天泣
蘭渓の襲撃によって裂かれたが、遂に再会を果たしたさくらと朔。
蘭渓は死んだ。
一連の騒動は、静かに幕を閉じたのだった!
一人だけ異なる存在。
生きられる時間も、持ち得る能力も、何一つ持っていない。
人間。
似て非なる者‐‐―――‐姿こそ同じだが、非力な生き物。
さくらはそれを理解しながらも、重圧に耐え、今までなんとか踏み止まっていたのだ。
「分かるかっ……想いの強さだ! コイツはな、血へど吐いて死にそうな目に遭ったってのに、テメエのことばかり心配しやがるっ。なのにだ! 探しに来ねぇたあどういうこっだ!!」
「……!?」
朔は目を見張る。
忘れていた。
一族に固執するうち、自分自身だけしか見えていなくて。
何より大切なはずの、彼女のことを思いやれなかった。
いや‐‐――‐もう、そんなものは理由になどなりはしないだろう。
「俺はバカだな……謝るのは俺の方だ。さくら、お前の心を一人にした、俺が…悪かったんだ」
朔は涙を溜めた瞳で、さくらを振り向いて笑う。
「分かったら、大切にしろ! ……泣かしたら、俺が許さねぇ。いつでも取り上げに来るからな!」
「ああ‐‐―――‐‐肝に銘じておくよ」
黒鋼に背を小突かれて、朔は地べたに頽れる。
「朔ちゃん、もういいの……いいから、泣かないで」
「すまない―――‐‐さくら、本当にすまないっ」
声を上げて号泣する朔の肩を、さくらは優しく、愛おしげに抱き締める。
朔ばかりが、悪い訳じゃない。
油断した、自分にも非はあるのに。
この優しいウサギは、全ての罪を被ったのだ。
「雨……? 晴れてるのに。お天気雨だわ」
晴れ間から天地に降る雨は、神の泪。
天泣‐‐―――‐‐。
朔を抱き締めながら、さくらは小さく息を吐く。
それは、安堵の息。
これで、一連の騒動は終焉を告げた。
ひそかな雨雫が、さくらの目尻を伝っていった。
こんにちは、維月十夜です。
『Rabbitぱにっく』32部です。
再会を果たして、ラブモードに突入した二人ですが……黒鋼は、さくらを諦めていません。実は。
やれやれです。(笑)