泣くんじゃないの、なにがあったんだい?」
それでも、ぽろぽろと涙をこぼす彼女に、一同は騒然となる。
「さくら、大丈夫か…どこか苦しいのか?」
朔は心配そうにさくらを抱き寄せるが、彼女は小さく頭を振った。
「ううん、今みんなに伝えるんだと思ったら…なんだか嬉しくて」
「……さくら……」
「大丈夫よ、一人で言えるから」
「さくら、なにがあった…話しておくれよ」
「あのね…」
懇願する弖阿に、さくらは口を開く。
騒めきが、一瞬おさまった。
すっくと立ちあがったさくらは、嬉しそうに…でも少し悲しみも混ぜた笑顔で真実を告げたのだった。
「聞いて、あたしね……朔の子供ができました。きっと、だから変成が起きて、人間の身体が剥がれたんだと思うの」
「……なんてこと‐‐―――‐どんなに苦しかったろう、お前、そんな、なんて痛いことを」
弖阿は、ひしとさくらを抱き締めて涙ぐむ。
「人間を棄てたのだろ? なんて無茶をしたんだ。死んでいたかも知れないんだぞ?」
「こうするしか、なかったの……じゃないと、あたしも…お腹の子も助からなかったわ。人間の身体を棄てたのは、もう後悔してないわ」
「本当にお前という子は……無茶ばっかりだよ。心配する者の身にもなってくれ、命がいくつあっても足りやしない」
「弖阿さん……」
「今宵は宴だ! さくらの寿を祝っての無礼講じゃぁ!!」
涙を拭って微笑むと、彼女は城を揺るがすほどの大音声で言った。
どうも、維月です。
ついに(やっと?)、朔とさくらがくっつきます。
このまま平和にことが進めばいいのですが…現実はそう甘くはないのです。ラストまであと少し…乞うご期待くださいませ☆